クルマ「味探し」の旅 第2回:日本を代表する食品・飲料メーカーの「味づくり責任者」との味づくり懇談会 各界のマイスターに極意を学ぶ

飲料、食品、クルマとジャンルは違えど、味づくりのこだわり、悩みは共通。

懇談会の冒頭で司会の高田さんから、トヨタの考える『クルマの味づくり』についてのプレゼンテーションが行われた。そして、それに対する感想から懇談会の議論は始まった。各社の味づくり責任者からは、トヨタの「味づくり」へのこだわりを理解した上で、さまざまなアドバイスを頂戴した。
吉村さん:目標設定の仕方がラーメンの味づくりにとてもよく似ていると感じました。ラーメンスープの設計やできた製品を評価する際も、「消費者の方々の目線に立って考えること、地域やターゲット、食シーンなどを想定して設定すること」が大切になります。

うまい!か、まずい!かは一瞬で決まる。それを機械で測定するには限界がある。


現在、さまざまな企業の味づくりの現場ではさまざまな計測機器が導入され、味づくりをサポートしている。それは今回の懇談会に出席しているマイスターたちの現場も例外ではない。データ計測技術がどんどん進歩する一方で、いま、なぜマイスターと呼ばれる人たちが注目を集めているのだろうか?また、マイスターたちは人間と機械の役割分担をどう考えているのだろうか?
この問い掛けに対して、彼らは異口同音に「味とは簡単に数値で置き換えることができるような単純なものではない」「プロの感覚は極限まで研ぎ澄まされており、到底、機械はそれに追いつくことはできない」「機械が人間にとって替わることは不可能」と回答した。
吉村さん:スープを機器で分析した場合、「どのような成分がどれだけ含まれているか」という数値は動かないが、それを評価する人間の感覚は一定でなく、変化する。これは飲料などでも同じだと思うが、温度が1℃変化するだけで美味しい/まずいの感覚は変わってくる。
輿水さん:たとえば、同じウイスキーでもバカラのグラスに注がれていたり、きれいな透明な氷があるだけで味が変わってくる。そこに、バーテンダーが作り手の美意識やこだわりなどの情報を付加する。そうなると、実は飲む前から、脳の中では「これは旨い」と刷り込まれてしまっている。
高橋さん:味というのは、人間の五感(目・舌・耳・鼻・手)で感じた情報を脳がトータルに判断して決めるもの。複雑な情報処理の結果である。そして、私たちが大変なのは、一人だけが満足する味をつくっても意味がないということ。複数の人が「美味しい」と判断するに至ったプロセスの共通項を探して、より多くの人が満足する味をつくらなければいけない。
山本さん:サントリーの元会長の佐治敬三さんは「嗜好は芸術作品に近い」といっていた。つまり味づくりには芸術と同様に人間の感性やイマジネーションが重要になってくる。学問的な基礎知識や数値で表せるものは数値にして基礎部分を固めた上で、最後の仕上げは感性で行う。また、驚きや感動という要素も必要。数値より先に、作り手が「こういう味にしたい」というイメージを持つことが大事である。
輿水さん:うまい!か、まずい!かは一瞬で決まる。それを機械で測定するには限界がある。
成瀬さん:クルマも同じ。データというのはあくまで結果の数値。そこに至るまでの瞬間的な過渡特性は数値に出てこない。
[2008年7月 取材]