新居章年リポート
2008年11月4日(火)
いつもご声援ありがとうございます。08年シーズンのF1も、ついに最終戦を迎えることとなりました。最後の舞台は、南半球のブラジル・サンパウロ。一年間の集大成を披露すべく、乗り込んだブラジルGP。2年ぶりに表彰台を獲得した08年シーズンを締めくくる戦いとなった第18戦ブラジルGPの模様を報告しましょう。
体調不良を完治したヤルノが予選2位獲得。今季投入したものの中から最適なものを、と選んだパッケージがフィットした。ある意味、この結果はブラジルへ出発する前から得られたものとも言える。
●昨年よりも涼しい気候でワンランク硬めのタイヤをいかに使うかがポイント
当初の予定では、コンストラクターズ選手権4位の座を賭けて最終戦に乗り込みたかったところですが、残念ながら、すでに4位はルノーで確定。しかしながら、まだ5位は確定しておらず、ドライバーたちにとってはドライバーズ選手権もかかっていましたから、我々はいつも以上に高いモチベーションでブラジル・サンパウロに乗り込みました。
新しいパーツはすでに実戦投入済みで、最終戦はこれまで使用してきたエアロダイナミクスパッケージの中からブラジルGPに最適だと思われる組み合わせをいくつか用意しました。
今年のブラジルGPで懸念していたのは、空模様。週末を通して、不安定であるとともに、やや涼しくなることが予想されていたので、タイヤの使い方が難しくなるのではないかと考えていました。というのは、今年のブラジルGPに持ち込まれたタイヤは昨年よりもワンランク硬い、ソフトとミディアムだったからです。昨年は路面温度が50℃以上に達する猛暑の中、スーパーソフトが悲鳴を上げましたが、今年は涼しいコンディションでミディアムタイヤをいかに温めるかがポイントでした。
ピット作業そのものは、こうした日頃の練習の積み重ねもあり、大きなトラブルとなるものはなかった。しかし、レース本番では、他車との位置関係で順位をドロップしてしまった。
●ヤルノの体調は回復。フリー走行初日は幸先のいいスタート
金曜日のフリー走行に向けて、我々がもっとも心配していたことは、ヤルノの体調でした。というのも、ヤルノはブラジルに入ってから体調を崩し、熱を出していたからです。そのため、グランプリ前日の木曜日は通常であればサーキットに来てミーティングなどさまざまなスケジュールをこなさなければならなかったのですが、今回はホテルで休養をとることに専念してもらいました。チームドクターの懸命の処置もあって、ヤルノは元気な姿でサーキットに戻ってきました。
さらに我々が準備してきたTF108の初期セッティングもインテルラゴス・サーキットに適したものとなっていたため、午後のフリー走行2回目では3番手のタイムをマーク。前日までの不安を吹き飛ばす、幸先のいいスタートを切ることができました。
対して、体調に問題はなかったものの、セットアップに苦しんだのがティモでした。ニュータイヤでの感触は悪くなかったのですが、その後どんどんグリップ力が落ちるという症状に見舞われ、ブレーキングで苦労していました。しかし、金曜日は2台ともクルマにトラブルなく、予定のプログラムをすべてこなすことができたので、収集したデータを参考にして、土曜日には最適なセットアップをTF108に施すことができると思いました。
暫定トップに立ってからの最初のピットインではハミルトンの前でコース復帰。マクラーレンとの接近戦で惜しくもコースアウト。その後もアクシデント等の発生にも関わらず、頑張り抜いて8位でフィニッシュを果たした。
●Q1最初のアタックでヤルノの速さを確信。作戦も当たり3年ぶりのフロントロウ
クルマの仕上がりが悪くないことは、金曜日のフリー走行でヤルノが3番手でわかっていたのですが、予選で2番手に入るとは想像していませんでした。とはいえ、これは偶然ではなく、予選第1ピリオドで硬い方のタイヤであるミディアムを履いた最初のアタックでヤルノが早くも2番手となるタイムをマークした時点でわかっていたことでした。そのため、我々はヤルノのタイヤを温存することにして、第1ピリオドでのタイムアタックを終了しました。
この作戦は功を奏し、ヤルノは第2ピリオドに入ってから、すべて一発のタイムが出る軟らかい方のソフトタイヤでアタックを行うことができました。第2ピリオドでの2回目のアタックは風の影響を受けて、10番手に終わりましたが、手応えはつかんでいました。そして、最終ピリオドではレースに向けて積極的な戦略をとったことで、予選2位。3年ぶりにフロントロウに戻ってくることができました。
好調なヤルノとともに最終ピリオドに進出したティモは、午前中のフリー走行3回目の段階から燃料が軽い状態ではタイムが出ていたものの、燃料をある程度、搭載すると苦しんでいたことと、日曜日の天候の予想が依然として不安定であったことから、ヤルノとは異なる戦略で最終ピリオドに臨むことにしました。
燃料搭載量によって変わるクルマのバランスに苦しんでいたティモは、早めのタイヤ交換が功を奏し順位アップ。最後の雨ではタイヤ無交換作戦で3つポジションを上げたが、最終ラップでは、あとわずかのところで2台に抜かれての6位。
●表彰台は逃したものの、波乱のレースで2台入賞は大きな自信
ヤルノが2番手からスタートするということで、我々は表彰台の中央を狙ってレースに臨みました。スタートも無難にこなして、1回目のピットストップまではヤルノは2番手をキープして順調にレースを進めていました。しかし、1回目のピットストップでヤルノが作業を終え、ピットアウトしようとしたとき、ファストレーンを走行していたキミ・ライコネン(フェラーリ)が接近していたため、ロリポップ担当のスタッフはヤルノをピットアウトさせることができませんでした。
なんとかルイス・ハミルトン(マクラーレン)の前でピットアウトして、ポジションをひとつ失っただけで済みましたが、その後、1コーナーでヤルノはオーバーラン。ハミルトンにもオーバーテイクされてしまいました。さらに、その直後の2コーナーでスピンを喫して、ティモとセバスチャン・ボーデ(トロ・ロッソ)にもかわされてしまいました。
一方10番手からスタートしたティモは、路面が乾きだしたため、早めにピットインさせてドライタイヤにスイッチしていたことが功を奏して、1回目のピットストップを終えると8番手までポジションアップしていました。その後5番手まで順位を上げて、8番手のヤルノとともに終盤は7番手を走行していました。
ところが残り10周を切ったあたりから、再び雨が降り出してきたのです。我々はドライバーと無線で交信しながら、最終的にドライタイヤのままでチェッカーフラッグまで走りきる作戦に出ました。その作戦自体は間違っていたとは思っていません。確かにあと1周分天候がもってくれていたら、理想的な展開でした。それでも、ティモは最終的にさらにひとつポジションを上げて6位でフィニッシュし、それまで順位を上げていたヤルノも最終ラップでヘイキ・コバライネン(マクラーレン)に抜き返されたものの、結果的にポジションはキープしてレースを終えたからです。
願わくば表彰台に上がって08年シーズンを締めくくりたかったところですが、最終戦でフェラーリ、マクラーレンとともに2台揃って入賞できたことは、チームにとって、またひとつ自信となったと思いますし、来年につながる戦いができたと確信しています。
来年こそは、トップ争いに加わることができるチームとなって、またF1グランプリに戻ってくるつもりでおりますので、ご期待ください。そして、今年も一年間、ご声援ありがとうございました。
インテルラゴスでの新居章年。今季最終戦でダブル入賞を達成し、昨年から大きく進化した1年を締めくくった。明日からは来季のクルマの開発に全力を注いでいく!