木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 126LAP

2014.08.12 コラム

変態的バイク隆盛

 このところ、変態的な進化を感じるのがオートバイである。ネットサーフィンをすれば、ほとんどバイクとは形容できない奇妙な乗り物を発見するのだ。

 ハーレーは旧くからモディファイの定番だし、スクーターカスタムにも慣れた。それに混じって最近、ぶっといタイヤにただただしがみついているだけのようなバイクもある。映画のプロモーション用かとおぼしきタイプもある。ハンドルがホイールから生えていたり、やけに全長が長かったり…。機構的に成立するのか不明の乗り物も多い。ほとんどトランスフォーマー的な近未来マシンである。実際に走る姿を確認するまでは、バイクとは認められないものが氾濫しているのだ。

バイク天国

 欧米を旅していると、バイク天国であることが肌感覚で伝わってくる。特にドイツは、クルマ先進国かと短絡視していると裏切られる。そう言えばBMWはバイクメーカーでもあったよなぁ。夥しい数のバイクが街を闊歩しているのだ。

 アメリカはハーレー系、もしくはビッグバイク系が多い。ノーヘルで巨大なエンジンを抱え込みながら走る姿は、いかにも大陸的だ。風を浴びながら突っ走るのが気持ちいいからバイクに乗るんだぜ…といった趣である。

 それとは対象的に、生真面目な国ドイツはやはり、正統的なビッグバイクが多い。標準的体型の日本人では、つま先立ちしても足が届かないバイクも少なくない。ありゃ、ほとんど馬だね。鉄の馬。アメリカのようなロード系ではなく、オフロードも走破可能な足長タイプが主流。爽快感を求めてというより、機能的だから乗る…といった雰囲気がするのは偏見だろうか。

黒装束の軍団闊歩

 その証拠に、ほとんどが正統派の黒皮つなぎである。しっかりとヘルメットを被っているのだが、それもほとんどが黒。安全性にも敏感のようで、脊椎パッドも必需品である。

 ズドドドドドとハーレーサウンドを轟かせるアメリカとは異なって、ドイツではマルチバイクでアウトバーンを疾走する姿も珍しくない。250km/hオーバーで追い越し車線を矢のように駆け回るのだから、そりゃ安全武装にも抜かりはないわけだ。

  • ひとたびドイツの週末が好天に恵まれると、郊外のパーキングカフェはご覧のようなバイク天国となる。黒装束の軍団に、クルマは主導権を奪われるのだ。
    ひとたびドイツの週末が好天に恵まれると、郊外のパーキングカフェはご覧のようなバイク天国となる。黒装束の軍団に、クルマは主導権を奪われるのだ。
  • ガソリンスタンドもバイクの列が長く続く。クルマに比較してタンク容量は少ないにもかかわらず、遠距離ツーリングが主体なのだ。燃費はともかく、燃料消費はかさむ。
    ガソリンスタンドもバイクの列が長く続く。クルマに比較してタンク容量は少ないにもかかわらず、遠距離ツーリングが主体なのだ。燃費はともかく、燃料消費はかさむ。

跨がれるのなら、なんでも来い!

 もっとも、二輪車のほとんどは正統派バイクだけど、三輪トライクや四輪バギータイプも少なくない。カワサキのエンジンを搭載したラディカルなど、日本の公道ではまずお目にかかれないフォーミュラータイプも頻繁に目にする。

 ラディカルをバイクと区分けするには無理がある。ありゃ完璧なクルマである。だけど、その精神は単なるオープンカーとは到底思えない。風と一体になりたいという意味ではバイク感覚である。そう、地味な黒装束で正統派バイクを転がす生真面目なドイツ人もやはり、風を感じ、路面との一体感を得たいのである。その点では万国共通なのだ。

  • 四輪バイクでのツーリングチームも珍しくはない。日本であれば、近所の移動用かシャレとして扱われるのが相場だが、こっちは立派にツーリングマシンとして活用されている。
    四輪バイクでのツーリングチームも珍しくはない。日本であれば、近所の移動用かシャレとして扱われるのが相場だが、こっちは立派にツーリングマシンとして活用されている。
  • もはやバギー。円形のハンドルがついてるからね。
    もはやバギー。円形のハンドルがついてるからね。
  • もはやクルマ。バイクのエンジンを搭載するとはいえ、ラディカルはほとんどレーシングカーである。だがしかし、扱われ方はバイク。
    もはやクルマ。バイクのエンジンを搭載するとはいえ、ラディカルはほとんどレーシングカーである。だがしかし、扱われ方はバイク。
  • これはアメリカ?この手の変態カスタムも隆盛の時代に突入している。
    これはアメリカ?この手の変態カスタムも隆盛の時代に突入している。

そんなに珍しいのかい?

 ニュルブルクリンク近郊のガソリンスタンドで見掛けたタンデムライダーに声をかけてみた。

「ドイツ人はバイクが好きですねぇ」

「えっ、日本では走ってないの?」

「スクーターが流行です」

「ホンダやカワサキがあるのに?」

 あごひげを蓄えた恰幅のいい男性は、怪訝な顔をした。

 たしかに、スズキやヤマハなど、世界に名だたるバイクメーカーを抱えている。

 ホンダなんかそもそも、本田宗一郎が開発したバイクが発祥なのだ。軍用無線機用発電機を自転車に括り付けたそれが始まりだ。バタバタと音がすることから、通称バタバタと呼ばれて親しまれた。そんな日本なのにバイク人口は減っているという。バイクが衰退の憂き目だというのは寂しい。

「バイクに乗るのは週末だけだよ」

「クルマは?」

「もちろんクルマも大好きさ。普段はオペルに乗っている」

「ドライブもする?」

「いや、週末の楽しみはバイクでのツーリングだよ。こいつと一体になって走るのが気持ちいいんだ」

 そう言って巨大なガソリンタンクを愛おしそうに撫でた。

 そもそもドイツには、ツーリング(もしくはドライブ)をしたくなるような爽快なワインディングロードが多い。都会からちょっと足を伸ばせば、緑豊かな美しい丘陵地帯にやってこられる。環境がそもそも違うのだ。不粋な速度制限もないしね。

  • 主流はこの手のオンオフ系ビッグバイクである。車高がやたらと高い。荷台にバケットを背負うのも珍しくない。ヘルメットもたいがい黒。
    主流はこの手のオンオフ系ビッグバイクである。車高がやたらと高い。荷台にバケットを背負うのも珍しくない。ヘルメットもたいがい黒。
  • レトロ系バイクは少数派だ。アウトバーンを突き進むには、旧車は不利なのかもしれない。
    レトロ系バイクは少数派だ。アウトバーンを突き進むには、旧車は不利なのかもしれない。

バイクは女性?

 ちなみに、オートバイは完璧な和製英語だ。英語圏では通じない。モーターサイクル。もしくはモーターバイクが正解。オートバイク=エンジン付き自転車が転じてオートバイと呼ばれることになったのだろうと推察する。

 ドイツ語でバイクは「モトアラート」。クルマは男性定冠詞を伴うのに対してバイクは女性定冠詞である。

 その理由は諸説あるものの、話を聞いた男性が愛おしく愛機を撫でる様子から、やはりバイクには女性定冠詞が似合うのだろうと思ってしまった。

 ともあれ、乗り物はすべて魅力的である。

  • 僕の愛機。モンキー50です。近々中国製になるとの噂を聞いて、あわてて購入。
    僕の愛機。モンキー50です。近々中国製になるとの噂を聞いて、あわてて購入。
  • もはやバイクではない。クーラーボックスにEVモーターがついているだけ。これも木下の愛機です。
    もはやバイクではない。クーラーボックスにEVモーターがついているだけ。これも木下の愛機です。

キノシタの近況

キノシタの近況写真

久しぶりに国内レースに参戦したぞ。富士スーパー耐久7時間レースに助っ人として参加。勝敗はともかく、楽しく遊びましょ!がテーマ。台湾人ドライバー2名と黒澤琢弥とのコンビ。つまりは台湾人ドライバーのお手伝いである。僕がスタート&ゴールを担当。スタートから1時間45分のロングドライブで17台ごぼう抜き。やっぱりレースは楽しい!

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

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