Round9
全日本ラリー選手権 第9戦 新城
レポート
全日本ラリー選手権 第9戦 新城 レポート

2台のヴィッツで参戦した今シーズンの最終戦、
揃ってリタイアという厳しい結果のなかにも多くの収穫を得る

 2016年シーズンの全日本ラリー選手権第9戦「新城ラリー2016」が、11月4日~6日に開催され、TOYOTA GAZOO RacingチームのTGR Vitz GRMN Turbo(松尾薫/豊田耕司組)は初日にリタイアを余儀なくされたものの、再出走を果たした2日目には全SS(スペシャルステージ・タイムアタック区間)を走り切った。また、全日本ラリーに初投入したCVT仕様のヴィッツ・TGR Vitz CVT(勝田貴元/足立さやか組)は2日目のアクシデントにより、リタイアとなった。

新城市の中心部で行われたセレモニアルスタートでは、地元の小学生たちの声援を受けて1台ずつラリーカーがスタートしていった。
新城市の中心部で行われたセレモニアルスタートでは、地元の小学生たちの声援を受けて1台ずつラリーカーがスタートしていった。

 シーズンを締めくくる、新城総合公園を拠点にしたターマック(舗装路)コースは、道幅の広い高速コースに加えて、曲がりくねったコーナーが連続する低速コースまでバリエーションに富んだステージ構成が特徴。チームは昨年の新城ラリー以来となる2台体制での参戦となり、今回初めてTGR Vitz GRMN Turboを松尾/豊田組がドライブする。「以前テストで乗った経験がありますが、とても軽快にドライブできるクルマです」と、松尾選手はその印象を語る。また、CVT(無段変速機)の新しいスポーツ制御を開発する目的で製作されたCVT仕様のヴィッツ・TGR Vitz CVTは、TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラムの若手育成ドライバー勝田選手がステアリングを握る。

新城市の中心部で行われたセレモニアルスタートでは、地元の小学生たちの声援を受けて1台ずつラリーカーがスタートしていった。
新城市の中心部で行われたセレモニアルスタートでは、地元の小学生たちの声援を受けて1台ずつラリーカーがスタートしていった。
勝田貴元/足立さやか組のTGR Vitz CVTは全日本ラリー参戦車としては初のCVT仕様。4度のクラスベストタイムをマークする速さを見せた。
勝田貴元/足立さやか組のTGR Vitz CVTは全日本ラリー参戦車としては初のCVT仕様。4度のクラスベストタイムをマークする速さを見せた。

 4日に新城市の中心部で行われたセレモニアルスタートを皮切りに、5日から本格的なラリーがスタート。ところが、チームにとっては予想外の展開が待っていた。最初のスペシャルステージ(SS・タイムアタック区間でありタイムが計測されるコース)で、松尾/豊田組がコースオフ。マシンのダメージが大きく、1日目の離脱を余儀なくされた。一方、TGR Vitz CVTのデビュー戦を任された勝田/足立組は4回のベストタイムを記録し、クラス2位で初日を終えた。「とてもバランスのいいクルマです。チームにも良いフィードバックができました」と、勝田選手はニューマシンの手応えを語った。

勝田貴元/足立さやか組のTGR Vitz CVTは全日本ラリー参戦車としては初のCVT仕様。4度のクラスベストタイムをマークする速さを見せた。
勝田貴元/足立さやか組のTGR Vitz CVTは全日本ラリー参戦車としては初のCVT仕様。4度のクラスベストタイムをマークする速さを見せた。

 しかし、ラリー2日目、JN3クラス2番手を走行していた勝田/足立組がSS13でアクシデントに見舞われて、リタイアとなってしまう。また、前日の最終サービスで修復し再出走を果たした松尾/豊田組は、2日目の全SSをしっかりと走り切った。「かなり滑りやすい路面もありましたが、マシンの感触を確かめながら、少しずつペースアップを図ることができました」と松尾選手はコメントしている。
 また、JN5クラスに参戦したTOYOTA GAZOO Racingの若手育成ドライバーの新井大輝選手(コドライバーは小坂典嵩選手)が、2位にヘイキ・コバライネン/北川紗衣組を抑えて優勝。シーズン2勝目を飾った新井選手は「自分のリズムを崩さずに、ペースをコントロールできました」と、フィニッシュ後に笑顔を見せた。

 チーフメカニックを務める豊岡悟志は、「2台とも残念な結果に終わりましたが、それでも非常に収穫の多いラリーでした。勝田/足立組は初日にベストタイムを数回記録し、CVT車両の可能性を見せてくれましたし、松尾/豊田組から得たセッティングのフィードバックは、我々に新たな視野をもたらしてくれたと思っています」と、今回のラリーでの成果を語っている。

めざせ凄腕メカニック~「いいクルマづくり」への道~Vol.09

 Team TOYOTA GAZOO Racingにおいて、マシンの製作・整備を担当するのは、凄腕技能養成部の社員メカニックたち。最終戦新城ラリーを終えて、チーフメカニックを務める豊岡悟志が激闘の2016年シーズンを振り返った。

Team TOYOTA GAZOO Racingを率いるチーフメカニックの豊岡悟志。
Team TOYOTA GAZOO Racingを率いるチーフメカニックの豊岡悟志。
選手との綿密なコミュニケーションは、競技車両の状態を把握し、限られた時間内で的確な整備作業をする上で重要なポイント。
選手との綿密なコミュニケーションは、競技車両の状態を把握し、限られた時間内で的確な整備作業をする上で重要なポイント。
新城ラリーでは、従来のTGR Vitz GRMN Turboに加え、CVT仕様のTGR Vitz CVTとの2台体制。今シーズンの集大成となる最終戦で、しっかり整備作業をやり遂げた。
新城ラリーでは、従来のTGR Vitz GRMN Turboに加え、CVT仕様のTGR Vitz CVTとの2台体制。今シーズンの集大成となる最終戦で、しっかり整備作業をやり遂げた。

 今シーズンは第2戦 久万高原で1勝を挙げたTeam TOYOTA GAZOO Racing。しかし、豊岡が最も印象に残っているのは、後半戦の戦い方にあったという。「確かに久万高原ではドライバーの大倉聡選手の頑張りもあって、勝利を記録することができました。しかし、この勝利はライバルの脱落があってという側面もありました。後半戦はドライバーとチームの連携がしっかりと取れるようになったこともあって、トップとしっかり“勝負"ができていた印象があります。チームとしての総合力が高くなったことを、改めて実感しました」
 また、それぞれのラリーで持ち帰った“新たな発見"を、マシン開発にフィードバックできたことも大きかったようだ。「最終戦は残念なリタイアとなりましたが、第8戦まではすべてのラリーで完走し、入賞することができました。目立ったマシントラブルもありませんでしたし、シーズン中に細かいフィードバックを加えたことで、TGR Vitz GRMN Turboはかなり進化を果たしました」
 凄腕技能養成部の社員メカニックたちの成長にも、豊岡は目を細める。「例えば、今回の新城ラリーでは初日のクラッシュの後、かなり大掛かりな修復作業を行う必要がありました。昨年であれば、『どうすればいいのか?』と迷ってしまう場面でしたが、今年はそれぞれが自分のやるべき仕事を理解して、自主的に動けるようになりました。そして、ラリー中のセッティングの調整や、チームの“声かけ"も徹底されていました。様々な要素が良い方向に向かったことが、今年の結果に繋がったのだと思います」
 しかし、成果とともに、豊岡は課題も感じている。「今年の全日本ラリー選手権参戦のテーマに、我々は『カイゼン』を掲げていました。マシンの進化やチームの強化に関しては、かなりの成果があったと思います。でも、走るたびに、今でも色々な気づきがたくさんありますし、まだまだ試してみたいこともあります。そして、我々の活動を市販車の“良いクルマ作り"に活かさなければなりません。それが今後の課題になってくるはずです」

Team TOYOTA GAZOO Racingを率いるチーフメカニックの豊岡悟志。
Team TOYOTA GAZOO Racingを率いるチーフメカニックの豊岡悟志。
選手との綿密なコミュニケーションは、競技車両の状態を把握し、限られた時間内で的確な整備作業をする上で重要なポイント。
選手との綿密なコミュニケーションは、競技車両の状態を把握し、限られた時間内で的確な整備作業をする上で重要なポイント。
新城ラリーでは、従来のTGR Vitz GRMN Turboに加え、CVT仕様のTGR Vitz CVTとの2台体制。今シーズンの集大成となる最終戦で、しっかり整備作業をやり遂げた。
新城ラリーでは、従来のTGR Vitz GRMN Turboに加え、CVT仕様のTGR Vitz CVTとの2台体制。今シーズンの集大成となる最終戦で、しっかり整備作業をやり遂げた。

勝田範彦/石田裕一組の全日本ラリー選手権タイトルが決定!(JN6クラス)

 全日本ラリー選手権のトップカテゴリー、JN6クラスは、スバルWRX STIをドライブする勝田範彦/石田裕一組が、今季4勝目を決めて、全日本ラリー選手権チャンピオンに輝いた。
 ラリーは波乱の幕開けとなった。勝田/石田組とタイトルを争っていた奴田原文雄/佐藤忠宜組(三菱ランサーエボリューションⅩ)が、SS2のスタートから2.3km地点の右コーナーでコースから外れ、立木に衝突してリタイアしてしまう。ライバルがいなくなった勝田/石田組は、新井/田中組(スバルWRX STI)を従えてトップを快走。

序盤から圧倒的な速さを見せチャンピオンを獲得した勝田範彦/石田裕一組のスバルWRX STI。
序盤から圧倒的な速さを見せチャンピオンを獲得した勝田範彦/石田裕一組のスバルWRX STI。

  2日目のSS12ではマシンの後部をヒットさせ、ヒヤリとする瞬間もあったが、サービスパークでマシンを修復。勝田/石田組は残されたステージも完璧なペースで走行し、2位の新井/田中組に22.5秒差をつけて、第3戦若狭ラリー以来となる勝利を手にした。3位には今シーズン初の表彰台となる、徳尾慶太郎/枝光展義組(三菱ランサーエボリューションⅩ)が入っている。
 厳しいタイトル争いを制し、3年ぶり7度目の全日本タイトルを手にした勝田選手は「最後までちゃんと走りきれるのかな…と心配になることもありましたが、フィニッシュできてホッとしています。久々の全日本タイトルですし、本当に嬉しいです」と、喜びを語った。

序盤から圧倒的な速さを見せチャンピオンを獲得した勝田範彦/石田裕一組のスバルWRX STI。
序盤から圧倒的な速さを見せチャンピオンを獲得した勝田範彦/石田裕一組のスバルWRX STI。

お馴染みのコンパクトカーが活躍するJN3クラス(注目のクラス)

 JN3クラスは排気量1500ccまでの2輪駆動車が参戦可能となっており、トヨタ・ヴィッツやマツダ・デミオ、ホンダ・フィットなど、街でもよく見かけるコンパクトカーが中心となる。しかし、JN2やJN1よりも改造範囲が広いため、コーナリングスピードは時に上位クラスを上回る。

今シーズン9戦中8勝という圧倒的な成績でチャンピオンを獲得した天野智之/井上裕紀子組のトヨタ・ヴィッツRS。
今シーズン9戦中8勝という圧倒的な成績でチャンピオンを獲得した天野智之/井上裕紀子組のトヨタ・ヴィッツRS。

 このJN3クラスで圧倒的な強さを見せ、第6戦モントレーの時点でタイトルを決めたのが、トヨタ・ヴィッツRSで参戦する天野智之/井上裕紀子組。昨シーズンのJN5クラスをトヨタ・ヴィッツGRMNターボで制した天野選手だが、今年の自然吸気エンジン搭載のヴィッツRSの方が、タイムが速いシチュエーションもあるという。「同じクラスのライバルだけでなく、総合順位も意識して走っています」と語る天野選手は、JN4やJN5など上のクラスを凌ぐタイムを記録することも珍しくない。
 また、今回の新城ラリーには勝田貴元/足立さやか組がトヨタ・ヴィッツのCVT仕様・TGR Vitz CVTで登場。2日目でリタイアに終わったものの、コースによっては天野選手を抑えてのベストタイムを記録。CVT搭載ラリーカーの可能性を示した。

今シーズン9戦中8勝という圧倒的な成績でチャンピオンを獲得した天野智之/井上裕紀子組のトヨタ・ヴィッツRS。
今シーズン9戦中8勝という圧倒的な成績でチャンピオンを獲得した天野智之/井上裕紀子組のトヨタ・ヴィッツRS。

もっとラリーを楽しもう

 新城ラリーのメイン会場となる新城総合公園には、全日本ラリーでも最大規模のラリーパークが開設され、ラリー開催期間中多くの観客が集まった。競技車両の観戦コースだけでなく、スペシャルゲストによるデモンストレーションランやステージイベントなどが行われ、たいへんな盛り上がりを見せた。また、第7戦 北海道に続き、「TOYOTA GAZOO Racing PARK」もオープン。WRCで活躍したトヨタ・セリカGT-Fourをはじめとする貴重なラリーカーの展示のほか、「TOYOTA GAZOO Racing WOMAN」ブースでは、カメラ講座&ラリー撮影体験会など、ラリー観戦の新しい楽しみ方を提案するイベントが人気を集めた。

  • TOYOTA GAZOO Racing WOMANブース前にはカラーリングの施された真っ赤なG'sアクアを初展示。
    TOYOTA GAZOO Racing WOMANブース前にはカラーリングの施された真っ赤なG'sアクアを初展示。
  • 最終日に新城総合公園で行われたイベントでは、モリゾウこと豊田章男トヨタ自動車社長が、2016年内発売予定のC-HRでデモ走行を披露するサプライズ演出も。
    最終日に新城総合公園で行われたイベントでは、モリゾウこと豊田章男トヨタ自動車社長が、2016年内発売予定のC-HRでデモ走行を披露するサプライズ演出も。

今回のラリーをもって2016年の全日本ラリー選手権はすべての日程を終了しました。Team TOYOTA GAZOO Racingの全日本ラリー参戦活動への1年間の応援、誠にありがとうございました。