スペシャル

レーシングドライバー木下隆之の
ニュルブルクリンクスペシャルコラム

Mr.ニュル(木下隆之)がTOYOTA GAZOO Racing ドライバーを語る 木下隆之×LEXUS RC Fドライバー土屋武士×片岡龍也×大嶋和也×井口卓人Mr.ニュル(木下隆之)がTOYOTA GAZOO Racing ドライバーを語る 木下隆之×LEXUS RC Fドライバー土屋武士×片岡龍也×大嶋和也×井口卓人

笑顔が素敵な井口卓人氏

井口卓人。その笑顔でチームを和やかにしてくれている。小さな顔にくしゃくしゃっとした笑顔を浮かべると、その場の雰囲気が温かくなる。
 彼のレーシングスーツにもトヨタ育成プログラムで優秀な成績を上げたことを記すTDPのロゴが輝いている。その後、SUPER GT500を戦い、SUPER GTではSTiに移籍し、いまではスバルでも欠かせないドライバーに成長した。
 けして見栄を張ることもなく、虚言することもない。素直にチームの和を重んじる。彼が松井孝允と蒲生尚弥と顔を寄せ合って談笑している様子は、まるで大学生が学食でナンパ話に花を咲かせているのか、週末の合コン話を企てているようにしか見えない。そんな彼も一旦コックピットに収まると、神経を集中させて戦いに挑むのだ。

 僕にとって井口は、彼がTOYOTA GAZOO Racingに加入する前の2009年の印象が強い。エリート街道を歩みだした井口が、名門トムスのシートを得て全日本F3選手権を戦い、シリーズランキングトップを快走していた時代に遡る。晴れてマカオF3に挑戦し、その印象は強烈なものになったのだ。
 あのコンクリートジャングルと化す難攻不落なマカオの市街地サーキットで、その後F1に登り詰める将来を嘱望されたドライバーと互角にやり合った。日本人最上位に輝いた。
 ライバルは蒼々たる逸材だった。
 現役F1パイロットのダニエル・リカルド。バルテリ・ボッタス。マーカス・エリクソン。故ジュール・ビアンキ。去年までマノーに乗っていたロベルト・メルヒ。LMP1ポルシェのブレンドン・ハートレー。DTMアウディのエドアルド・モンタラ…。こんな猛者どもと対等に渡り合った。日本人にもこんな元気なドライバーが現れたのだと感心したのである。
 テレビに映るそんな彼を見てまた印象を深くした。たじろぐことなく一歩も引かぬドライビングをしていた彼がヘルメットを脱ぐと、とてもレーシングドライバーとは思えぬ幼い顔を覗かせた。くしゃくしゃっとした笑顔が記憶に深く刻まれることになったのである。それがいまではTOYOTA GAZOO Racingに欠かせないドライバーの一人になっているのは感慨深い。

晴れてマカオF3に挑戦。日本人最上位に輝く

時にレーシングドライバーとは思えぬ幼い顔を覗かせる

木下「マカオでの活躍を記事にしてあげようか…」
井口「あざーす!」
木下「自分じゃ自慢しづらいだろうから…」
井口「あざーす。でも、僕、呑むといつも、自慢しちゃうんです」
木下「呑むと?」
井口「自慢しちゃうんです(笑)」
 井口と合コンしたことはないけれど、どうやら自慢しながら口説いちゃうらしいのだ…。


徹底したトレーニングフェチ

 井口のプライベートな姿で印象深いのは、徹底したトレーニングフェチであることだ。サーキットを離れれば常にジムで汗を流しているようなのだ。
木下「トレーニングの成果なのか、胸筋が太くなってきたな」
井口「鍛えると、すぐにオッパイが大きくなっちゃうんです」
 お洒落な井口は、スタイルも男らしくて立派である。
木下「筋トレでパンプアップさせてるんじゃない?」
井口「主にバランス系だけのはずなんですけど…」
木下「大胸筋も鍛えてる?」
井口「意識はしてないんですけど…」
木下「まったく?」
井口「合コンではピタT着て行きますけど…」
木下「あえてアピール?」
井口「そう言うことになりますね…(笑)」
 呑むとついつい自慢したくなるらしい。

遠征用のバックは数々のレースギアや着替えや衣服が丁寧に折り畳まれている

ただひとつ気になることがある。普段の彼を観察していると、潔癖性とも思えるほど、整理整頓が行き届いているのだ。
 レース移動日の前には、自らの手で身支度を整える。遠征用のバックを覗いたら、数々のレースギアや着替えや衣服が丁寧に折り畳まれていたことに驚いた。レースウィークの更衣室では、彼のラックだけが見事に整理整頓され、まるでブティックの棚のようになっているのである。
 レーシングドライバーには几帳面な男が多いのだが、それにしても度が越している。独身の身の彼ならそれでも構わないが、これから伴侶を得ようというのにこれでは嫌われるのではと心配するのである。

レーシングドライバーとして、男としての魅力がある井口ドライバー

木下「呑んだら彼女にも自慢するの? 几帳面も強要するの?」
井口「ええ、しちゃいます」
 でも誰にも好かれるのだから、それを覆って余あるレーシングドライバーとして、あるいは男としての魅力があるのだろう。
井口「今回の記事が良かったら、みんなに自慢しちゃおうっと!(笑)」
 そう笑う笑顔が憎めない。


 今年のTOYOTA GAZOO Racingは、例年にも増して濃い人材で固められている。LEXUS RC FをようするTOYOTA GAZOO Racing with TOM’Sチームもかなり暑苦しい。
 クソがつくほど真面目なエンジニアドライバーの土屋武士。酒を呑むと河村隆一になってしまう愛犬家の片岡龍也。朝まで酒盛りが続く大嶋和也、そして酒の力を借りると自慢話が止まらない井口卓人がタッグを組む。
 そんな彼らは、レースウィークになると酒断ちしている。シラフの彼らがどんなレースをするのか?興味津々である。


土屋選手、片岡選手、大嶋選手、井口選手の「木下隆之評」

土屋 武士

土屋武士

木下さんはニュルでのコンパスみたいな人ですね。
迷った時は「あっちだよ」って方向を示してくれるという存在です。いるだけで心強い。
現場ではその場を和ませてくれるのは本当に有難いです。
僕は特に没頭してしまう性質なので、ふと息抜きをさせてくれているのが木下さんの気配りなんだと思います。
なので、より没頭できます(笑)。

【経歴】
F3やフォーミュラニッポンでも活躍し、現在もスーパーGTにて参戦。スパ24時間やル・マン24時間レースの参戦経験も持ち、2016年はニュルブルクリンク24時間レースに挑戦。

片岡 龍也

片岡龍也

木下さんは年齢的にも一番リーダーですがとにかくチームをまとめるために努力してくれていると思います。
全く個性的なメンバーですが一人一人の事を理解して枠にはめずに個性を活かしたままでまとまるのは木下さんの作り上げた空気のお陰だと思っています。メンバー新人ですがガッツリ甘えさせて頂きます!
と、よそ行きのコメントをしたのですが木下さんからダメ出しが出たので素直なコメントしたいと思います。
木下さんがGTに出ている頃は知りませんので初め会ったのはS耐だったと思います。いつもビーサンの日に焼けた人だなと思いながらも直感的に挨拶をした方が良いと思いました(笑)
それからはサーキットで合う度に挨拶をしながら気付いたことがあります。木下さんは常にエントリーリストとペンを持っています。
挨拶した人に印を付けていました。ドライバーズブリーフィングの部屋の入口付近で(>_<)
なんて恐ろしい人だと思いましたね。時には挨拶が遅れると「挨拶に来ないからこっちから来ちゃったよ。」なんて言いながらまるでホラーです。
そんな感じでおもしろ恐ろしい木下さんとガズーレーシングで仕事をする事になるとは夢にも思いませんでしたがこれからも度肝を抜いてくれると期待しています。

【経歴】
F3、フォーミュラ・ニッポン、SUPER GT等で活躍。SUPER GTでは2015年までGT500で1勝、GT300では8勝を挙げている。2016年、ニュルブルクリンク24時間へ初参戦。

大嶋 和也

大嶋和也

まさに兄貴という存在。
すごく気さくで一緒にいるといつも腹筋がおかしくなりそうなくらい笑ってます笑
自分の父親より年上なのにあんなスピードでニュルを走っているなんて信じられません。

【経歴】
24時間レースは2010年から参戦を続け、4度のクラス優勝を挙げている。2016年もニュルブルクリンク24時間レースとSUPER GTに参戦する。

井口 卓人

井口卓人

木下さんは、とにかく周りを楽しませてくれる大先輩です。
チームのまとめる重要な存在で、なおかつ笑いを生んでくれます。
食事の席で聞ける、伝説的なレースの話は最高に面白く、ずっと聞いてられます。
特に個性的な先輩ドライバー達のエピソードを話す時の木下さんは輝いてます。
あと、JAFライセンスの宣材写真には、命をかけているようで、日本一面白いです。
木下さんのようにカッコ良く年をとりたいですね。

【経歴】
F3、SUPER GT、スーパー耐久、86/BRZ Raceで活躍。ニュルブルクリンク24時間レースでは、2012年に初参戦。2012、2014、2015年とクラス優勝している。


ニュルブルクリンク初耳学

Mr.ニュルが皆様の素朴な質問にお答えします

ドイツには家族や彼女を連れていくの?
我々が家族を同伴させることはないよ。一旦家を出たら、そこは男(女)の職場という雰囲気があるからね。いつもメンバーとコミュニケーションとっているから、たとえ家族や彼女を同伴させたとしても、一緒に行動できる時間は少ないしね。外国籍のチームと何度もレースをした僕の個人的な思いでは、同伴はいいことだと思う。身の回りの世話をしてもらうのは体力的にも精神的にも安らぐからね。そのあたりは、我々のチームは極めて日本的だと思う。
 それが証拠に、過去にチームに加わったロッテラーやハーネ、クルンバッハは家族や彼女を連れてきていた。ロッテラーのイチャイチャぶりには笑えたなぁ。
サッカー選手みたいに移動は一緒なの?
個人移動が基本だよ。フライトとホテルはチームが予約してくれるけれど、レンタカーは個人管理だ。自分の予定やコンディションを考えて、スケジュールを決められる。レース開催日の決められた時間に正しくその場に集合して解散でできるのならば、その他はどう行動しても許される。そのあたりはプロフェッショナルを尊重してくれている。
 とはいうものの、日本からフランクフルトまでのフライトは限られている。選択肢はJALかANAだし、一日一便か二便。おのずと時間は一緒になってしまう。今年はメンバー全員で話をして、ANA便で移動することにした。となれば羽田空港から同じ便に乗るわけで、だったらレンタカーも一緒って場合が多い。コンビを組むドライバーと乗り合わせることが多いね。結果的に、修学旅行みたいになっちゃうんだ。(笑)
レーシングギアは個人で持ち運びするの?
レーシングスーツやチームウエアはチームが管理してくれる。レース後にチームに預ければ、次のレースまでにはちゃんとクリーニングしてくれるし、更衣室に並べてくれている。預けたらあとはチームが面倒を見てくれるんだ。
 ドレスコードも決まっているからね。いついつはどのスーツを着て、何時何時はどのウエアーを着なさいって指示がある。だったらチームが管理したほうが間違いがないって考えでもある。
 ハンスやヘルメットやシューズといった個人性の強いものも、預けてしまえばチーム任かせ。シーズンはじめの緒戦は自分で運ぶけれど、それ以来ずっとドイツに残してきてしまう。いちいち持ち運ぶことはない。それをマネージャーが管理してくれるんだよ。助かるよ。