モナコGP テクニカル・プレビュー パスカル・バセロン Q+A
●モナコの華美な雰囲気は好きですか? それともモナコのそういった部分は気が散る要因なのでしょうか?
「私にとってモナコGPは“シーズンの中で一番好きなレース”ということに尽きるね。とにかくこのレースは特別だ。他のサーキットの場合、この仕事を長年続けていれば退屈するということはもちろんないものの、クルマのスピードに関しては特に驚くようなことはなくなる。だがモナコではまったく違う。目で見た印象がもっとすごいし、モナコでは実際にクルマのスピードを目で感じることができるからね。また、レースに使えるスペースがわずかしかないのに、あれだけのスピードでクルマが走るわけで、街とレースという非日常的な組み合わせという要素もある。モナコで各車がどれほど速いスピードで走っているのかを実感できるのはそのせいでもあるしね。あれは本当にすごいと思う。それからモナコでは港にたくさんのヨットが停泊しているが、あれも私は気に入っている。私はボートが大好きだから、海の近くで5日間過ごせるなんて、とにかく最高だ。まるで休暇のような感じがするしね! でもそのせいで気が散るということはないよ。とにかくモナコはそこにいるだけで素晴らしい場所なんだ」
●自分のボートを所有しているのですか?
「そう。でもとても古いボートだから、モナコには持ってこないよ!」
●金曜日は休日になるのですか?
「例年、モナコの金曜日の午後には、2~3時間ほどリラックスしてその場の雰囲気を楽しめる機会がある。レースのシーズン中はとても忙しいが、その2~3時間だけは大いに楽しむことができる。グランプリの週末にそんな時間が取れるのは本当に珍しいことだから、私としてもそのちょっとした休息をありがたく感じているよ」
●クルマのスピードのほかに、ドライバーのほうはいかがなのでしょう?
「ドライバーはいつも以上にレベルの高い仕事をしなければならない。たとえばバルセロナでは走行ラインを20~30センチ外れても痛手はないが、モナコではそうはいかない。これは本当に特別な状況だし、そういった要素が組み合わさってこのレースが特別なものになっているんだ。本当に桁外れのレースだし、シーズンの中でも一番のレースと言えるだろう」
●モナコで成功するためにF1カーに必要なものは何なのか、説明してもらえますか?
「モナコで要求されるクルマのパフォーマンスは、他のサーキットと比較した場合、まったく違った類のものだ。それは“平均速度が非常に遅い”という単純な理由のせいだが、それゆえ、行き着く結論は明白だ。たとえばエンジンに関して言えば、ほとんどのサーキットの場合、クルマの動きがタイヤに依存する部分はあるものの、同時に良好な加速とトラクションが必要になる。だがモナコでは通常のサーキット以上にタイヤのパフォーマンスに左右される部分が大きい。つまり、エンジンの馬力はいつもほど重要ではないということだ。低速コースの特徴のひとつ目がこれだね。特徴の2つ目は空力だ。もちろんここでも空力は非常に重要だが、極端に低速のコーナーが多いため、いつもほど重要なわけではない。F1カーのパフォーマンスを左右する要素は数多くあるが、モナコでは特にこの2つの要素が占める割合が低くなる。そうなると残るのはタイヤとドライバーだ。今シーズンは全チームが同じブリヂストンタイヤを使用しているわけで、つまりはレースはドライバー次第とも言える。彼らにはプレッシャーだろうけどね!」
●そうなると各車の順位もいつもとはすこし違うかもしれないわけですね?
「モナコではパフォーマンスを左右する要素がいつもとはやや異なる。通常よりもドライバーが重要になると考えていいだろう。また、たとえばグランドホテル・ヘアピンを問題なく曲がれるようにステアリング・システムを調整しておくといったちょっとした要素もいくつかある。あのコーナーは非常にタイトだから、しっかり確認しておかなければならない。また、モナコではスピードが遅く、タイトなコーナーが続くため、ホイールベースが短いクルマのほうが有利になるだろう。こういったさまざまな要素があるため、モナコのスターティンググリッドがどんな順番になるのかを予想するのはいつもながら難しいね」
●モナコ用に何か特別なパッケージを用意しているのですか?
「あれだけ特殊なサーキットだけに、われわれも特別仕様の空力パッケージを用意している。大きく変わるのはフロントとリアのウイングで、それ以外にもいくつか付け加えるパーツがある。モナコではとにかくドラッグは無視してダウンフォースを稼げるよう、全チームが専用の空力パッケージを持ち込んでくる。また、低速コーナーをうまく走れるよう、メカニカルな部分にもいくつか変更を施している」
●モナコでは伝統的に予選が非常に重要になりますが、この場合、いつものレースと比べて戦略も異なるのでしょうか?
「モナコではいつも予選で頭を悩ませることになる。レース用の燃料を搭載した状態で予選を走るようになってからは、常にジレンマを抱えるようになってしまった。過去を振り返ってみると、モナコで一番いいのは予選で前に出ておくことだとわかる。現在のルールからすると、そうするためにはできるだけ軽い燃料で予選を走ればいい。ただしモナコでは追い越しが非常に困難なだけに、通常は第1スティントをかなり長めにする。つまり、予選では前に出たいものの、第1スティントはできるだけ長めにしたいわけだ。もちろんこれは矛盾した考えだ。スティントを長めにしたければ、予選の順位を落としてしまう。このジレンマがあるため、モナコではいつもとはまったく異なる戦略で走行を始めることになる。各チームがこの2つの要素の妥協点をそれぞれ異なる方向に持っていくため、結果的に戦略面では大きな違いを生むことになる。通常、ほとんどのクルマが最初のピットストップを3~5周の差で行うとしたら、モナコではその差異が10周くらいに広がると言っていい」
●スペインGPの最中に、来年はバレンシアとシンガポールで新たにレースを開催するという発表がありました。エンジニアの立場から見た場合、新しいサーキットではどんな困難に直面することが予想されますか?
「新しいサーキットに赴くのはいつも面白い体験になる。事前にまずは最初の目標を定めて、そしてどんなレース展開になるのかを予想するんだ。レースの前に正しくシミュレーションができるよう努力を重ねて、そして実際のレースの週末を迎える。そこで自分の予想がどれほど間違っていたのかを確認するというわけだ!私は新しいサーキットに行くのが好きだよ。本当にね」
●F1カレンダーに新たに2つのストリートコースが加わるわけですが、これについてはいかがですか?
「どんな場合であれ挑戦するという意味では同じだから、エンジニアとしてストリートコースがいいとか、通常のサーキットのほうがいいとか、そういった好みはないと思う。ただし私としてはストリートコースのほうが好きだね。というのも、F1やモータースポーツに情熱を傾けている人間ならばそのすごさを体験したいと思うわけで、その点、ストリートコースならその迫力がいつも以上だからね。私がストリートコースのほうを好むのは、技術的な理由ではなく、感情的な理由のためなんだ」