社団法人・日本自動車連盟(JAF)は、世界自動車連盟(FIA)が各国に1団体のみ認定するモータースポーツ統括団体(ASN)に指定されている。またJAFの基本理念にも、“車社会の健全な発展に寄与する”ことを掲げている。
従ってJAFは日本のモータースポーツの振興に責任を負っているといっても過言ではない。JAF自身もそれを十分認識しており、振興を検討するワーキンググループを立上げ、2008年6月には“モータースポーツ振興についての答申”をまとめている。
ここで、Jリーグに代表され今や日本全国津々浦々どこでも盛んに行われているサッカーを見てみると、財団法人・日本サッカー協会がサッカーに関わる権威として或いは実務的に重要な役割を果たしている。将来像の提示と全体の指導、海外との関係、様々な記録の管理、広報機能、クラブや地方組織の管理、選手や指導層、審判団の育成などを行っており、まさに公益法人たるJAFの果たすべき役割と同じと言っていい。
現実に、JAFは日本サッカー協会とほぼ同じ活動に取り組んでいる(JAF HP参照)。ただJAFの主たる業務が“ロードサービス”であり、その運営資金の大半はロードサービスを期待して会費を払っている会員が負担していることになるので自ずと制約があり、モータースポーツ活動への関与がサッカー協会に比べて消極的に見えるのは否めない。この制約については不本意ながら認めざるを得ないので、活動に優先度を付けて集中し、内容の充実を図ることでこの低迷した現状の打開を図るしかない。
そこで当面集中する対象をモータースポーツのあらゆる記録の管理と広報機能の一元化に置く。JAFの権威を持ってプレスセンターを開設し、マスメディアに対して一元化されたモータースポーツの成績・結果を画像を含めてタイムリーに発信していく。内容は過去の記録と対比し、それもドライバー個人の記録と関係付けられれば、話題性に富み、報道の質も量も上がると思われる。“日本一速い男決定!”と銘打った表彰式などのイベント開催にも期待する。そうすることで一般メディアも報道し易くなり露出が増え、ファン増大への一歩を踏み出せる。
現場で抱える様々な課題に取り組みたいのも山々だし、“モータースポーツ振興への提言”も現状を的確に踏まえた素晴らしい内容なので早急に実現を図りたいが、多大な経費や日時の掛かるものは当面置いて、今はピラミッドの頂点を光らせることに集中したい。前回コラムで提案したレース運営を取り仕切る新JRPとJAFが良く連携し、フォーミュラ日本とスーパーGTの振興という観点でJAFはこの二つの広報活動に高い次元で取り組んで欲しい。頂点が光輝くとその波及効果は確実に広く深く及ぶ。
その他、JAFの各施策は外部委員で構成される各専門部会で具体策を検討しているので、JAFのモータースポーツ政策=専門部会と見ていい。日本のモータースポーツの生殺与奪権は専門部会が握っていることになる。だから専門部会の役割は重要で、筆者のような古くからモータースポーツに関与してきた頑迷固陋な委員の新陳代謝を促し、業界外からの委員任命などを積極的行っていくことが中期的な振興には必要である。
そしてJAFへの筆者の最大の期待は、今や1700万人を擁する会員である。皆さんが運転免許保持者であり、これは1700万人の20%でも340万人になるモータースポーツファンの予備軍と言える。「JAF MATE」誌は各会員宛に年に10回発行されているので戦略的に上手に活用すれば、スタードライバーを生みファンを増やすことが出来る。
第1回のコラムで述べたようにクルマの持つ魅力とは、ハードに加えて一種の人格的魅力であり、それを訴求するモータースポーツは今や自動車産業全体の存続と発展の為に不可欠なものである。自動車メーカーで構成する日本自動車工業会はこれを会員間の共通認識として高め、現在フォーミュラ日本には2メーカー、スーパーGTには3メーカーが参戦しているが、各メーカーの参戦を各々さらに2メーカーくらい増やして欲しい。その際初期参戦費用として掛かる開発コストを抑えるために、既参戦メーカーから新規参戦メーカーやチームへの基本的な技術供与を行うことも必要である。いつ参入してもスタートラインは同じにしてそこから節度ある開発競争を伴うドライバー主体のレースになれば、観客にとって大変魅力的なスポーツになり社会的存在感も増す。
次回は、各カテゴリーのハード(レース車)についての提言を述べる。
【編集部より】
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1945年鹿児島に生まれ 現在63歳。
鹿児島大学工学部卒業後、日産自動車に入社、モータースポーツ業務に携わる。
スポーツ車両開発センター部長を経て、1996年ニッサンモータースポーツインターナショナル(通称ニスモ)に転籍。常務取締役を退任後、2008年より東海大学工学部教授。
ニスモではスーパーバイザーとして日産系スーパーGT500チームの総監督を務める。
「レーシング・オン」にコラムを連載中。