2014年シーズン開幕直前
新型RI4Aエンジン 開発エンジニアインタビュー
今シーズンからスーパーフォーミュラおよびSUPER GTに投入される全く新しい直列4気筒直噴ターボエンジン「RI4A」。2014年シーズン開幕を前に、永井洋治 スーパーフォーミュラ プロジェクトリーダーと、トラックサポートとして現場のまとめ役を担当する佐藤真之介エンジニアに新型エンジンの評価、開幕戦への意気込みなどについてうかがった。
−−これまでのテストでは具体的にどのようなことを行なってきたのでしょうか?
永井洋治(以下永井):開幕戦に向けて、新しい車両規則、新しいエンジン規則のコンセプトを受け、しっかりレースを戦うことを一番の目標に、合同テストではそのための問題の洗い出しとレベルアップを図ってきました。その点は我々の目標どおりに進んでいます。我々エンジニアは常に次のステップアップを目指さなくてはならないので100%ということはありませんから、8割9割といったあたりでしょうか。
佐藤真之介(以下佐藤):メインはドライバビリティの向上です。開発テストは1台のクルマを使って1人ないし2人のドライバーでテストをするので、それな
りに完成度の高いものができます。しかし、実際にレースに出場する11人のドライバーがそれぞれのチームで作ったクルマに乗れば、ドライビングスタイルの違いやクルマの作り方の違い、そして製品による"バラつき"が出てきます。そういう"バラつき"に対して、自分たちの作ったエンジンがちゃんと適合できているかどうかを確認することが、テストの主な目的でした。
鈴鹿テスト時にトラブルが出てしまったのですが、自分たちがそのバラつきを捉え切れなかったということが一番の原因ですね。量産車にはよくあることで、開発段階はいいけれども、いざ量産してみるとユーザーの使い方が想定外で問題が起きる、という典型的なパターンでした。そういう意味では、自分たちのテスト中の視野が狭かったんだと思います。あまりにもテストがうまくいきすぎてしまったことの反面というか、そういう意味で、視野が狭くなってしまってカバーできていなかったというのが正直なところです。
−−その点、富士のテストは順調でしたか?
佐藤:その目的に対しては、概ねレースができるレベルに至ったと思っています。8割か9割ぐらいと言っていいのではないかなと。かなり手応えはあります。
永井:鈴鹿で起きたトラブルの原因は100%究明できたので、富士のテストにはすべて織り込み済みです。
−−トヨタエンジンユーザーがリザルトの上位を占めましたが、その点はどう評価していますか?
佐藤:自分たちとしてはタイムを目標に設定はしていなくて、エンジン屋としてはエンジンとパドルシフトのシステムのふたつにトラブルなくテストをこなすこと、それをまず第一の目標としていました。そのうえでチームがちゃんとクルマを走らせることができれば、タイムはついてくるものと認識しています。ですので、タイムで一喜一憂することはなく、むしろ、大なり小なり発生してしまったトラブルをいかに解決していくかとか、なぜそれを防げなかったのかとか、今後はどう防いでいくかとか、そういうことの重要度が高いと考えています。
−−一方、燃料リストリクターという新しいシステムについてはどうお考えですか?
佐藤:正直に言うと、最初はもどかしいという思いがありました。新しい規則によって燃料の流量が制限されるわけですから、エンジン屋としては熱効率を上げていくしかなくて、そこには今までのレースエンジンにはなかった技術が必要になってきます。そういう意味では非常にチャレンジしがいのあることだなと思っています。
永井:スーパーフォーミュラ、SUPER GTともに各2回のテストを行ない、全車に燃料リストリクターを入れましたが、基本的な問題は出ていません。これはトヨタだけでなく、ホンダさん、ニッサンさんのエンジニアがみんなでまとめ上げたものとして、日本の誇れる技術だと思っています。
−−エンジンの軽量化、ターボ化、そして燃料リストリクターによって、レースの戦い方は変わると思われますか?
永井:ドライバーは燃費レースをイヤがるんですよね。今まではどちらかというと、燃料とパワーが一致していなかったので、そういう意味では彼らにストレスがあったと思います。でも、今シーズンからは燃料リストリクターで燃料規制をすることで燃料とパワーが一致するので、速いエンジンと速いドライバーが速く走れるという、本来のモータースポーツになっていくと思います。
−−最後に、開幕戦に向けての意気込みを聞かせてください。
佐藤:どんな小さな問題であっても、それがクルマを止めてしまえばレースは終わってしまいますから、先ほどは"100%はない"とは言いましたが、自分たちの思う100%で開幕戦に臨みたいと思います。
永井:いいものを作れば、結果はついてくるでしょうね。戦う相手がいるから練習をするわけだし、戦う相手がいるから頑張れるわけですから、ホンダさんとは競争しながらお互いに技術向上し合っていければいいなと思っています。レースは作り出すものではないので、我々は我々の目標で全力でいきますよ。新しい時代のレースとして、お客様にとっても興奮できるようなレースが展開されるのを期待しています。