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スーパーフォーミュラ 2015年 第2戦 岡山
エンジニアレポート

開幕戦鈴鹿の勝利も危機感あり
そして、第2戦岡山では改善の結果を出す
トヨタ自動車株式会社 東富士研究所
モータースポーツユニット開発部 小島信也エンジニア

昨年はトヨタの新エンジン"RI4A"が9レースで8勝を挙げ、ドライバーズチャンピオンを中嶋一貴選手、チームチャンピオンはPETRONAS TEAM TOM'Sが獲得しました。2015年もトヨタエンジンユーザーが活躍し、素晴らしいレースをお見せできるようがんばっていきます。その熱戦を支えるエンジンの開発・調整を行う東富士研究所の小島信也エンジニアに第2戦岡山の戦いを振り返っていただき、次戦への抱負をお話ししていただきます。

2015年はパワーとドライバビリティーの向上
これを高いレベルで両立させることを目標にする

開幕戦で好スタートを決めて優勝したアンドレ・ロッテラー選手
開幕戦で好スタートを決めて優勝したアンドレ・ロッテラー選手
 スーパーフォーミュラでは、トヨタエンジンを搭載するドライバーを応援していただき、ありがとうございます。私は、トヨタのスーパーフォーミュラ用エンジン"RI4A"を担当する東富士研究所の小島と申します。今回は、今シーズンのエンジンに関してと第2戦、岡山国際サーキットでの状況などをお話ししたいと思います。
 昨年は比較的トヨタエンジンに優位性があった。そう分析していたので、今シーズン用のエンジンを開発するに当たって"そのアドバンテージを保てること"が開発のコンセプトになりました。つまり、ライバルがどれだけ速くなるかを予測して、それと同じだけこちらも速くする。これができれば、去年と同等のアドバンテージが保てるだろう、と考えていました。具体的には、やはりパワーアップとドライバビリティー(※1)の向上。これを高いレベルで両立させようと開発を進めてきました。
 自分たちで具体的な目標を設定して、テストでそれを達成できてシーズン開幕に臨むことができた...。そいう自負していたのですが、開幕戦鈴鹿ではいきなりホンダエンジンにポールポジションを奪われてしまいました。自分たちが想定していた以上に『ライバルのポテンシャルが上がっていた』と、そんな印象がありました。また、各チームから鈴鹿サーキットの前半部分と後半部分で勝ったり負けたり、との評価もありました。そこで、自分たちで4つのセクターのタイムを分析したところ、セクター1とセクター3で遅れを取っていて、セクター2とセクター4でもハッキリとリードしているといったほどの差はありませんでした。決勝レースでは好スタートを決めたアンドレ・ロッテラー選手(PETRONAS TEAM TOM'S)が勝ってくれたものの、正直『ピンチだな』と思いました(苦笑)。
 そこで第2戦の岡山に向けては、更なる性能アップを目指して努力してきました。結果的には、信頼性を犠牲にする(※2)ことなくパフォーマンスを上げることができました。今回の公式予選では、38号車の石浦宏明選手(P.MU/CERUMO・INGING)がポールポジションを獲って、性能向上を証明してくれました。

※1 「ドライバビリティー」 ドライバーが思うとおりにクルマが動くこと。エンジンでは、アクセルペダルを操作したとき、ドライバーのイメージ通りに回転数が上がり、パワーが出ること。エンジンの扱い易さに繋がります。
※2 「信頼性を犠牲する」 エンジンはパワーを上げると各部分への負荷も上昇し、信頼性も低下してトラブルが誘発される場合が多いのです。そのため、信頼性の低下を下げずに、パワーを上げるのは難しいのです。

岡山での石浦選手38号車の速さは
クルマ全体のパフォーマンスを引き出した結果

第2戦で実質的なポール・トゥ・ウインを飾った石浦宏明選手
第2戦で実質的なポール・トゥ・ウインを飾った石浦宏明選手
 スーパーフォーミュラのレギュレーションでは、第2戦にエンジン自体の変更はできません(※3)。しかし、ソフトウェア、つまり制御関係ではチューニングも可能です。第2戦岡山では、そこでできること、特にドライバビリティーの向上と、第1戦鈴鹿で起きた不具合に対処して調整・改善してきました。石浦選手の38号車がポールポジションを獲ったことで、エンジンの進化が証明された格好ですが、もちろんこれはエンジンだけではなくてシャシーも含めてクルマ全体としてのパフォーマンス(※4)がアップしていた、ということでしょうね。。
 予選ではロッテラー選手やアンドレア・カルダレッリ選手(LENOVO TEAM IMPUL)がQ2で敗退していますが、これはクルマのパフォーマンス云々ではなくて、セッションの途中、アタックラップに入ったところでコース上に止まったクルマが出て、赤旗による中断があったことが、大きかったと思います。運、不運の部分ですね。
 決勝でも石浦選手は完璧なレースを組み立てたのだと思いますが、他のドライバーはいろんな要素もあったのだと思います。結果がそのままパフォーマンスのレベルとイコールではなかったように思います。例えばLENOVO TEAM IMPULの2台、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手の19号車とカルダレッリ選手の20号車が5位と6位でゴールしていますが、予選4位から好スタートを決めて序盤2番手を走っていたデ・オリベイラ選手がピットインでポジションを下げてしまったのに対して、カルダレッリ選手は予選10番手からスタートで14番手と出遅れ、ピットインを早めに行うという作戦でリカバーして6位になった、という具合です。
 それとPETRONAS TEAM TOM'Sに関しては中嶋一貴選手が欠場した影響もあったのだろう、と思います。中嶋選手に代わり、大嶋和也選手が1号車で走っていますが、やはり去年1年フルシーズンで走っていた中嶋選手と、テストで走っただけの大嶋選手(※5)ではクルマを仕上げる上での持っているデータ量が違ったのかな、と思いました。

※3 「第2戦にエンジン自体の変更はできない」 スーパーフォーミュラのレギュレーションでは同じエンジンを4大会使用することになっています。このため、第1戦と第2戦は機械的に同じエンジンを使用しなくてはいけません。
※4 「クルマ全体としてのパフォーマンス」 クルマを速く走らせるにはエンジンパワーだけで上手くいかないことが多いのです。エンジンの特性やシャシー側の空力、サスペンションも上手くセットアップし、パワーやトルクを路面に上手く伝えるなど全体でパフォーマンスを上げることが大事です。
※5「テストで走っただけの大嶋選手」 中嶋一貴選手はWEC第2戦のクラッシュの影響で第2戦を欠場。代わって1号車をドライブした大嶋選手は3年ぶりの実戦参加だ。昨年もエンジンテストには参加しましたが、岡山ではSF14を走らせていません。

開幕2連勝にうかれることなく
見つけた課題を一つ一つ改善していく

喜びを分かち合う石浦宏明選手、立川祐路監督、小林可夢偉選手
喜びを分かち合う石浦宏明選手、立川祐路監督、小林可夢偉選手
 第2戦は、結果だけ見れば満足できるレースだった、ということもできます。ですが、細かく見ていくと課題もあって、決して喜んでばかりはいられない状況だと思います。例えば実質的なポール・トゥ・ウイン(※6)を飾った石浦選手のクルマですが、日曜朝のフリー走行では止まってしまいました。制御系のトラブルで、その15分後に行われたサーキットサファリまでには対策を終えて走り出すことができて。大事には至りませんでした。また、大嶋選手も同様にフリー走行でストップしていて、両チームの皆さんに迷惑をかけてしまいました。他にも幾つか課題が見つかっています。
 まだレースが終わったばかり(決勝翌日の取材)で、詳しい原因など分析はこれからですが、ひとつひとつ、次戦に向けて対策を進めて行くことになります。第3戦は富士スピードウェイが舞台で、今回の岡山とも、また開幕戦の鈴鹿とも異なったキャラクターのサーキットです。先にも言ったようにレギュレーションでできることが限られている中で、パワーを出すための手段としては幾つか分かっており、富士仕様にエンジンをコンバートする準備はできています。ですが、まだちょっと時間があるので、いろいろとトライしながら超高速コースの富士スピードウェイに適したベストパフォーマンスが発揮できるよう、エンジンの改善と開発を進めて行きます。
 声援を贈ってくれる皆さんの期待に応えられるよう、感動を与えられるレースをドライバーとチームが全力でできるよう、我々もがんばります。

※6 「実質的なポール・トゥ・ウイン」 スーパーフォーミュラでは決勝レースでピットインを行う必要があります。このため、ピットインのタイミングで各車の実質的な順位が変わることもあります。第2戦でトップを走った石浦選手もピットイン後に一時的に2位となったが、全車ピットイン後にはトップに戻っています。