Vol05:各界のマイスターに極意を学ぶ味を売る~「プロの味」の商品化とコミュニケーション

楽しくなければ、美味しくない!

 カップヌードルはシンプルな商品であり、もはや味についてお客様にメッセージすることはなにもない。だから、かなり以前から、若い世代に対する青春讃歌、スピリッツをメッセージとして広告をしてきている。有名な『hungry?』もその代表例。そして、『NO BORDER』『FREEDOM』、さらには今日の『DREAM』へとつながっている。カップヌードルにおいては、お客様に楽しい気持ちになっていただくことが美味しさへとつながる。そして、食べてもらう機会が増えれば、増えるほど、累乗的に、またほしくなるのだという。

ネットがコミュニケーションを変える。

 トヨタでは2008年に『TOYOTA METAPOLIS』を開設し、ネット上でのお客様との新しいコミュニケーションを開始した。今後、ネットをいかに活用し、さらに、ネット世代と呼ばれる若年層とどういったコミュニケーションをしていくのかということがマーケティングの上で重要なテーマになっていくはずである。また、この新しいコミュニケーション手段により、従来のメディアでは伝えきれなかった、味づくりの奥深さや面白さを伝えることができるかもしれない。
豊留さん:
2007年に発売したミルクシーフードヌードルは従来のカップヌードルのスタンダードなマーケティングとはまったく違う手法によって成功した異色の商品である。発売する10年以上も前から「牛乳でシーフードヌードルを作ると美味しい」という噂は口コミで広がっていた。開発を担当した若手社員が試しにネットで検索してみたら、当時、29,000件もヒットした。それだけ多くのお客さまが実際に自分で実験し、ブログなどでその情報を発信していたのだ。そこで、今度は「その噂の商品を日清食品が本気で開発したら、こんなに美味しくなった!」という情報をネットで配信した。開発の経緯や開発秘話などの情報を、発売日の数週間前から毎週、発信していった。それによって、ネットで火がつき、多くのマスコミがどんどんその話題を取り上げ、宣伝してくれた。その結果、予想以上に幅広い層にまで情報が波及し、発売前からすごい引き合いがあった。ミルクシーフードヌードルによって、マーケティングが変わってきていることをあらためて実感した。
高橋さん:
『伊右衛門』が発売された日、突然、注文が殺到し、品切れになった。そんなことはいままで経験がなかった。調べてみたら、事前にブログで紹介されていて、それがネット上で話題になっていたためだとわかった。びっくりした。また、ネットではゲームと連動したキャンペーンをおこなうとアクセスが増加するようだ。現在、当社では商品のウエブサイト作りに商品開発と同じくらいのパワーを掛けている。ネットには味の深みを伝えるポテンシャルがあるので、今後、若い世代へのコミュニケーションはネットを中心に変わってくるだろう。
大原さん:
アメリカで発売している当社のブランド『サイオン(Scion)』はネット世代をターゲットに展開しているものだ。ブログを中心に、西海岸から火がついて、全米に広がっていっている。
服部さん:
広告コミュニケーションはいわばお客様へのラブレター。そのラブレターの置き場所がネットの登場によって、さまざまな可能性が出てきたと思っている。そして、それが限りなくワン・ツー・ワンになってきた。商品や味とのいい出会い(ファーストエントリー)によって、それが記憶に残るものとなり、それがゆくゆくは自分の味、味の好みへと発展していく。私たちはこの出会いをどう演出し、またその機会を作り出していくのか? その出会いのカタチは一人ひとり違うものだが、お客様が自ら情報を発信でき、またその反応も返ってくるブログというメディアにはそれを実現できる可能性を感じている。
撮影場所:レクサスインターナショナルギャラリー青山
[2008年7月 取材]