MARK X GRMN 開発ストーリー

2014.12.24 東京オートサロン2015

現代版「羊の皮を被った狼」

現代版「羊の皮を被った狼」
水野「“羊の皮を被った狼” なら、顔付きも変えなくていいかなと当初は考えていたくらいでした。その点、今回のクルマはちょっと狼だと分かってしまいますね(笑)。」
回のマークX“GRMN“の開発を全面的に指揮したのがスポーツ車両統括部の水野陽一である。水野は最初に、今回のGRMNでマークXという素材を選んだ理由、そして6MTを組み合わせることの狙いを明かしてくれた。
水野「とにかくクルマをレスポンス良く走らせたい、そのためにはやはりMTの方がいいという発想でした。マークXを素材に選んだのは、やはりFRだからです。それに走りのコンセプト自体も我々が目指すものに合っていました。」

一方で、セダン+MTを熱望するファンの声も開発を後押しした。
水野「オートサロンの会場などで話をしていると、今でもMT仕様の“ツアラーV”に乗っていて、次に欲しいクルマが見つからないというお客様がけっこういらっしゃる。マークXのG’sが出た時にも、これにマニュアルがあればという声は多かったですね。」

今回のマークX“GRMN”の開発コンセプトとして、水野は“蘇るドライビングの歓び”というワードを掲げた。
水野「言葉は古いですけど、いわば“羊の皮を被った狼”ですね。4ドアセダンだと思ってなめていたら、ぶっちぎられますよ、根底にあるのはそういうイメージです。」

「エンジン本来の良さ」を、どこまで引き出せるか。

「エンジン本来の良さ」を、どこまで引き出せるか。
ースモデルのマークXには極めて高性能なV6 3.5Lエンジンが用意されている。ポート噴射と筒内直接噴射を併用し、自然吸気でありながら最高出力318PSを発揮する世界屈指の性能を誇るパワーユニットである。
水野「ただ、このV6 3.5Lエンジンも、ATに最適化された仕様では何となくもっさりした印象がありました。ATでは変速操作もクラッチの断続も全て機械任せですから、とにかくショックを出さないよう、どうしてもマイルドな特性になる。ところが、試しにMTを載せてみたら驚くほど走るんです。これなら行けるということで開発が本格的にスタートしましたね。」

水野「このエンジンの魅力は、パワー、キレのいい回転、アクセルレスポンスの良さ、トルク感。ただしATではその半分くらいしか味わうことができません。このエンジンそのものの良さを味わってほしいというのが、今回の大きな狙いなんです。」

今回のGRMN用パワートレーンでは、6速の各ギア比およびファイナルギア比が、いずれもATに比べローギアード化されている。ここにも、エンジンの“レスポンス”をとことん引き出すという水野の狙いがあるのだ。

次に何が必要か、トータルバランスで考える。

次に何が必要か、トータルバランスで考える。
G’sで採用されたボディ補強をベースに、さらにフロントまわりのエプロン三角ブレース、リヤのパーテーションブブレースを追加。サーキット走行を視野に入れた高次元のボディ剛性を確保している。
次に何が必要か、トータルバランスで考える。
フロント・リヤガラスとボディの接着には高剛性接着剤を採用。開口部の剛性を効果的に高める効果を発揮する。
MT化によってV6 3.5Lエンジンのポテンシャルが存分に引き出されたことで次にクローズアップされたのが、そのパワーを受け止めるリヤタイヤの性能である。
水野「当初はG’sと同じタイヤサイズ(フロント、リヤともに235/40R19)でいいと思っていたんです。ところが実際にV6 3.5Lエンジン+6MTの組み合わせで走らせてみると予想以上にレスポンスが良く、これではリヤタイヤの性能が足りないと。そこでリヤタイヤのサイズアップを決めました。」

結果、マークX“GRMN”のリヤには255/35R19という一層ワイドなタイヤが採用されることになる。タイヤの性能が上がれば、今度はボディ側の強化が必要になってくる。もともと相当なボディ補強をしているG’sのボディをベースに実際の走り込みを重ねながら、さらなる補強が行われた。

今回のマークX“GRMN”には、ボディパネルへの各種ブレース追加といった大がかりな変更に加え、さまざまな部分にも剛性向上を狙った技術も採用されている。前後のガラスに採用された高剛性接着剤や、4枚のドアに採用されたドアスタビライザーがそれだ。
こうして得られたボディ剛性をトータルな性能の一部として織り込んだ上で、走りの「味」の練り込みが進められていった。

パワートレーン、タイヤ、ボディという性能ファクターが固まったことで、マークX“GRMN”の開発は「クルマの味」を左右するサスペンションセッティングやVSCを始めとする挙動制御の作り込み段階に入る。
ここであらためて“GRMN”とは何かを掘り下げておきたい。ドイツ・ニュルブルクリンクを舞台に「クルマの味作り」を続けているのがGAZOO Racingである。その精力的なモータースポーツ活動をバックボーンとして、ニュルを知り尽くしたマイスターが味付けを行うコンプリートカーブランドがGRMN(GAZOO Racing tuned by MN)だ。
ニュルブルクリンクの北コースは、荒れた路面、激しいアップダウン、狭いエスケープゾーンなど、世界一過酷なサーキットとして知られている。そこで開発陣が何を確かめようとしたかを知れば、マークX“GRMN”の狙いが見えてくる。

水野「ニュルを速く走ろうとしたら、普通のレーシングカー然とした固い足まわりでは跳ね回ってしまってトラクションがかからない。複合入力でクルマが揺れるようなところもあれば、旋回中に逆相で入るようなところもある。今回のクルマは、そういうシチュエーションでもしっかり足が追従します。ニュルはサーキットというより、むしろ長いクローズドのカントリー路というイメージです。街乗りからサーキットまでの性能を総合的に確かめるにはちょうどいいんです。」

ニュルを知り尽くしたマイスターとともに作り上げたのは、シビアな条件でも破綻しない懐の深さである。

GRMN だからこそ到達できる領域を目指して。

GRMN だからこそ到達できる領域を目指して。
ークX“GRMN”には、軽量化を目的とした数々のスペシャルパーツが採用されている。いずれも単に車両重量を軽減するというより、バネ下重量の低減や挙動変化に関わる重量バランスの最適化など、むしろ走りの質の向上を目的としたものだ。
水野「ブレーキ性能に関しては、G’sで既にベースモデルよりサイズを上げた4ポッドキャリパーを採用していますので、今回のエンジンパワーに見合うキャパシティは十分足りていました。その代わり、今回は軽量化にこだわってフロントのブレーキローターを2ピースに変えています。」

一方でBBS社製のアルミ鍛造ホイールは、マークX“GRMN”のために開発された専用デザインだ。
水野「1本あたりフロントが約10kg、リヤが約10.2kgですから、ホイールも相当軽いですね。」

ブレーキローターの軽量化も、軽量なアルミ鍛造ホイールも、バネ下重量を低減するためのこだわりである。さらにルーフパネルにはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用し、ベースモデルに比べて約10kgの軽量化を実現している。車両の高い位置にあるルーフパネルが約10kg軽くなると、その効果はどう現れるのだろうか。

水野「実はクルマの重心位置自体はそれほど変わりません。ただし慣性モーメントは格段に小さくなる。つまり重心位置から遠い位置にあるものが軽くなるほど、動きが軽くなるんです。そうするとダンパーを固くしなくても済むので、味付け領域の自由度が増します。絶対的な重さの違いは10kg程度であっても、クルマの過渡的な運動性能には相当効いています。」
  • 専用デザインとなるBBS 製のアルミ鍛造ホイール、その奥に見える2 ピース構造のブレーキローターともに大幅な軽量化が図られている。
    専用デザインとなるBBS 製のアルミ鍛造ホイール、その奥に見える2 ピース構造のブレーキローターともに大幅な軽量化が図られている。
  • スチール製ルーフに比べ約10kg の軽量化を実現したCFRP(炭素繊維強化プラスチック)ルーフパネル。旋回時のロール方向のモーメントを軽減し、結果的にしなやかな足まわりの実現にも貢献している。
    スチール製ルーフに比べ約10kg の軽量化を実現したCFRP(炭素繊維強化プラスチック)ルーフパネル。旋回時のロール方向のモーメントを軽減し、結果的にしなやかな足まわりの実現にも貢献している。

非日常の楽しみも、日常の続きにある。

非日常の楽しみも、日常の続きにある。
非日常の楽しみも、日常の続きにある。
水野「濃い味、スペシャルな味って、すぐに飽きると思うんです。それよりも毎日乗っているうちに肌になじんでくるようなクルマがいいと信じています。だから、本当に毎日使って欲しいですね。そうすればどんどん良さが見えてくるはずです。」
ークX“GRMN”は、文字通り街中からサーキットまで楽しめるクルマとして生まれた。
水野「今回のクルマでは、VSCを“曲がる”ためにも積極的に使っています。VSCを効かせたままでもコーナリングを相当楽しめる。よほど腕に自信がある方で無い限り、VSCをOFFにしない方がサーキットを速く走れると思います。」

スポーツ走行を想定して専用チューニングされたVSCは、4輪のブレーキを独立制御しながら、ドライバーの意図に合わせた旋回モーメントを生み出す。限界付近のコーナリングでもドライバーにVSCの介入を意識させることはない。さらにOFFにすれば、ドライバーの腕に応じたドリフト走行も楽しめる。その幅広さは、このクルマと過ごすシーンの幅広さであり、ドライバーの気分や運転スキルに応じて楽しめる奥深さでもある。
  • 開発責任者 スポーツ車両統括部 水野 陽一
    GRMN 開発責任者
    スポーツ車両統括部
    水野 陽一