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一般に日本の企業は「お客様第一の精神」が強すぎて、お客様アンケートなどのマーケティングデータに頼りすぎる傾向があるといわれる。また組織の中で仕事をする以上、社内のさまざまな組織を説得するためにもこうしたデータは重要になってくる。しかし、大ヒット商品を生み出すようなイノベーションやブレークスルーのためには、時としてマーケティングデータを無視し、いい意味で「お客様を裏切る」ことも必要である。
日清食品ではブランドマネージャーがさまざまなデータを集めて持ってくるが、自分の肌身で感じて、自分の言葉で説明できないものは、いかにそれが客観的なデータだとしても採用されないという。役員会で新商品の発売を決定するとき、担当取締役の説明ではその肌感覚が伝わってこない場合には、部長、次長、課長、そして最後には担当の係長が呼び出されて、説明をすることもあるという。それだけ肌身の感触、自らの体験に基づいた事実、「いける!」という実感が重視されているのである。これはトヨタ自動車の"現地現物"という考え方に、相通じるものがある。それはまたサントリーにおいてもしかりである。
また、まるで神様が与えてくれたような不思議な縁や偶然によって、新しいイノベーションの萌芽を組織の圧力から守り、潰されることなくひっそりと育っていた芽が長い時を経て大輪の花を咲かせることもあるという。
山本さん:
(後にモンドセレクションの最高金賞を受賞。大ヒット商品となった)ザ・プレミアム・モルツは、そもそも1989年、武蔵野ビール工場内にサントリーミニブルワリーを竣工した際に、竣工記念のビールとして私が開発したもの。サントリーの新製品として開発したものではない。パイロット・プラントでつくったビールだったから自分の好きなようにつくることができた。もし、コマーシャル・プラントだったら、きっと同じものはつくれなかった。なぜなら、当時は、キレを重視したアサヒ・スーパードライが爆発的にヒットしていた時だったから。みんながそっちに流されていたときに、正反対の性格を持ったこのビールが発売できたかどうかは疑問です。
成瀬さんはかねがね、「クルマは人が作るんじゃない。道がクルマを作る。風土や文化が作るんだ」と語ってきた。「ドイツにはドイツの道にあったクルマが生まれ、フランスにはフランスの、イタリアにはイタリアの、イギリスにはイギリスの、それぞれの文化や風土にあったクルマが作られている。それはすなわち、道がクルマを作るということだ」。同様に、いまや世界食となったインスタントラーメンにおいても、世界各地の風土や文化を反映した即席ラーメンが誕生しているという。おおよそ麺と具材においては共通性がみられるがスープにおいては百家争鳴の状態。現地企業の手でさまざまな味の即席ラーメンが作り出され、ややもすると即席ラーメンが日本で誕生した食品であることすら忘れられ、あたかもそれぞれの国で生まれた食品と消費者が勘違いするほどになっているという。
しかし、そこで大切なことは"日本らしさをしっかりと持つ"ことだと成瀬さんはいう。それぞれの文化や風土を尊重しても、けっして迎合してはいけない。それは猿まねになりかねないからだ。
また、クルマの味は素材が決める。クルマにはヴィッツのような便利なクルマもあれば、楽しいクルマ、癒されるクルマとさまざまな個性とタイプがある。だから、それぞれのクルマにあった味付けが必要だと成瀬さんはいう。
こうした成瀬さんの持論には出席したマイスター全員の共感を呼んだ。
輿水さん:
日本ではウイスキーは水割りという独特のスタイルで定着してきた。だから、ブレンダーは食に合うウイスキーを意識し、個性を主張しすぎず、繊細なバランスのウイスキーを作ってきた。時に個性がないとも言われたが、『山崎』や『白州』を海外に持って行って飲んでみたとき、それはすごく日本独自の色が鮮やかに引き立つ個性的なウイスキーになっていることに気付き、驚いたものだ。道がクルマを作るとはそういうことだと思う。日本の文化や風土が日本のウイスキーを作ってきたのだと。
山本さん:
当社の営業からは「こんなビールは売れない」とまでいわれたザ・プレミアム・モルツが大ヒットしたのは、モンドセレクションで最高金賞を受賞したことがきっかけとなったのは確かである。しかし、それだけが理由ではない。成瀬さんが「文化や風土」とおっしゃったように、ヒットの裏には、時代の背景(バックボーン)があると思う。つまり、スーパードライが大ヒットし、さらに発泡酒や第3のビールが誕生し、ビールのもつ味わいがどんどん減少していった。だから、ビール本来の味わいに対する強い枯渇感があったのだ。また、ザ・プレミアム・モルツは美味しさのバランスと華やかなホップ香が最大の特徴であり、それが日本でも本場・ドイツ、チェコでも高く評価された。
[2008年7月 取材]
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