スーパーフォーミュラ 2015年 第3戦 富士
エンジニアレポート
危機感を持って臨んだ第3戦富士
その努力が予選、決勝の上位独占を支援
トヨタ自動車株式会社 東富士研究所
モータースポーツユニット開発部 小島信也エンジニア
2015年のスーパーフォーミュラでは、開幕戦鈴鹿でアンドレ・ロッテラー選手が優勝したのを皮切りに、第2戦岡山では石浦宏明選手がポールポジションから初優勝。そして、第3戦富士では、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手が今季初優勝を掴み取りました。今年も序盤3戦を終え、TOYOTA GAZOO Racingのドライバー、チームの活躍が目立っています。その快進撃を支えるトヨタエンジンの開発・調整を行う東富士研究所の小島信也エンジニアに、第3戦富士の状況を振り返っていただき、次戦もてぎへの抱負をお話ししていただきます。
今季1基目のエンジン、最後のレース
富士は鈴鹿と同じ95kg/hのリストリクター
トヨタ自動車株式会社 東富士研究所
モータースポーツユニット開発部 小島信也エンジニア
スーパーフォーミュラでは、トヨタエンジンを搭載するドライバーを応援していただき、ありがとうございます。私は、トヨタのスーパーフォーミュラ用エンジン"RI4A"を担当する東富士研究所の小島と申します。今回は、第3戦富士スピードウェイでの状況と、次回の第4戦ツインリンクもてぎで使用する今シーズン2基目のエンジンについてお話ししたいと思います。
スーパーフォーミュラでは、レース車両1台で使用するエンジンの台数がレギュレーションで決まっていて、2015年シーズンは開幕戦から今回の第3戦までを1基のエンジンで戦い、次回の第4戦から最終戦までを2基目のエンジンで戦うことになっています。ですから、今回使用したエンジンは鈴鹿や岡山で使用して、これが3レース目となるエンジンです。もちろん、3レース分の走行距離に安全率(※1)を掛けていて、マイレージ(走行距離)においては3レースを十分に戦い抜くことができるようになっています。またコンピュータのプログラムなど"ソフトウェア"部分に関しては、レース毎にアップデートさせることもレギュレーションで認められていて、今回も点火系やシフトのアップダウンの制御など、アップデートしたプログラムとなっています。
今回は富士のレースでは開幕戦の鈴鹿と同様に、燃料の最大流量が燃料リストリクター(※2)によって95kg/hに制限されています。前回の岡山は90kg/hでしたから、今回の仕様は開幕戦の鈴鹿のものに、その開幕戦の鈴鹿と前回の岡山で得たデータをもとに(ソフトウェアを)アップデートしたもの、ということになります。
※1 「3レース分の走行距離に安全率」 土曜日の朝に行われる1回目のフリー走行から、日曜の決勝レース終了までに600km近くを走ります。3レース分だと1800kmとなりますが、十分な余裕(安全なマージン)を見込んで、その1.5倍とか2倍の距離を走行できるよう、強度、耐久性などを考えて様々なパーツを設計しています。
※2 「燃料リストリクター」 スーパーフォーミュラの大きな特徴の一つが燃料リストリクター。これは燃料の流量を制限するパーツで、富士と鈴鹿では95kg/h(毎時95kg)、それ以外のサーキットでは90kg/hと決められています。少ない燃料で十分なパワーを引き出す、つまり市販車エンジン開発にも繋がる燃料効率の高さを競うレースと呼ばれる所以です。
予選、決勝を通じてアドバンテージを確信
スタートでの制御系も進化している
表彰台を独占したTOYOTA GAZOO Racing勢
開幕戦ではアンドレ・ロッテラー選手(PETRONAS TEAM TOM'S)が勝ってくれましたが、公式予選ではライバルのホンダエンジンにポールポジションを奪われてしまっていて、『正直言ってピンチだな』と思っていました。その鈴鹿と基本的には同じ条件の富士仕様でしたから、レースウィークを迎えるまでは、随分緊張感がありました。
ところが、公式予選でも決勝でもトヨタエンジンユーザーが上位を占める結果となって、少しホッとしました。詳しい分析はまだですが(お話はレース直後のもの)、コンディションが目まぐるしく変わった公式予選(※3)でも、ドライコンディションで安定していた決勝レースでも、ラップタイムや最高速をチェックしていて、『今回はトヨタにアドバンテージがあるな』と感じました。レース結果にはいろいろな要素があってライバルの詳しい状況は分かりませんが、エンジンそのものについても『(ホンダの、鈴鹿からの)上げ代がウチほど大きくなかったのか』と思いましたね。
今回の決勝レースでは、国本雄資選手(P.MU/CERUMO・INGING)の好スタートが印象的でしたが"スタートしやすい"ということもエンジンの重要な性能だと思っています。現在使用しているSF14ではハンドクラッチを使用(※4)していて、採用初年度となった2014年シーズンには、これに苦労するドライバーも見受けられたようですが、2年目となる今年はドライバー側も、ハード側でもその対応が進みました。ハンドクラッチ自体の制御も進化していますが、エンジン側でもどんどんとアップデートしてきて、スタートしやくなっています。
※3 「目まぐるしく変わった公式予選」 雨に見舞われた今回の公式予選は、Q1、Q2、Q3と雨の量がまちまちで、そのためにシャシーのセッティングやタイヤ選択(レインタイヤは1種類ですが、新品と使い込んで溝の浅くなったタイヤではフィーリングがかなり違う)など、エンジン以外の要素も大きかったのです。
※4 「ハンドクラッチを使用」 昨年から使用しているSF14ではスタート時のクラッチを手で操作します。ペダルはアクセルとブレーキの2本のみとなっています。このため、当初は多くのドライバーが戸惑っていました。ドライバーが慣れるのと並行して、エンジンの制御系でもスムースにスタートできるよう進化させています。
次戦からは2基目のエンジンを投入
もてぎ仕様の90kg/hでも"もっとパワーを出す!"
巧みなブロックを見せサーキットを沸かせた小林可夢偉選手
次回の第4戦もてぎからは2基目のエンジンになります。これは今、開発しているところですが、開発テーマは"更なるパフォーマンスアップ"、つまりは"もっともっとパワーを出そう"ということです。機械部分に関しては、あまり大きな変更はできませんが、レギュレーションで認められているものに関しては少しずつ手を加えて、また制御関係は、ここまでテストを続けて効果の確認できたものを組み込んでいきます。
機械部分に関してはレギュレーションで認められている開幕戦と第4戦、シーズン1基目のエンジンと2基目のエンジンを投入する段階で、制御関係は毎戦毎戦、それぞれアップデートをしているのですが、全チーム分を用意するために製造側の"締め切り"があって、開発からテスト確認までが"締め切り"に間に合ったアイテムを、順次レースエンジンに搭載していく。そんなイメージでエンジンを進化させています。
第4戦で搭載するツインリンクもてぎ仕様は、燃料の最大流量が燃料リストリクターによって90kg/hに制限が強化されていますが、やはり狙いはパワーアップです。もてぎはストップ&ゴーのレイアウトで、エンジン性能に関しては加速が重要ですが、パーシャルで使う(※5)ことはあまりなくてほとんどの時間、フルスロットルで走っている(※6)ので、中低回転域のトルク特性を重要視して、という考え方ではないですね。このままアドバンテージを保っていきたい。そう思っています。
これからも素晴らしいパフォーマンスのエンジンを用意して、TOYOTA GAZOO Racingのドライバーとチームが全力でレースを戦えるようサポートしていきます。引き続き、彼らへ皆さんの熱い声援をお願いします。
※5 「パーシャルで使う」 レースでのアクセルペダル操作は全開か全閉かと思われがちですが、半分だけ踏み込んだり、4分の1だけ踏み込んだり、と微妙に調整する場合も少なくありません。この全開、全閉でない微妙なアクセル開度をパーシャル(partial、部分的)と言って、エンジン特性も重要な性能のひとつとなっています。
※6 「フルスロットルで走っている」 ツインリンクもてぎのようにストップ&ゴーと呼ばれるレイアウトのサーキットでは、コーナーの立ち上がりでアクセルペダルをジワジワ(パーシャル)でなく、ガンと全開に踏んでいきます。少し意外かもしれませんが、このためもてぎは、エンジンの全開率が高い"パワー系のサーキット"なのです。