TOYOTA GAZOO Racing AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
TOYOTA 5大陸走破
走破地: オーストラリア
走破距離: 約20,000km超
走破日数: 72日間 / 2014年9月3日-11月13日
走破メンバー: 66名 / すべてTOYOTAスタッフ
走破車両: のべ13台 / ランドクルーザー 70 /ランドクルーザー 200 / ランドクルーザー プラド / ハイラックス / 86カムリ / カローラ /プリウス
TOYOTA GAZOO Racing AUSTRALIA 2014 DIGEST | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
TOYOTA GAZOO Racing #01 日本とは違う道にあった、小さなヒント。 | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
初対面のメンバーも多い旅で結束を固めるべく、チーム1のリーダー・斉木さんは出発直前にミーティングを開いた。それぞれが熱い思いを吐露する中、もっとも印象的な言葉を残したのが、オーストラリア側のサポートスタッフである二村さんだった。「安くて良いものを作るということは、本来矛盾しているでしょ?良いものを作るには知恵と時間がかかる。つまり人件費というコストがかかって、普通なら高くなってしまう。でも、そのロジックを成立させる唯一の方法が、仕事を好きになること。つまり、クルマを好きになること。好きなんだから仕事を離れてクルマのことを考えたって誰も困りませんからね。オーストラリアは、言葉ではなく車の楽しさを身体で感じることのできる環境だと思います」。
二村さんの言葉の通り、メルボルンの街を出ると日本との環境の違いにすぐに気づく。未舗装路こそ出て来ないが、道路事情はかなり悪い。海沿いをワインディングが続くグレートオーシャンロードの後には多雨地域が広がっていた。雨が降るために草が生え、牧畜が盛んだった。ミルクを運ぶ重い車のために、アスファルトが痛んでいく。車中のノイズが気になると、メンバーたちは駐車する度に道路へと手を当ててみる。この道路事情ならば必要となるのはどんな性能なのか? 耳から手へ、手から脳へと思考を伝達させて行く。
悪路とディテールの関係について。
マウント・アイブという南部の中継の拠点から北に位置するレイク・ガードナーまでの道は、Land Crusier 70(ランクル70)の能力を存分に発揮するダートだった。Crestと呼ばれる先の見えない丘を越え、家畜用の柵があるために段になっているGripを抜け、落ち込んだDipをいくつか通ると目の前に、真っ白の塩湖が広がっている。車両環境と呼ばれる“悪路”を専門とするメンバー、野方さんは、車を降りるとすぐにドアを開け、塗装抜きのための小さな穴をチェックしていた。
窓を閉め切った状態でも室内に埃が入ってしまうのは、その塗装抜きの穴などの細部から微かな粉塵が入り込むからだ。やはり細かな塵が付いている。室内を快適に保つためには、シーリングのもう一工程が必要だと語る。密閉性は快適性を担保する要素のひとつであることを再認識していく。塩分濃度の高い水の中を走り回り、いくら水洗いをしたとしても、入り組んだ下回り部品の奥にはどうしても塩が染み込んでしまう。想像以上の過酷な環境。撮影の後には、エアフィルターにまで塩の結晶がこびりついていた。
車内に響くノイズの正体とは?
ダートの帰り道では、まるで雨が降っているような音が車内に響いた。往路ではまったく音がしなかったのに、シャーシャーという音がどこから来るのか? どうやら撮影中に降った雨が原因らしい。細かい塵が雨で固められ、タイヤのパターンにはまって巻き上げてしまうスプラッシュノイズ。
自然環境のわずかな変化がノイズとなって車に影響する。走行自体に問題があるわけではないが、このスプラッシュノイズをいかに軽減するのか。あらゆる路面に対応できるタイヤのパターンなど存在しない。ランド・クルーザーがなぜオーストラリアでは必要とされるのかが深く理解されると同時に、さらに高みへと登るためのヒントがいくつか見つかった。
TOYOTA GAZOO Racing #02 基本性能のためのロングストレート。 | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
世界の8割の道があると言われるオーストラリアとランドクルーザーの関係は深い。乾燥して埃が舞うダートがあり、ワニが暮らすような湿地帯もある。国内向けには生産が中止されていた期間も、オーストラリアからの強い要望に応えて、販売は途切れることなく継続されている。基本設計の変わらない“シンプル”かつ“剛健”なランクルは、果てへと向かえば向かうほど、多く目にするようになる。
南オーストラリア州から西オーストラリア州へと入り、ユークラという砂丘の町にも、古いランクルが停まっていた。トヨタの社員たちでさえすぐに年式が分からないほど、古いモデルが今も現役で走っているという。ガソリンスタンドとカフェの機能を併せ持ったモーテル以外、周囲には何もない。そういう“僻地”でこそ、ランドクルーザーは、真価を発揮する。ユークラでは、砂丘を乗り越え、まるで性能を確かめるような走行を行った。
オーストラリアには、世界一真っすぐな道がある。
そして、砂丘の後には、延々と果てしなく続く直線が待っていた。146km一切カーブのない直線は、世界で一番長い直線道路。しかし、久しぶりのカーブを曲がった後にも、ほとんどカーブは現れない。ゴールドラッシュの街・カルグーリーからパースまでを一気に進む。水を運ぶための600kmのパイプラインと併走するように、ほぼ舵を切らない直線。特有の強い陽射し。ドライバーは常に窓ガラスのUVカットが足りないと眩しそうにぼやいている。プリウスに搭載されている、速度を設定して先行車に追従するクルーズ・コントロール(ACCアダプティブ・クルーズ・コントロール)が、必要な装備とさえ言える道。
オーストラリアの人々は、法廷速度ピッタリで走る。速度を超えることもほとんどなく、極端に遅い車も滅多にいない。淡々とした眠気を誘うようなストレートだが、この長い直線は、プロの評価ドライバーにとっては退屈な道ではなかった。
都会向けの車で揺さぶられる身体。
アンジュレーション、轍、路面のアスファルトを構成する石粒の大きさの違いなど、直線でありながらも、微細な変化がクルマを揺する。ただステアリングを軽く持っているだけでは済まされないことが大きな問題だという。真っすぐに走れないのだ。路面から入力される情報を、ステアリングを通じてどれだけ人に伝えるのか。車のチューニングは、その方向性を決める作業と言っても過言ではない。
例えば、クルマによって、日本ではその反応の良さは大きな利点であり、路面の小さな変化を敏感に察することのできる設定は、心地よいとさえ感じられる。しかし140km以上のロングストレートで、延々と車体が揺さぶられ続けることは不快でしかない。あるいは110km定常で走る車で、同じ速度で迫りくる対向車を気にしつつ先行車を追い越す時に、どれほどパンチ力が必要なのか。急加速の必要性は、日本の比ではない。車は、誰を向いて作るべきなのか? ラインナップを揃えることでさまざまな要求に応える用意があるとは言え、真っすぐ走るという基本性能はどの車にも必須の要件。昔から言われているが、もっともシンプルにして、もっとも難しい課題に、メルボルンからパースまでの3週間で実感した。
TOYOTA GAZOO Racing #03 オーストラリアの洗礼 | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
パースからはチーム2へとバトンが渡された。チーム1からの引き継ぎを熱心に聞き、ドライバーの感情が次第に高まる。チーム2のリーダー・松原さんは、安全を第一に優先することを念頭に置き、チーム内に適度な緊張感をもたらしている。
パースを出発後、すぐに待ち構えていたのは、暴風雨だった。轍に溜まる水があり、さらにまるで電車のような長さからそう例えられるロードトレインともすれ違う。初日からオーストラリア特有の道路・気象環境を身を持って体験することになった。ステアリングが軽いランクル70では、強い横風の影響をもろに受け、常にハンドルを修正しながら走る必要がある。ドライバー達は細心の注意を払いながら進む。
さらなる進化を要求する一本道
カナーボンからカラサまでの約650kmのロングドライブは、真っ直ぐ続く一本道だった。ドライブの最中、気づかぬうちに南回帰線を超えていた。この先、日差しも環境もさらに厳しくなっていく。真っ直ぐ続く道の中で、ドライバー達は、ランクルがさらに進化するためにはどうすればいいのか?と考えを巡らせる。風が強く、雨が轍に溜まっていても、真っ直ぐ走ることはランクルのみならず、車にとって必須の条件。そして、ドライビングの快適性をさらに高めるための正しい進化とは何だろうか? 車の性能として残す部分、捨てる部分を正確に見極め、判断する必要がある。ドライバーチェンジの度にアスファルトに手を当てて道路状況を確認し、クルマの状態を注意深く観察していた。ライブは、真っ直ぐ続く一本道だった。ドライブの最中、気づかぬうちに南回帰線を超えていた。
この先、日差しも環境もさらに厳しくなっていく。真っ直ぐ続く道の中で、ドライバー達は、ランクルがさらに進化するためにはどうすればいいのか?と考えを巡らせる。風が強く、雨が轍に溜まっていても、真っ直ぐ走ることはランクルのみならず、車にとって必須の条件。そして、ドライビングの快適性をさらに高めるための正しい進化とは何だろうか? 車の機能として残す部分、捨てる部分を性格に見極め、判断する必要がある。ドライバーチェンジの度にアスファルトに手を当てて道路状況を確認し、クルマの状態を注意深く観察していた。
オフロードコースでの完全なるスタック
走行ルートの付近で山火事が発生したためルートが変更された。春から夏にかけて、ウェスタンオーストラリアでは乾燥の為に山火事は珍しいことではないらしい。当初のスケジュールを変更し、ポートヘッドランドでの滞在を延長し、地元のオフロードコースへと足を運んだ。
プロの評価ドライバーたちに続き、帯同している現地クルーもヒルクライムに挑戦したが、高機能・高性能を誇るランクル200でさえ何台かはスタックするほど難易度が高い。柔らかい砂の傾斜に起きるスタックは、前進が困難になるだけではない。無理に脱出しようとしてアクセルを踏み続けると、路面が掘れバックすることも難しくなる。つまりは、その場からまったく動けなくなってしまうことを意味している。
照りつける太陽が、ジリジリと肌を焼く。日本にはほとんど存在しない過酷な環境だからこそ、クルマに性能が求められるだけでなく、ドライバーの運転技術にも高度なものが要求される。なぜオーストラリアの大地を走るのかと言えば、自然と対峙せざるを得ないから。自然は容赦がない。ストラリアでは乾燥の為に山火事は珍しいことではないらしい。当初のスケジュールを変更し、ポートヘッドランドでの滞在を延長し、地元のオフロードコースへと足を運んだ。プロの評価ドライバーたちがヒルクライムに挑戦したが、高機能を誇るランクル200でさえ何台かはスタックするほど難易度が高い。傾斜の最中に起きるスタックは、前進が困難になるだけではない。無理に脱出しようとしてアクセルを踏み続けると、バックすることも難しくなる。つまりは、その場からまったく動けなくなってしまうことを意味している。照りつける太陽が、ジリジリと肌を焼く。日本にはほとんど存在しない過酷な環境だからこそ、クルマに性能が求められるだけでなく、ドライバーの運転技術にも高度なものが要求される。なぜオーストラリアの大地を走るのかと言えば、自然と対峙せざるを得ないから。自然は容赦がない。
TOYOTA GAZOO Racing #04 ランクルと向き合う決意の儀式 | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
ブルームに到着して車両点検を行った。これまでになく鋭い視線と神経を使っているのが傍から見ているものにも伝わってくる。1台1台、丹念に隅から隅までクルマの状態を把握する。クルマに手を触れている間は集中力が途切れない。
約3万点あると言われている車両パーツの締結部位。走行性能と、走行安定を確認するため、必要な工具をレンチ群の入った工具箱から自然と選ぶ。どの位の力を入れれば適正なのかは体に染み込んでいる。動きにも無駄がない。ドライバー達の多くが、これまで培った経験を確かめる場として、自分の価値観を広げるため、チーム2の山場となるギブ・リバー・ロードに挑む。
ランクルが暮らしを変えた道
舗装路から、未舗装のダートであるギブ・リバー・ロードに入った瞬間に状況が一変する。前方の土埃による視界の悪さ、小石がカンカンと当たる音、不規則な体への振動。この道は、ランクルが作ったと言っても過言ではない。
牧畜業が主産業である隔絶された地域にランクルが登場したのは1958年のこと。生活、ビジネス、旅、あらゆる面において革命を起こしたクルマだったとオーストラリアのスッタフは話した。初日の対向車は40台中32台がTOYOTAの四駆で、途中何台か目にした故障車は全てTOYOTAではなかった。TOYOTAのドライバー達はどう受け止めたのだろうか。
ランチタイムにタイヤのパンクが発見され、即座にタイヤ交換が行われる。メンバーそれぞれが暗黙の了解で作業を分担し、あっという間にタイヤ交換が終わった。携帯電話の圏外を走るこの道では、パンクは生命の危機に関わると知る。
パンクすると運転技術でカバーできない
日本のテストコースでは再現しきれていない、長く伸びるダート。コルゲーションによる体の疲労感が全く違うという。雨季には川となり、乾季には舗装された道になるFLOOD WAY。スピードを出し過ぎて進入すると、ランクル200のフロント部分は地面に接触する可能性が高いと分かった。サスペンションが目一杯縮んで底をつくボトミングを避ける為にも、標識に眼を凝らす。走行中、故障車が路肩に停まっていた。立ち寄って理由を聞くと、タイヤがパンクしたのを知りながらも走行したので、フロントサスペンションが壊れたという。修理部品が届く明日まで炎天下の中、路肩で待つしかないようだ。水を差し入れして、その場を後にした。
「尖った小石に神経をとがらせれば、ある程度パンクを避けることはできるが、パンクしてしまうと運転技術ではカバー出来ない。でも、現在は一部のクルマにしか装備されていないタイヤの空気漏れを感知することのできる装置がここでは必要かもしれない」。ドライバーの何気ない一言にクルマの明日が詰まっている。
日本にない土埃
ダートは、突然終わりを告げる。緩やかに静かにクルマが進みだす。ギブ・リバー・ロードを走破した。カナナラに到着後すぐに車両点検を行い、クルマの状態を確認する。1台だけアンダーカバーに亀裂が入っていたが、大きなダメージではない。ものすごい量の土埃がエアーフィルターに付着している。細かい砂の粒子もオーストラリア特有の地理条件のひとつ。日本ではまず見ることができないという。今後の改善課題のヒントになるかもしれない。
ギブ・リバー・ロードを走行した数車種のなかで、やはりランクル70が、ドライバーたちにも好評だった。「運転しているという実感があり、走っていて楽しい」という意見が多い。路面からの突き上げられる衝撃もまた運転する醍醐味だという。では上位車種である、ランクル200はというと、「普通に走れている」という感想を耳にした。直進安定性は今回走破に使った車両の中では群を抜いている。この道においては、「誰が運転しても安全かつ楽に走れる」という評価だった。
ランクルが、オーストラリアの“足”となるまで。
かつてランドクルーザーは、トヨタのクルマの質を世界に示すための尖兵だった。世界のあらゆる場所へと派遣され、乗用車輸出のための礎を築く。その役割を担っていたために、ランドクルーザーが頑丈なこと、優秀な道具であることはなにより重要な要素だった。
特にアウトバックと呼ばれるワイルドサイドでは、クルマの品質は生死に関わる重要なもの。極端な砂漠と寒冷地以外の世界のあらゆる気候が存在するオーストラリア大陸とランドクルーザーの関わりは深い。1950年代後半、オーストラリアでのランドクルーザーの歴史は一人の男の熱い思いによって始まる。国家的事業と言われたスノーウィーマウンテンの水力発電建設が、その現場だった。
石炭採掘の開発などを請け負っていた会社の社長レスリー・シースが、スノーウィーマウンテンの工事現場で1台のランドクルーザーを見つけたのが1957年のこと。レスリーは、建設現場で乗り回すうち、このクルマの性能に惚れ込んでしまう。地下水路の建設の契約を勝ち取ったレスリーは、13台のランドクルーザーを購入することを決めた。12台はすぐに現場に配置され、1台はパーツ取り用に保管された。ここでランドクルーザーは、その性能を遺憾なく発揮する。加えて、トヨタからたった13台のために社員が派遣され、故障の対応に当たった。壊れた部品はすぐに日本へと送られ、新たなパーツで対応する。日本に送られた故障パーツは、徹底的に調べられ、なぜ壊れたのか? どうすれば壊れなくなるのか? 研究材料となった。
スノーウィーマウンテンでの経験から、「ランクルはオーストラリアにとって必要なクルマだ」と確信したレスリー・シースは、トヨタの商用車の独占販売権を獲得する。1959年のこと。当時はまだ日本製品へのバッシングが強かった時代だ。営業担当は直接、農家などのランドクルーザーが必要と思われる場所へと回り、実車を使ってもらうという地道な活動を続けた。同時にサービスのための拠点を全土に張り巡らせ、部品が故障した際に、素早くパーツを届けられたことが、トヨタの成功の基礎となった。壊れた部品はスノーウィーマウンテンのときと同じように研究の対象となり、少しずつ、改良が加えられた。そして1979年にはトヨタのオーストラリア商用車市場でのシェアが、トップに立つ。以降、その座を明け渡したことはない。
ランドクルーザーの本流とも呼べる40系は、1984年に70系へと劇的なモデルチェンジを遂げた。その開発の際にも世界中でのテストドライブが行われたが、中でもオーストラリアは試走の重要なルートであった。何周も何周も、ランドクルーザーはアウトバックを走り、発売された以降も、テストのためのドライビングは止まらない。常に走り続け、道から学ぶことによって、ランドクルーザーは完成度を高めていった。だが、基本的な骨格は1950年代から変わっていない。過度な変更をしないために、あらゆる面において継続性がある。部品もしかり。70形になってからも日々進化しているが、基本的なパーツが合わなくなることはほとんどない。そうやって人々は一生のクルマとして、ランクルを乗り継いでいる。
現在オーストラリアでは、ナショナルパークや警察、鉱山や一部の軍用車など、国の根幹的な仕事を担うクルマとして採用され、圧倒的な信頼を得ている。
TOYOTA GAZOO Racing #05 ワニの棲む川を渡る | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
世界遺産に登録されているカカドゥ国立公園。パークレンジャーと呼ばれる75名の管理人が、公園の維持に尽力している。外来種の雑草を排除し、観光客向けに道路環境の整備する。動物のバランスを整えるための狩猟を行うこともある。レンジャー達の相棒は、ランクルとハイラックスだった。道なき道を移動することによる車両のダメージは避けては通れない。彼らはラジエーター部分に金網を被せて、必要以上にブッシュを寄せ付けないように工夫を施していた。レンジャー曰く、「電子制御が多くなりすぎると、何かがあった場合に困る。いざというときにその場で直せないと、車をけん引して帰るのに数日間も掛ってしまうから」。
カカドゥ国立公園内の水深60cmの川を進むことになった。川の脇にはワニ出没注意の看板が掲げてある。最初の一台目が緊張感を持って川を渡る。何が起こるか予測できない。時速10〜15kmで止まらずに進むことが川を渡る際の鉄則。浸水を防ぐには、エンジンルームへ荒波を立てないこと。走っている間はマフラーの排出口から空気が出続けるため止まってはいけない。パークレンジャーは、クルマにシュノーケルを装着すれば水深1mの川も渡れると話していた。ワニは現れなかった。
真っすぐに伸びる隊列。
キャサリンからテナントクリークまでの672km、隊列は一定速度を保ちながら走っていた。アクセルの踏み方もドライバーそれぞれ違い、指先や母指球で微調整する人もいれば、足首で調整しながら踏む人もいる。クルーズコントロール機能を使っているかと思いきや、機能に頼ることなく自分の感覚を研ぎすます為に、誰も使っていなかった。。真っ直ぐに伸びる道でも、神経を行き渡せなければ、美しい隊列を組むことはできない。
速度無制限で走ることの意味。
「ここが限界か」と、ランクル200のドライバーがつぶやく。メーターを見ると185km/hを指している。STUART HIGHWAYには、無制限速度の区域があり、中央分離帯もガードレールもなく、ただただ長く真っ直ぐ伸びるハイウェイ。全開までアクセルを踏み込むことは、クルマと環境の臨界点を摺り合わせるような実験でもある。休憩の際に、タイヤや車両の状態を確認するとともにドライバーが目頭を押す。体の疲労がいつもより増しているらしい。
「通常の速度で走るより燃費も悪くなって、たかだか2〜30分早く目的地に着くだけなのに、最高速度で走れる道があるってことが不思議だな」と、ドライバーの1人が言った。4週間もの日程にも関わらず、体感としてはあっという間にチーム2の目的地、アリス・スプリングスに到着した。
TOYOTA GAZOO Racing #06 永遠と続く真っすぐのダートロード | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
一言で“ダート”と言っていたが、オーストラリアでは本当にさまざまな種類のダートロードがある。白くて硬い路面、赤土の柔らかい路面、小石が浮いた路面、そしてロードトラックの走行によって荒れた路面。グリップが高い場所もあれば、砂利で滑りやすい場所もある。さらにDip(小さな丘)やCrest(くぼみ)によって勾配も刻一刻と変化する。その度にステアリングから伝わるインフォメーションが異なってくる。チーム3の走行は始まったばかりだが、“気づき”の連続。
アリススプリングスからキングスキャニオンに向かうオフロードは、コルゲーション(波状路)の激しい数百kmと続く真っすぐの道だった。テストコースではなかなか体感できない距離とサーフェスである。クルマのふらつきや激しい上下入力によって疲労が溜まっていく。室内ではインストルメントパネルのビビリ音が大きく、助手席との会話も聞き取りにくい。休憩中にタイヤをチェックしてみると、ホイールの内側には埃が堆積しているという。これも振動の原因のひとつ。埃や泥が溜まらない工夫が必要とされる。
どのようにすればもっと“楽に運転できるクルマ”ができるのか、メンバーは長距離のダート走行によって、自身の体で感じている。
エアコンディションの使い方
オーストラリア内陸部は、40℃近くまで気温が上がる。必然、エアコンは必要不可欠なツール。しかし、砂埃が激しく舞い上がるダートロードを走行する場合、フレッシュモード(外気導入)がいいか? それともリサーキュレーションモード(内気循環)がいいのか? 現地のスタッフを含めたミーティングの結果、フレッシュモードを使用し、キャビン内の圧力を上げて、ダストが侵入しにくくする方がベターということだった。
しかし、翌日フレッシュモードで走行してみると、たった1日の走行で、エアコン付近はもちろんナビのモニター、ドライバーのサングラスにもダストが付着してしまった。チーム3のスタート地点からフレッシュモードで走り続けていた5号車には、大量のダストがフィルターに堆積していた。つまり定期的なエアコンフィルターチェックとメンテナンスが必要とされる状況。
ユーザーの手間にならないように、またメンテナンスコストを抑えるためにも、細かい粒子を通さないフィルターの開発、または構造の改善が必要とされる事実を突きつけられていた。
州ごとに変わる道
オーストラリアでは、財政の関係もあり、各州で道路の作り方が異なる。舗装路のほとんどはビッツマン舗装だが、ノーザンテリトリー州からサウスオーストラリア州に入った途端、急に道が悪くなりバネ上が動きはじめ、ブルブルと振動も大きくなっていった。カント(路面の内側と外側の勾配)が強く、車両が流れるのを抑えるために大きめの舵角が必要で、あおりも大きく上下左右に揺すられる。広大なオーストラリア大陸では、同じ舗装工法を使ったとしてもエリアによって石の大きさ、種類、そして地盤の硬い、柔らかいなどの違いでクルマに与える影響が違ってくる。
オンロードとオフロードの多様な路面を走っていると、ランクル70の性能の高さが際立つ。ランクル70は、実際に使われる環境によって鍛え上げられたクルマ。州を跨いで路面が変化する度に、ドライバーたちはその差異を敏感に感じとっていく。受け取ったその感覚が、クルマ作りへと反映されていく。
TOYOTA GAZOO Racing #07 視界ゼロの走行に必要なこと | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
4WD愛好家がオーストラリアの名道と呼ぶ、バーズヴィルトラックを走る。10台以上のロードトレインとすれ違うシーンが幾度かあり、その度にダストで視界が奪われる。かなり減速し対向車に構えるが、ほぼ視界ゼロの走行はナーバスで疲労感の溜るもの。極限的な状況で、ドライバーたちは荒れた路面でも直進を維持出来る性能が重要であることを実感している。走行を続けるたびに路面の色が変化する。石粒の大きさやシェイプも異なっている。直進や旋回中にも、ステアリングの遊びの分だけ振られてしまい、修正が必要となってくる。
こうした長距離走行では、疲労を軽減するためにも両肘を置いたまま、ステアリングを握りたくなる。アームレストの必要性を強く感じるとドライバーたちは言う。シンプルで完成されたクルマのように思われるランクル70にもアップデートの余地がある。 全519kmのバーズヴィルトラックを走行中に、チーム3のコンボイは5回もパンクすることになった。パンクした車両は、ランクル200だけだった。ランクル70のタイヤのようなタフさが、進化形であるはずのランクル200にも求められている。
心痛んだ650kmの道
マウントアイザからロングリーチまでの舗装路。この約650kmのロングランで、チーム 3のメンバーは、路上や路肩に途方もない数の鳥やカンガルーの死骸を目の当たりにした。人間には聞こえない周波数で、動物を車両に近づけないための“嫌な音”を発信する対策について語り合う。
内陸部の4WDには、ほとんどといっていいほどカンガルーバンパーが装着されていた。3号車(ハイラックス)のカンガルーバンパーには、小石や泥が入ってしまうほど隙間がある。その土地に合った装備の開発について、思いを馳せるメンバー。クルマが快適に走るためのヒントは、動物を含めた環境が教えてくれる。
聖地ビッグレッドを越える
チーム 3のほとんどのメンバーが初めてとなる砂地での走行にチャレンジした。世界最大の砂丘・シンプソンデザートの入り口、ビックレッド。「まるで雪の上を走っているようだった」と振り返るメンバー。ハンドルを取られ左右に揺られることもあったが、ランクルの基本性能の高さに助けられ、なんなく砂丘を登っていく。砂地ではL4ギアで走るが、下りでは例えエンストをしてもクラッチを切らずにタイヤを回転させてクランキングでスタートした方がいいと、現地のプロドライバーのジョンさん。
ハンドルをとられ車両が左右に振られることはあるが、砂丘初走行ながら苦労をすることなく登りきることができた。ここでもランドクルーザーの走破性や基本性能の高さを実感することになった。オンロードはもちろん、こうしたエクストリームな環境も走り抜ける圧倒的なパワーと安心感をオーストラリアのユーザーと共有することができた。それと同時に改善すべきところも。ビックレッドは、当然L4で走るのだが 下るときはエンストしてもクラッチを切らずにクランキングスタートをする。今回、豪州走破の全日程に携わるプロドロイバーのジョンさん曰く、最近のMTはクラッチスタートSW付きなのでこういった シーンでは返って危険を伴うのだと。 ユーザーのなかには、カスタマイズでKILL SWを装着する人もいるようだ。
TOYOTA GAZOO Racing #08 終わりなき旅 | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
ブリスベン、シドニーという大都市の渋滞を走行した。渋滞も道のひとつ。とくにシドニー市内の道の車線は、曲がりくねっていてアップダウンもある。また車線幅が非常に狭く、隣の車両との安全マージンが少ない。そこを70km/h、80km/hといった高速で走行する。正確なハンドリング性能はもちろんのこと、加速?減速?操舵を集約してクルマとの一体感が求められる。
自分のイメージ通り操作できないとブレーキや再加速といった追加操作が発生する。それが都会の大きな渋滞では短時間で疲労として蓄積されていく。基本性能を向上し、疲れないクルマづくりの重要さを体感した。
0Km→100kmの加速力
長距離走行では欠かすことのできない休憩。そんな休憩エリアが、オーストラリアのハイウェイには、約20km毎に設備されている。チーム3も約一時間に一度ドライバーチェンジをするととともに、10分間の休憩を行った。
しかし、問題はレストエリアからハイウェイ本線の合流場面だ。 安全に合流する為には、本線上の車両と同じ速度で合流しなければならないが、日本のパーキングエリアと異なり、加速レーンが20mほどしかなく、かなり短い。つまり停止状態の0km/hからの100km/hへの加速性能がとても重要なのだ。
ゴールは出発地点
メルボルンを出発し、西海岸のパース、ダーウィンから南下しアリススプリング、ウルル、そして東海岸の大都市ブリスベンとシドニーを経由し、再びメルボルンに戻ってきた。チーム1からチーム2へ、そしてチーム3に渡されたタスキを無事にゴールへと届けることができた。世界の80%の道が存在するというオーストラリアの過酷な、およそ2万kmの道を誰一人欠けることなくゴールし、スタートの地であるTMCA(Toyota Motor Corporation Australia Ltd.)のアルトナ工場へ帰還することができたのだ。毎朝、円陣を組み「安全に行くぞ!」と声を出し、全員をゴールまで届けるという大きなプレッシャーから解放されたリーダーの角谷さんは、ゴール後にチームメンバーの前で涙を流した。
オーストラリア一周というロングドライブがもたらしたのは、旅の高揚感だけではない。クルマに関わる自らの仕事、人生を見つめることでもあったかもしれない。誰もがチームメンバーに感謝し、サポートスタッフに感謝し、そしてどんなコンディションでも安心して走ってくれたパートナーのクルマたちに感謝した。「道を知る」という原点に振り返ることができた、夢のような時間。この財産を走破メンバーは、日本へ持ち帰る。日々の通勤路も、出張先のドライブも、テストコースでの試走も、これまでとは違う感覚で走ることができるはずだ。すべての道が、オーストラリアへと繋がっている。ゴールは常にスタート。TOYOTAの旅は、これからも続く。
TOYOTA GAZOO Racing #09 犬が狼にもどっていく | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
コフスハーバー、ラリーコース。走破隊と合流したモリゾウ(豊田章男)は86の調整を静かに待っていた。その横には4シーズン連続で世界を制したマキネン氏がいた。「彼といっしょにクルマをつくっているんだ」とモリゾウは言った。そう、この走行訓練は、クルマの声を聞くという大事なクルマづくりのプロセスの一部なのだ。
この世界に同じ道はひとつもない。気候によっても変化する。ラリーという極限の状態でクルマがどういう声をあげるか。道とクルマの関係が研ぎすまされた状態で一体何を感じるか。感覚を研ぎすます。集中する。最初にマキネン氏の助手席に乗る。世界の走りを体に刻む。うなりをあげて何周も回る86を見ていると車はもともと野性だったのではないかと思ってしまう。人間に飼いならされて鈍ってしまったものを、徐々に取り戻して行く作業のように見える。犬が狼にもどっていく。土煙をあげてその叫びが山に響く。マキネンは厳しい。
彼の走りは引退した今でも超一流だ。助手席に座るとまるで外から見ていたのとはまるでちがう感覚になる。リニアモーターカーにでも乗っているかのように車はすべりつづける。すべてのカーブを重心移動だけで一切の無駄がなくすりぬけてゆく。全身の毛穴がひらく。いっきにTシャツがびしょびしょに濡れる。頭と体がちがう反応をする。野性の車をコントロールできるのはほんの一握りの天才だ。でも私たちはこういう野性の車をたくさんのテクノロジーで制御して乗っているのだ。狼を犬にして。
モリゾウはガソリンがなくなるまで、予定を変えてまで、何周も何周もそのコースを回った。当然だが、マキネンの見せた世界には及ばない。けれどそれを目指す。あの感覚を目指す。至らないポイントはどこか。研ぎすまされた状態で車のなかの野性をどうコントロールするか。その訓練は命がけだ。そして孤独だ。ただひたすら体に叩き込む。ここまでする必要があるのかとよく人は聞く。けれどこうして車に対する圧倒的な尺度を自分のなかにつくり出すことは、車をつくり、売る人間としてとても重要なことだと信じている。この感覚が、車の声をききとる力になる。その力は必ずいい車をつくるために必要なものだ。スタッフのひとりが言った。「あの人は本当にガソリンがなくなるまで帰ってこないんだ。次の予定が心配なら、少なくするしかない」。
TOYOTA GAZOO Racing AUSTRALIA 2014 EPILOGUE | AUSTRALIA 2014 | 5大陸走破プロジェクト
クルマは道が鍛えてくれるものだ。 未来が必要としてくれるクルマをつくりだすためにもういちど世界のあらゆる道を自分たちのカラダやココロのもっと奥に刻みこもう。道はいつも新しい発見をくれる。 いいクルマとは何か。 まるでその問いに ゴールなんかないと言っているように。 いいクルマとは何か。 私たちは永遠にそれを考え続ける。
私たちの理想はつねに、その道のむこうにある