レースで鍛えられるハイブリッド技術
THS-Rと市販ハイブリッド車の密接な関連性(1/3)
2014年のWEC第3戦ル・マン24時間では、中嶋一貴選手の健闘でポールポジションを獲得したTS040 HYBRID。今季は、悲願の優勝を目指します。この活躍を支えるのは、トヨタのハイブリッド技術"THS-R"です。市販ハイブリッド車に活用される"THS"と同じルーツを持ち、密接な関連性を持って、互いに進化を続けています。今回は、市販車でもレースでも"もっといいクルマづくり"のために進化するハイブリッド技術に関してご紹介します。
プリウスから始まったTHSの進化
今年もトヨタはフランスで開催される伝統のスポーツカーレース「ル・マン24時間」に挑戦する。2014年はポールポジションを獲得しながら決勝では惜しくも優勝を逃したが、ル・マンが組み込まれている世界耐久選手権シリーズ(WEC)ではドライバーズ部門とマニュファクチャラーズ(製造者)部門の二冠を日本メーカーとして初めて獲得した。今年、ル・マンに挑むのは2014年型TS040 HYBRIDをさらに進化させた2015年型TS040 HYBRIDである。
迫力あるボディでサーキットを突進するTS040 HYBRIDは最新のハイブリッド・レーシングスポーツカーだが、その源流をたどると1997年12月に発売されたトヨタ・プリウスに遡る。そうTS040 HYBRIDは、プリウスの子孫なのである。
1997年12月、トヨタ・プリウスが発表された。世界初の量産ハイブリッドシステムがデビューしたのだ。このとき広告に用いられたのが" 21世紀に間に合いました"というキャッチフレーズである。プリウスは、まさに新時代への幕を開くために生まれ出た乗用車だった。
プリウスに積まれていたのがガソリンをエネルギー源とするエンジンと、電気をエネルギー源とするモーターを組み合わせた、いわゆる"ハイブリッドシステム"と呼ばれるパワートレインだ。ハイブリッドとは異種の混在という概念を指すが、プリウスの場合はエンジンとモーターという異なる動力を同時に使うクルマであることを指す。
エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムにも、その組み合わせ方によって種類がある。プリウスの場合、発進時や低回転域のエンジン効率の悪い領域ではエンジンを停止、その領域での効率に優れたモーターのみで走行し、エンジン効率が良い通常走行の速度域ではエンジンの動力を使って走るという組み合わせ時の配分を行う。
追い越し時のように強い加速力が必要な場合は、バッテリーからも電力を供給してモーターの出力を増幅、エンジンの駆動力にモーターの駆動力も加えることで力強い動力性能を発揮し、滑らかな加速を実現する。減速・制動時には車輪の回転力でモーターを回し、モーターを発電機として作動させ、通常は熱エネルギーとして空中に捨てられていた制動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに回収、再利用する。
こうした過程は、エンジンの動力は動力分割機構(プラネタリーギヤ機構)で2経路に分割され、一方は車軸を直接駆動し、もう一方は発電機(ジェネレーター)を駆動させて発電し、この電力でモーターを駆動するという仕組みと配分で成立し、効率が最大になるように巧妙に制御された。これが、発表時点で同クラスのガソリン車の2倍の好燃費を達成したハイブリッドシステム、トヨタハイブリッドシステム(THS)である。THSは、エンジンに2つのモーター、ニッケル水素電池、動力分割装置を組み合わせたシステム全体を示す名称である。
THSに基づくハイブリッドカーであるプリウスは、これまでのクルマの既成概念を打ち破り、新しい時代を感じさせるクルマとして大勢の人達の興味を引いた。自動車におけるハイブリッド技術は、トヨタが先鞭を付けた新しい技術であり、プリウスの登場が世界の自動車社会に新しい歴史の扉を開けた。トヨタはプリウスを、新時代の技術ハイブリッドの代名詞として、2000年以降北米、欧州等海外でも普及に努めた。
走る楽しさの飛躍を求めたTHS-Ⅱ
THSの改良はプリウスにおいて続けられ、2003年、エコとパワーを高次元で両立させたTHS-Ⅱを搭載する2代目プリウスが登場した。2代目プリウスに搭載された新世代ハイブリッドシステムTHS-Ⅱは、THSで達成した高い環境性能はもとより、クルマに求められる本来の魅力である"走る楽しさ"を飛躍的に発展させることをコンセプトに開発された。
THS-ⅡはTHSをベースにしたシステムで、モーター、発電機の電気系を高電圧化し、可変電圧システムを採用してモーター出力を従来の1.5倍に高めたものだ。モーターの出力は従来の33Kw(45PS)から50Kw(75PS)に上がった。
THS-Ⅱは動力性能を向上させることで、ハイブリッドカーにおける"走る楽しさ"を実現した。だが動力性能を上げようとしてエンジン排気量の増大やターボチャージャーなどの過給器採用などの手段を採用すれば燃費の悪化に繋がり、環境性能との両立が困難になる。そこで、THS-Ⅱはエンジンでは高効率化を追求し、これにモーターの高出力化、出力の伝達効率の向上、クルマ全体のエネルギーマネージメント制御の進化などを組み合わせることによって、低燃費と高出力を両立させることに成功した。
クルマは、単純に燃費良く移動できるだけの道具であってはならず、あくまでも"走って楽しい"道具であるべきだ、とトヨタは考え続けて来た。その成果のひとつがTHS-Ⅱであった。