Round8
全日本ラリー選手権 第8戦 高山
レポート
全日本ラリー選手権 第8戦 高山 レポート

テクニカルな舗装林道コースを舞台に争われた伝統の一戦、
一時はライバルを凌ぐ速さを見せJN5クラス3位表彰台を獲得

 2016年シーズンの全日本ラリー選手権第8戦高山「M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2016 Supported by Sammy」が、10月15日~16日に開催され、TOYOTA GAZOO RacingチームのTGR Vitz GRMN Turbo(大倉聡/豊田耕司組)が、JN5クラス3位、総合9位で完走を果たした。
 第6戦嬬恋以来の舗装路が舞台となる第8戦は、道幅が嬬恋よりも狭く、曲がりくねった中低速コーナーが中心のコース構成となる。ドライバーの大倉選手は、「道幅がそれほど広くないため、走行ラインの選択肢があまりなく、タイム差が付けにくい難しいコースです。前走車が掻き出した泥や砂利が路面に出て滑りやすくなることもあるので、ドライビングには細心の注意が必要です」と、今回のラリーの特徴を説明する。

ラリーパークで15日(土曜日)に行われたセレモニアルスタートでは、選手と観客がハイタッチしながら競技車両を送り出す。恒例のシーンだ。
ラリーパークで15日(土曜日)に行われたセレモニアルスタートでは、選手と観客がハイタッチしながら競技車両を送り出す。恒例のシーンだ。

 15日(土曜日)に快晴のもと、アルコピア・ラリーパークで熱戦の火蓋が切って落とされた。「スタート直後からかなり激しく攻めました」と振り返った大倉選手は、午前中のスペシャルステージ(SS・タイムアタック区間でありタイムが計測されるコース)から好タイムを連発。選手権ランキングのライバルを上回る2位で初日を終えた。「シリーズチャンピオンを争っている柳澤選手を上回ることができましたが、最後のスペシャルステージで思ったように走れずに、差を縮められてしまいました。明日に向けて、もう一度集中力を高めていきます」と、気を引き締める。

ラリーパークで15日(土曜日)に行われたセレモニアルスタートでは、選手と観客がハイタッチしながら競技車両を送り出す。恒例のシーンだ。
ラリーパークで15日(土曜日)に行われたセレモニアルスタートでは、選手と観客がハイタッチしながら競技車両を送り出す。恒例のシーンだ。
アルコピアのラリーパークには駐車場を使ったスペシャルステージが設定され、観戦ステージに。砂埃を巻き上げて走る競技車両を高台から堪能できる。
アルコピアのラリーパークには駐車場を使ったスペシャルステージが設定され、観戦ステージに。砂埃を巻き上げて走る競技車両を高台から堪能できる。

 16日(日曜日)ラリー2日目、「2位のポジションを守るために、全力でアタックします」と語っていた大倉選手だったが、スペシャルステージ9で柳澤選手に逆転を許し順位は3位に。それでも残されたステージをミスなく走り切り3位でゴールし、表彰台の一角を確保した。「2日目に追い上げられる苦しい状況でした。クルマが頑張り、安心して攻めることができていただけに、2位のポジションを守りきれず残念です」と、フィニッシュ後に大倉選手は悔しさをのぞかせた。それでもここまで全てリタイアすることなく完走を続け、今回も抜群の安定感を見せてくれた。

アルコピアのラリーパークには駐車場を使ったスペシャルステージが設定され、観戦ステージに。砂埃を巻き上げて走る競技車両を高台から堪能できる。
アルコピアのラリーパークには駐車場を使ったスペシャルステージが設定され、観戦ステージに。砂埃を巻き上げて走る競技車両を高台から堪能できる。

 チーフメカニックを務める豊岡悟志は、「今回のラリーはライバルと互角のバトルができましたね。競技車両の開発が進んだことはもちろんですが、大倉選手の成長もあったと思います。そして、ドライバーが乗りやすいクルマに仕上げられたと感じることができました」と、笑顔で語った。

めざせ凄腕メカニック~「いいクルマづくり」への道~Vol.08

 Team TOYOTA GAZOO Racingにおいて、マシンの製作・整備を担当するのは、凄腕技能養成部の社員メカニックたち。今回のラリーには彼らに加え、トヨタ工業学園高等部からの3名の訓練生がサービスグループに参加した。

トヨタ工業学園の3名の訓練生たち。初めてのラリーで有意義な体験だったと語る。
トヨタ工業学園の3名の訓練生たち。初めてのラリーで有意義な体験だったと語る。
先輩である社員メカニックの指導を受けながらタイヤの脱着を行う学生たち。サービス作業はラリーの成績に直結するだけに、緊張感が漂う。
先輩である社員メカニックの指導を受けながらタイヤの脱着を行う学生たち。サービス作業はラリーの成績に直結するだけに、緊張感が漂う。
視察に訪れた田中守学園長が3人に激励の言葉をかける。トヨタ自動車のメカニックとして羽ばたいていく時に、今日の経験が役に立つに違いない。
視察に訪れた田口守学園長が3人に激励の言葉をかける。トヨタ自動車のメカニックとして羽ばたいていく時に、今日の経験が役に立つに違いない。

 チーフメカニックを務める豊岡悟志は、17歳の訓練生がチームに参加した理由を以下のように説明する。「トヨタ工業学園はトヨタ自動車の中核になる人材を育成しています。通常は生産現場などで実習しますが、今回はモータースポーツの現場でしか得られない経験をしてほしいという意図もあり、3名の訓練生の参加を受けいれました」。
 今回参加した3名は全員が1999年生まれの高等部2年生。ジャッキアップやタイヤの取り外しなど、サービスにおける基礎的な作業を経験することになった。相良優斗君は「自分たちは一般の整備作業しかできないのですが、プロのメカニックの皆さんの作業を目の当たりにして、『自分ももっとできるようになりたい』と強く思いました」と、先輩メカニックたちのマシン整備風景に関心しきりだ。
 木村翔君は「これまで経験したことのないことばかりで、難しい局面もありました。でも、先輩から教えていただいたり、気がついたことは全てをメモに残して、今後の自分の力にしたいです」と、真剣な表情で語る。中井理杜君も「作業を見ているだけで興奮しました。まだ基本的なことしかできないのですが、ひとつひとつに一生懸命没頭するのが楽しいです」と、目を輝かせていた。
 また、ラリー中にはトヨタ工業学園の田口守学園長もサービスパークを訪問し訓練生たちを激励していた。「今回選ばれた3名には貴重な経験を得てきてほしいですね」と語ってくれた。
 月曜日からのトレーニングを含めて1週間のラリーチーム帯同を終えた3人は、3位を獲得した大倉選手、豊田選手と表彰式後にがっちり握手を交わした。
 「難しい現場でクルマに実際触って作業ができたのは、すごく貴重な経験でした」と語るのは中井君。相良君は「たったひとつのミスが、コンマ1秒を争う世界では結果に響いてくる世界。一瞬も集中力を切らしてはいけないと学びました」と、振り返る。木村君は、「改めてモータースポーツへの興味が深くなりました。まだ免許を取得できないのですが、ライセンスを取って、ぜひラリーにも参加したいです」と、ラリーの世界に戻ってくると誓っていた。

トヨタ工業学園の3名の訓練生たち。初めてのラリーで有意義な体験だったと語る。
トヨタ工業学園の3名の訓練生たち。初めてのラリーで有意義な体験だったと語る。
先輩である社員メカニックの指導を受けながらタイヤの脱着を行う学生たち。サービス作業はラリーの成績に直結するだけに、緊張感が漂う。
先輩である社員メカニックの指導を受けながらタイヤの脱着を行う学生たち。サービス作業はラリーの成績に直結するだけに、緊張感が漂う。
視察に訪れた田中守学園長が3人に激励の言葉をかける。トヨタ自動車のメカニックとして羽ばたいていく時に、今日の経験が役に立つに違いない。
視察に訪れた田口守学園長が3人に激励の言葉をかける。トヨタ自動車のメカニックとして羽ばたいていく時に、今日の経験が役に立つに違いない。

鎌田選手、11年ぶりの総合優勝!(JN6クラス)

 全日本ラリー選手権のトップカテゴリー、JN6クラスは、スバルWRX STIをドライブする鎌田卓麻/市野諮組が、シーズン初勝利を飾った。
 スタート直後から抜群のスピードで、鎌田選手がトップを快走。優勝候補のひとりだった新井敏弘/田中直哉組(スバルWRX STI)がトラブルで遅れる一方、勝田範彦/石田裕一組(スバルWRX STI)、奴田原文雄/佐藤忠宜組(三菱ランサーエボリューションⅩ)が、鎌田/市野組を追う。この日行われた6本のスペシャルステージのうち、4本を制した鎌田/市野組は、勝田/石田組に7.9秒差をつけて初日を首位で終えた。12.9秒差の3位に奴田原/佐藤組がつけている。

2014年はスバルBRZでクラスチャンピオンとなった鎌田選手だが、トップクラスでの全日本ラリー選手権総合優勝は11年ぶりとなった。
2014年はスバルBRZでクラスチャンピオンとなった鎌田選手だが、トップクラスでの全日本ラリー選手権総合優勝は11年ぶりとなった。

 ラリー2日目、タイトルを争う勝田/石田組と奴田原/佐藤組が好タイムを記録して追い上げるが、鎌田/市野組が前日までのポジションを守ってフィニッシュ。実に2005年以来となる全日本ラリー選手権トップカテゴリーでの勝利を手にした。「久しぶりの総合勝利で嬉しいです。最終戦も勝てるように頑張ります」と、喜びを弾けさせた。2位に勝田/石田組、3位に奴田原/佐藤組が入り、このふたりによるJN6タイトル争いの行方は、次戦に持ち越されている。

2014年はスバルBRZでクラスチャンピオンとなった鎌田選手だが、トップクラスでの全日本ラリー選手権総合優勝は11年ぶりとなった。
2014年はスバルBRZでクラスチャンピオンとなった鎌田選手だが、トップクラスでの全日本ラリー選手権総合優勝は11年ぶりとなった。

若手ドライバーが凌ぎを削るJN2クラス(注目のクラス)

小濱選手は今季ターマック(舗装路)ラリー3戦中2勝を挙げている実力の持ち主。今回の優勝でタイトル獲得の可能性を最終戦に繋いだ。
小濱選手は今季ターマック(舗装路)ラリー3戦中2勝を挙げている実力の持ち主。今回の優勝でタイトル獲得の可能性を最終戦に繋いだ。

 JN2クラスは排気量1600~2000cc。改造範囲が狭く、参戦しやすいカテゴリーのひとつである。そして、JN4と同様にトヨタ86やスバルBRZがエントリー車種の中心となっている。
 今回、JN2クラスで圧倒的なスピードを見せて、勝利を飾ったのは小濱勇希/馬場雄一組(スバルBRZ)。舗装路を得意としており、開幕戦唐津、第3戦若狭に続くシーズン3勝目となった。小濱選手はタイトル獲得の可能性を残しており、「最終戦まで可能性を残すには、今回絶対に勝たなければならなかったので、本当に良かったです」と、フィニッシュ後に笑顔を見せた。

小濱選手は今季ターマック(舗装路)ラリー3戦中2勝を挙げている実力の持ち主。今回の優勝でタイトル獲得の可能性を最終戦に繋いだ。
小濱選手は今季ターマック(舗装路)ラリー3戦中2勝を挙げている実力の持ち主。今回の優勝でタイトル獲得の可能性を最終戦に繋いだ。
明治選手はグラベル(未舗装路)ラリーの第7戦北海道で大量ポイントを獲得し、ポイントランキングをリードしている。
明治選手はグラベル(未舗装路)ラリーの第7戦北海道で大量ポイントを獲得し、ポイントランキングをリードしている。

 2位は明治慎太郎/北田稔組(トヨタ86)。2倍のポイントが獲得できるシーズン最大のラウンド、第8戦北海道で勝利を飾っており、選手権トップにつける。しかし、今回のラリーで小濱/馬場組の先行を許したことで、JN2王者の決定は最終戦に持ち越された。「最終戦新城はしっかり対策を考えて、小濱/馬場組に挑みたいです」と、明治選手は早くも臨戦体制。新城ラリーは小濱/馬場組vs明治/北田組の一騎打ちにも注目だ。

明治選手はグラベル(未舗装路)ラリーの第7戦北海道で大量ポイントを獲得し、ポイントランキングをリードしている。
明治選手はグラベル(未舗装路)ラリーの第7戦北海道で大量ポイントを獲得し、ポイントランキングをリードしている。

もっとラリーを楽しもう

 世界的な観光地飛騨高山を舞台に開催されたハイランドマスターズ。観戦ステージとラリーパークが置かれた「ひだ舟山スノーリゾートアルコピア」には、今回もたくさんの観客が集まりました。観戦ステージの実況放送にはゲストとして、今回初めてGAZOO Ladyのふたりが参加。「緊張しました!」と語りながらも、楽しい場内放送となりました。
 また、ラリーパークでは2日間ともにジャンケン大会を実施。協賛各社やチーム、選手からも多くのスペシャルグッズが提供され、大いに盛り上がりました。

  • GAZOO Ladyのふたりがマイクを握り、実況放送に初参加。観客と一緒に選手たちに声援を送り会場を盛り上げた。
    GAZOO Ladyのふたりがマイクを握り、実況放送に初参加。観客と一緒に選手たちに声援を送り会場を盛り上げた。
  • スペシャルステージの合間にはジャンケン大会を実施。アルコピアのラリーパークには例年以上に多くの観客が集まった。
    スペシャルステージの合間にはジャンケン大会を実施。アルコピアのラリーパークには例年以上に多くの観客が集まった。

次戦予告

11月4~11月6日 全日本ラリー選手権 最終戦
「新城ラリー2016」

 11月4日~6日に開催される最終戦「新城ラリー2016」は、新城総合公園を拠点とし、観戦ステージでのラリー観戦だけではなく、国内外の有名なドライバーによるデモランやトークショーなど、ファンを楽しませてくれるイベントが盛りだくさん。また、ラリーパークには、クルマをテーマとするイベントパーク「TOYOTA GAZOO Racing PARK」を開設し、様々なアトラクションの実施を予定しています。