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SUPER GT 2015年 第2戦 富士 エンジニアレポート

富士での戦いに挑むLEXUS RC F勢

テストから変わっていたライバルとの差
ベストなレースを目指して、それに対応
トヨタテクノクラフト株式会社
TRDモータースポーツ開発室・車両グループ 清水信太郎エンジニア

熱戦が続く2015年のSUPER GTは、各ラウンド終了後にGT500クラスに参戦するLEXUS RC Fの開発状況とそのラウンドの戦いを開発に携わるTRD(TOYOTA RACING DEVELOPMENT)の清水信太郎エンジニアに振り返っていただきます。また、次戦に向けての課題や目標なども語っていただきます。

2015年仕様のLEXUS RC Fは正常進化
空力、シャシーなど全方面で戦闘力アップ


TRDモータースポーツ開発室・車両グループ
清水信太郎エンジニア
 いつもSUPER GTを走るLEXUS RC Fを応援していただき、ありがとうございます。GT500クラスで各チームが走らせるRC Fの開発・チームサポートを行っているTRDの清水です。レーシングカーは毎戦進化し、走るサーキットによって仕様を変えていきます。そういったクルマの状況を毎戦ご紹介したいと思います。
 まず、今シーズン用のクルマを開発するに当たっては、昨年の戦闘力を分析するところから始めました。そして何かに突出した進化ではなく、全体的にレベルを高めて行こう、ということになりました。私が担当している車両に関して、まず空力で言えば富士仕様は最高速がライバルに比べて遅れをとっていました。だからそこを改善するためにレスドラッグ(※1)を追求しました。ちなみに、ハイダウンフォース仕様では効率を高める(※2)ように改良しています。
 シャシーに関してはサスペンションのジオメトリー(※3)を見直しました。去年は、特にフロントタイヤの摩耗が課題になっていたので、今年のシャシーではタイヤにより優しい仕様としています。あとは軽量化を追求すると同時に信頼性も高めています。これは車両部分だけでなくエンジンも含めて、クルマ全体で見直しました。
 富士スピードウェイでのメーカーテスト(3月23、24日)ではトップタイムをマークしていますが、ライバルメーカーがどのような状況でテスト内容に臨んでいたのかが分からないので、相対的な力関係ははっきりしませんでしたが、自分たちが狙っていた性能を確認できたので、手ごたえはありました。開幕戦ではハイダウンフォース仕様で好結果を残して、第2戦の富士となりました。

※1「レスドラッグ」 今年のSUPER GTもボディ形状は2種類あります。1つは通常コース用のハイダウンフォース仕様で、もう1つが富士スピードウェイ専用のストレートスピードを上げるために空気抵抗を引き下げたレスドラッグ仕様。ドラッグとは空気抵抗のことで、今年は一層、空気抵抗を引き下げる改良が施されています。
※2「効率を高める」 ダウンフォース(走行時の空気の力を使いクルマを路面に押し付ける力。コーナリング速度を上げられる)と空気抵抗とは比例する関係にあって、ダウンフォースを高めると空気抵抗も増えます。ストレートを速くするにはレスドラッグが良いし、コーナーを速く走るにはハイダウンフォースが良いと、コースや状況によってバランスが難しいのです。
※3「ジオメトリー」 サスペンションを構成するパーツの数値の組み合わせを指します。複数のバーやスプリング、ダンパーが複雑に構成するサスペンションは、同じ物でもこのジオメトリーを変えることで方向性が微妙に変わるのです。

ポテンシャルが足りていなかった第2戦
その中、ベストなレースで36号車が3位に

前戦優勝の37号車(KeePer TOM'S RC F)は40kgのウェイトハンディが効いて6位となった
前戦優勝の37号車(KeePer TOM'S RC F)は
40kgのウェイトハンディが効いて6位となった
 第2戦となり迎えた土曜日午前の公式練習で走り始めると、昨年に対してレクサス勢のタイムを向上させる事が出来たと思いますが、テストの時とは状況が変わっていました。GT-Rの1号車と12号車が予想した以上に速くなっていました。この時点で、車両側の何かを変えて速くすることはできないので、各チームにはよりレースを見据えたタイヤの選択など、できる範囲でベストなレースを戦っていくよう準備を進めてもらいました。
 もちろんレースは勝つことが目標ですから、結果からはポテンシャルが足りていなかった、というのが今回の結論です。ただし、予選の状況からは妥当な結果だろうと言うこともできるので、3位に入った36号車(PETRONAS TOM'S RC F)はベストなレースをしたのだと思います。
 一方、38号車(ZENT CERUMO RC F)や6号車(ENEOS SUTINA RC F)は予想外の展開となりました。特に38号車のアクシデント(GT300車両との接触で破損)は不運でしたね。パワーステアリング系にダメージを受けてスタート早々に権利を失ってしまいました。その後、ユニットを交換して再び走りだしたのはチームの判断です。次のタイ戦を挟んで8月初めの第4戦も、同じ富士が舞台ですから、チームとしては「データを取っておこう」という判断だったと思います。前戦優勝の37号車(KeePer TOM'S RC F)は40kgのウェイトハンディが効いた(※4)ようですね。前後のバランス的に厳しかったこととブレーキングでも辛かった。チームメイトの36号車とは大きな(セッティングの)違いはないと思うし、予選でのタイム差も妥当なところだったと思います。

※4「ウェイトハンディが効いた」 SUPER GTでは獲得ポイントに応じてハンディウェイトを搭載します。当然、ウェイトが増えればラップタイムは遅くなります。コーナリングでは、重量配分の調整で影響を抑えられますが、ブレーキングとコーナーからの立ち上がり加速では対応策が少なく物理的にも効いてしまいます。

ハイダウンフォース仕様で戦う第3戦タイ
決して楽観せず、対策を練っていく


今回のデータを分析し、次回のタイ戦で優勝を目指す
 次回、第3戦タイはハイダウンフォース仕様での戦いになります。昨年、36号車が優勝していますが、内容的には随分苦戦しています(※5)。ハイダウンフォース仕様で戦った開幕戦で優勝をはじめ好結果を残せましたが、だからと言って安心するわけにはいきません。開幕戦の岡山と、今回のデータを分析して対策を練っていきたいですね。現在のSUPER GTでは、何かパーツを交換してポテンシャルを高めることが、レギュレーションでは認められていない(※6)部分が多いので、クルマを劇的に速くするのは難しいのですが、シャシーやエンジンでできることをコツコツやって改善していきたいです。
 それと第4戦の富士。去年から富士で勝てていないので、8月の富士では何とか勝ちたい。今回のデータを分析し、次回のタイ戦でのデータも合わせて、クルマを速くしていって、何とか勝ちたい。応援してくれる皆さんの期待に応えたいです。

※5「内容的には随分苦戦」 昨年の第7戦タイでのRC F勢は、予選では39号車がトップと0.649秒差ながら6位に留まり、決勝でも確信はあったにせよ36号車がタイヤ無交換作戦というライバルと違う作戦を選んだことで優勝を掴みました。
※6「レギュレーションでは認められていない」 昨年からテクニカルレギュレーション(車両規則)が変更され、GT500クラスでは共通パーツが多く使用され、これを独自に加工することはできません。それ以外の独自のパーツでもシーズン開幕までに登録しておくものも多く、シーズン途中で新たなパーツを投入できる部分は限られています。