40回記念大会の「ニュルブルクリンク24時間レース」には171台が参加、今年も60台が完走を果たせないシビアな耐久戦が展開された。GAZOO Racingは挑戦5年目のLEXUS LFAが過去最高の総合15位/クラス優勝、発売されたばかりの2台の86が総合46位/クラス優勝、総合65位/クラス6位の素晴らしい結果を残した。“心ひとつに”を合言葉に激戦に挑んだGAZOO Racingのレースウィークに密着した。
よりハイレベルな戦いへ
23万5,000人の大観衆を集めて今年もまた世界最大の自動車レースが開幕した。周回数、平均速度など、年々ハイレベルになる大会にクルマ好きの熱い視線が集まる。世界中から参戦するチームの顔ぶれもまた大いにレースファンを熱狂させる。過去6年間で5回の優勝を誇るポルシェ勢、王座奪還を目論むBMWのZ4、4年目の挑戦で悲願達成に燃えるアウディR8、2年目のメルセデスSLS、初参戦のマクラーレンMP4など、自動車メーカーがレース専用に製作した市販車ベースのレーシングカーが大挙エントリーし威信をかけた戦いが激化、パドックを包むムードも例年以上にピリピリしている。全長25キロ、170を超えるコーナー、まるで峠道のようなアップダウン、無数の凹凸があり決して路面状況が良いとは言えないニュルブルクリンクは誰もが認める最も過酷なサーキットで、そのため自動車メーカーが走行性能の最終仕上げを行うことが定着し、特にスポーツカーは24時間レースを制することがどんなに費用をかけた広告よりも効果があると語る関係者が多い。
予選 2秒を削ったLFAと86のスーパーラップ
気温11℃・路面温度15℃と春にしては肌寒い薄曇りの下、木曜日の午後7時30分から予選1回目が始まった。 LFA#83のドライバーは木下 隆之選手、飯田 章選手、脇阪 寿一選手の3人。ペースの遅いクルマにはばまれて本格的なタイムアタックがなかなかできない中、8分42秒828、総合33位/クラス1位で走行を終えた。「クルマのセットアップは確実にいい方向に行っている。クリアラップがとれればまだまだタイムは伸びる」と飯田選手の表情は明るい。 今年のLFA#83は、ニュル21年目の木下選手が中心となってセッティングを進化させてきた。 主なポイントは、空気の抵抗を利用してマシンを路面に押しつける空力(エアロダイナミクス)のアップデイト、そしてもうひとつはニュルで最も重要と言われる足回り、サスペンションのセッティングである。「しなやかに動き、より路面の変化に柔軟に対応できるセットアップで、あらゆるコンディションの下で24時間を安定したハイペースで走ることを目指した」と木下選手が語るように、タイトコーナーから高速コーナー、ジャンピングスポットでもLFAは速く、その挙動は安定して見えた。
一方の86#165は、トヨタ社員のテストドライバーである高木 実選手と勝又 義信選手、「ル・マン24時間」を始め国内外での耐久レース経験が豊富な影山 正彦選手、2008年にはGAZOO RacingのIS250で出場、モータージャーナリストとしても活躍する佐藤 久実選手がステアリングを握り、こちらもクリアラップがとれない中、10分48秒台の好タイムで総合135位/クラス6位。ニュル2年目の石浦 宏明選手と大嶋 和也選手、初挑戦の井口 卓人選手、高木 実選手(#165とダブルエントリー)が駆る86#166は、「ここまでニュルを攻めたのは初めて。86のポテンシャルを引き出しきった」と興奮気味に語る大嶋選手が10分13秒870を記録、総合113位/クラス3位の暫定ポジションを獲得した。チーフドライバーをつとめる高木選手は「30秒が切れればと思ってはいたが、まさかここまでとは。前哨戦を通じて様々なトライをしてきた成果が出て嬉しい」と笑顔を見せた。「ニュル24時間」デビューとなった86は、前哨戦である「VLN(ニュル耐久選手権)」2度の参戦を通して、世界一特殊で過酷なニュルのコースにマッチするマシンセッティングを模索してきた。例えば、サスペンションの調整、あるいはデファレンシャルギヤを2台で異なるものにして適正なギヤ比を探った。限られた走行時間の中で貴重な走行時間をロスすることなく2台体制のメリットを最大限にいかしたことで、レース用タイヤを装着したレーシングカーがハイスピード走行を行う、本戦に非常に近いコースコンディション下で、初めての24時間レースを少しでも速く確実に戦えるセットアップを見出すことができた。
注目の新型FRはコーナリング速度で観客を魅了
高木 実選手
勝又 義信選手
影山 正彦選手
佐藤 久実選手
金曜日午前9時45分、晴れてはいるものの雨上がりでコースの一部が濡れているハーフウェット、気温7℃・路面温度9℃と季節はずれのコンディションで予選2回目が開始。86#166は前日のタイムをスーパーラップと判断し走行せず、決勝へ向けての整備に専念。最終的にグリッドは総合117位/クラス3位となった。86#165は影山選手がタイムアタック、「雨上がりで路面状況が悪くタイヤのグリップが良くなかった」と言いながらも10分29秒832までタイムを伸ばして総合139位/クラス6位のポジションを得た。前日、クリアラップがとれなかったLFA#83は飯田選手が終了直前にコースイン、8分34秒847と昨年の予選タイムを約2秒上回る好タイムで総合27位/クラス1位、40周年記念として特別に行われたトップ40予選へ出走、メーカーがレース用に製作した市販レーシングカーがひしめく中、総合32位/クラス1位のグリッドを獲得した。
決勝 チーム全員が気持ちをひとつに…
土曜日16時、気温19℃・路面温度24℃の待ちに待った春らしい気候の下で24時間の戦いが幕を開けた。23万5000人の大観衆が見つめる中、LFA#83は総合20位前後を安定したペースで走行、SP8クラスの2位以下を周回毎に大幅に引き離して行く。深夜1時直前、総合19位を走行中のLFA#83 がピットガレージへ。序盤の混乱の中で発生した他車との接触で破損していたフロントバンパーの交換と各部のチェックを同時に行った。“レースを通じたクルマの味づくり”を提唱するGAZOO Racingは“クルマを鍛え、人を鍛える”ことを挑戦のポリシーとしている。今年も8人のトヨタ社員が新人メカニックとして前哨戦の「VLN・4時間耐久」から3チームに分かれて実戦トレーニングを行ってきた。本戦までは、不慣れなためにぎこちない動きも目立ったが、このピット作業ではプロのレーシングメカニックにも引けを取らない迅速さを見せ、総合27位/クラス1位でマシンをコースへ送り出した。
この春発売され「ニュル24時間」デビューの86は、ルール上必要なロールケージ、4点式シートベルト、専用の燃料タンク、スリックタイヤを装着し、サスペンションを調整した程度のライトチューニングでエンジンはノーマルの市販車に近い仕様で、コーナーからの立ち上がり加速とトップスピードでは同じSP3クラスの、ルノー・クリオ、ホンダS2000シビック・タイプRには遅れをとるものの「コーナリング速度はポルシェと同等」と各ドライバーが語る素晴らしいコーナリングを武器に表彰台を目指してスタート。しかし、スタートから約50分、石浦選手がステアリングを握る86#166がABSの違和感のため緊急ピットイン。主催者から配布されたチェック用のロガーシステムの異常によりコンピューターにエラーが発生したと判明したが、念のためブレーキ各部のチェックを行ってコースへ戻った。総合147位/クラス16位(最下位)から渾身の追い上げが始まった。その一方で、86#165は影山選手のドライブで総合107位/クラス4位へと躍進。「#165がいてくれたことで、思い切った走りで追い上げに徹することが出来た」と86#166のドライバー全員が振り返る。ここから約23時間、2台の86は目には見えない信頼という名の糸を交差させながら、大いなる目標へ向かって共に突き進んで行く。
ゴール 伝えたいこと、いかしたいこと
LFA#83はルーティーンのドライバー交代時に2回のブレーキ交換を実施、焼けたローター、キャリパーとパッドを新人メカニックが瞬きもしないほどの集中力で入れ替えていく。給油終了とほぼ同時に作業を完了する仕事ぶりを関谷チーフが握手で称えた。メカニックの頑張りにドライバーたちも走りでこたえ、109周目には総合19位/クラス1位を走行。一昨年の総合18位を上回る順位への期待感が高まってきた。その後も、レース中のベストラップを更新しながらゆっくりと順位を上げていき、午後4時、ドライバー、メカニック、スタッフが大きく手を振る中、木下選手のドライブで24時間のチェッカーフラッグを受けた。結果は、総合15位/クラス優勝。過去最高の総合順位とともに、一昨年の142周を上回る147周を走破し、もうひとつの目標であった“これまでより少しでも長く走り続ける”ことを達成した。レースを終えた関谷チーフメカニックは、「嬉しさとともに、悔しさもある。レース専用のGT3マシンに対して善戦はしたが、市販車ベースのLFAをもっと伸ばせる余地もある。新人メカニックは良く頑張ってくれた。会社へ戻ってこの経験を日々の仕事にいかしてくれると信じている」。これからの挑戦へ向けた熱い思いが全身からあふれていた。
86#165は24時間を通じてひとつのトラブルも作業ミスもなく総合65位/クラス6位で勝又選手がチェッカーをくぐった。影山選手は、「昨年、発売前からレースに参戦しながら開発してきた僕にとって、#166のクラス優勝は皆でつかんだ最高の結果」。平田 泰男チーフメカニックは、「全くのノートラブルで完走できたのは、ドライバーがプロジェクトの目的を理解して走ってくれたこと、メカニックが互いを信じて仕事をした成果」と言葉を噛みしめた。スタート直後にクラス最下位まで順位を落とした86#166は粘り強い追い上げで約12時間経過時にはクラストップ争いへ突入、最後まで同一ラップでの攻防を繰り広げ、2位のルノー・クリオにわずか1分37秒の差で総合46位/クラス優勝、高木選手が感動のウィニングチェッカーを受けた。伊藤 一富チーフメカニックは、「86が見せたスピードと我々の思いが、ファンの皆さんに伝われば嬉しい」と涙をぬぐいながら語った。86#166のクラス優勝は、2チームがそれぞれの役割を完全に果たし切ってこそ生まれた結果、チーム全体で掴み取った勝利であることは言うまでもない。
エントリー:予選出走:171台/決勝出走:169台/完走:111台
総合順位
1位 | No.3 | Audi Sport Team Phoenix / Audi - R8 LMS ultra (SP9クラス) |
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2位 | No.26 | Mamerow Racing / Audi - R8 LMS ultra (SP9クラス) |
3位 | No.66 | Hankook-Team Heico / Mercedes Benz - SLS AMG GT3 (SP9クラス) |
4位 | No.29 | Marc VDS Racing Team / BMW - Z4 GT3 (SP9クラス) |
5位 | No.2 | Audi Sport Team Phoenix / Audi - R8 LMS ultra Cup (SP9クラス) |
6位 | No.28 | No team name (SP9クラス) |
7位 | No.19 | BMW Team Schubert / BMW - Z4 GT3 (SP9クラス) |
8位 | No.20 | BMW Team Schubert / BMW - Z4 GT3 (SP9クラス) |
9位 | No.18 | BMW Team Vita4one / BMW - Z4 GT3 (SP9クラス) |
10位 | No.21 | ROWE Racing / Mercedes Benz - SLS AMG GT3 (SP9クラス) |
15位 | No.83 | GAZOO Racing / LEXUS LFA (SP8クラス) |
46位 | No.166 | GAZOO Racing / TOYOTA 86 (SP3クラス) |
65位 | No.165 | GAZOO Racing / TOYOTA 86 (SP3クラス) |
SP8クラス順位
1位 | No.83 | GAZOO Racing / LEXUS LFA(総合15位) |
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2位 | No.5 | Aston Martin Test Centre / Aston Martin - Zagato(総合26位) |
3位 | No.85 | Aston Martin Test Centre / Aston Martin - Vantage GT4(総合33位) |
SP3クラス順位
1位 | No.166 | GAZOO Racing / TOYOTA 86(総合46位) |
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2位 | No.167 | roadrunner racing / Renault - Clio(総合47位) |
3位 | No.155 | Kissling Motorsport / Opel - Manta(総合53位) |
6位 | No.165 | GAZOO Racing / TOYOTA 86 (総合65位) |