日本から世界に!より安全に、より正確に届けるパワー - JAL/日本航空株式会社 - | 共に頂点を目指す... ~ Yaris WRCの挑戦を支えるパートナーたち ~
JAL/日本航空株式会社

第1回 JAL/日本航空株式会社
「日本から世界に!より安全に、より正確に届けるパワー」
2020.11.4 公開

ラリーの基本は、クルマと人を安全に、速く目的地へ届けること。
それは最高峰のWRCでも変わりません。
それを長年にわたり航空輸送の分野で実践してきたのが、
"JAL"としてお馴染みの日本航空株式会社です。
彼らの仕事は、意外とWRCチームと多くの共通点があるようです。
さらに、2020年シーズンからパートナーとなったJALが持つ
秘めたる"技術"と"力"をご紹介します。

SECTION1同じようで違うドライバーとパイロット、その2人の役割分担

2020年、日本航空株式会社(JAL)はTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamとパートナー契約を結び、TGR所属のWRCドライバーたちのラリースーツの肩にその名を刻んでいます。TGRのWRC挑戦と日本の航空会社。一見、何も接点がないような組み合わせですが、そんなことはありません。どちらも"日本から世界へと羽ばたく"パワーを持っています。他にもクルマと旅客機という"人を運ぶ技術"を"チームの力で支える"など、多くの共通点がありそうです。それを探るため羽田空港にあるJALを訪れ、"飛行機もクルマも大好き"というおふたりに話を伺うことになりました。

飛行教官も務めるパイロットの西野 寛さん(左)と一等航空整備士の足原 靖さん(右)
飛行教官も務めるパイロットの西野 寛さん(左)
一等航空整備士の足原 靖さん(右)

まず紹介されたのが運航訓練部でボーイング787型機の飛行教官を務める機長の西野寛さん。ドライバーとコ・ドライバーが組んで走るラリーと同じように、旅客機でもパイロットとコ・パイロットの2人で乗務するが、その役割は同じようなものなのか? そんな疑問を尋ねてみる。
「ラリーではドライバーは運転、コ・ドライバーはナビゲーションと仕事がはっきり分かれていますよね。でも旅客機のパイロット2人は、基本的には並列な関係です。実際の操縦ではひとりが操縦桿を握る"パイロット・フライング"の仕事、もうひとりはそれをモニターする"パイロット・モニタリング"を行い、状況によって代わります。昔は機長と副操縦士がもっと縦の関係に近かったのですが、今は完全にチームとして飛ばしています」

名称が似ていても意外と"役割"は違うようですね。ところでWRCは主にスピードを競いますが、旅客機の運航も"時間"が大事です。どのように調整されているのでしょう。
「そこはクルマと大きく違う部分ですね。飛行機は通常出せる性能、速度のほぼ9割のスピードで飛んでいます。時速180km出せるクルマだったとしたら、ずっと170kmくらいで走っているようなもの。だから出発の5分遅れを上空で取り返すにしても1時間に1分程度。ただし、高度によって風のスピードが違うので、そこは選んでいます。他の飛行機との兼ね合いもあるので、高度の取り合いです。それはレースのラインのポジション争奪に近いかもしれません(笑)。出走順が違うとコンディションが変わるという点では、ラリーと似ている部分もありますね」

SECTION2WRCも旅客機も同じ? その特性を熟知して決められた時間で整備する

では整備についてはどうでしょうか。ラリーはもちろんクルマはエンジニアやメカニックがクルマを仕上げ、それをドライバーが走らせます。そこで、一等航空整備士としてJALで旅客機の運航を支える足原靖さんにその仕事を聞きました。
「西野機長も話しましたが、飛行機は普段からエンジンのパフォーマンスのすごく上の部分を使っています。さらに速く飛ぼうとすると、エンジンに負担が掛かって寿命が短くなってしまう。もちろん信頼性は高いのですが、そのパフォーマンスを発揮し続けるためには、無理をさせず適正なところで飛び続けることが重要なのです。
また飛行機は、皆さんが思っている以上に過酷な条件の中を飛んでいます。ラリーカーもダートや雪道、雨の中を走りますが、地上の気温が30度なら、1万メートル上空ではマイナス40~60度です。例えば羽田空港と伊丹空港を1日に3往復すれば、30度からマイナス60度を6回です。また1万メートル上空は気圧が1/5くらいですが、お客さまが快適なように機内を与圧しており、機体はその加減圧を受けます。さらに時速800kmで飛び、時速約250kmでの着陸を何度も繰り返すわけです。私たちはその過酷な状況をイメージしながら整備をしています」

WRC同様に旅客機でも、使用状況に適した整備が大事なのですね。さてWRCではクルマの整備を"サービス"という限られた時間内で行いますが、旅客機はどうでしょうか?
「私たちの仕事は"発着整備"といって、空港に飛行機が着いてから飛ばすまでの準備を行います。整備できるタイミングは、飛行機が次のフライトに出発するまでの限られた時間です。そのため、まずはその飛行機の"ヒストリー(整備や修理の履歴)"を事前に調べ、できる限りデータを準備します。それから、到着する飛行機の整備に取り掛かります。飛行機も進化していて、今は飛行中に不具合があるとすぐ地上にデータが送られ、リアルタイムでコンディションを確認できるシステムになっています。昔は、飛行機が到着してからパイロットに『何か不具合がありましたか?』と聞いてから、初めて状況を知ることもありましたね」

WRCは競技ですから、限られた時間内に優先順位をつけて作業を進めます。では旅客機の整備は何が大切なのでしょうか?
「最優先するのは"安全"です。時間や効率優先で、不安全な飛行機を飛ばすようなことは絶対にありません。仮に、飛ばしたい運航管理者がいて、飛びたい機長がいたとしても、私たち整備士が『不具合があります』と判断したら、飛べないのです。お客さまを安全、快適に、定時に運ぶのが航空会社ですが、何よりも安全が大事です」

西野機長も"安全の最優先"は同意です。
「最終的に飛ぶ、飛ばないの最終責任はパイロットにあります。私たちパイロットは"飛行機を完璧な状態で飛ばしたい"と思っているので、何か故障があっても何とかするなんていう人はいません。私たちも"安全運航"が第一です。その大前提を踏まえた上で、定時性、快適性、運航効率を考えます。その上で、私たちは定時出発よりも、定時到着を気にしています。お客さまは到着されてからが大事なので、定時出発をしても遅れたら意味はない。私たちの仕事は常に"ひき算、割り算、逆算"なのです」

SECTION3ラリーカーと旅客機。カテゴリーは違っても大切なことは同じ

おふたりは旅客機のスペシャリストですが、WRCやモータースポーツにも精通しているようですが、と問うと足原整備士は...。
「仕事柄、クルマやバイクには昔からとても興味がありますね。WRCはテレビで見るくらいですが(苦笑)」
そして西野機長からは驚きの答えが。
「私はレーシングカート歴27年で、今でも走っています。所属チームには現在スーパーフォーミュラ・ライツで活躍するドライバーもいて、その選手が小学生の頃は一緒に走っていました。高木虎之介さんやWRCで活躍されている勝田貴元選手も以前会ったこともありますね」

※高木虎之介さんはF1も走ったレーシングドライバーで、SUPER GTのGT500クラスやフォーミュラ・ニッポンではチャンピオンも獲得した。現在はSUPER GTのNo.14 TGR TEAM WAKO'S ROOKIEの監督を務める。

本当におふたりには興味深い話をしていただきました。"JALフィロソフィ"のなかに"最高のバトンタッチ"という項目がありますが、足原整備士はどのような部分でそれを意識されていますか?
「私たちは整備作業において常々"最高のバトンタッチ"をしようと思っていますが、次に受け取る人が本当に良いと思えなければ、そうはなりません。相手の立場に立ったバトンタッチを365日、24時間、常に考えて安全な飛行機を飛ばそうと心掛けています」

最後に西野機長はいかがでしょうか?
「私たちパイロットは、常に搭乗されているお客さまのことを考えています。相手の求めていることを想像し、先々を考えていくと"最高のバトンタッチ"ができると考えています。会社が違っても、仕事内容が違っても、そしてモータースポーツでも、そこは変わらないと思います」

ベテラン・パイロットの西野 寛さん(右)と一等航空整備士の足原 靖さん(左)