ニュルブルクリンクへの挑戦 2009

2014.01.09 ニュルブルクリンクへの挑戦2009

2009.5/21-5/24 ニュルブルクリンク24時間耐久レース 予選・決勝レポート

レースを通じた“クルマの味づくり”を目的としたGAZOO Racing、3年目の挑戦が幕を閉じた。事前テストを兼ねたニュルブルクリンクでの3度の4時間耐久レース出場を経て鍛え上げられたマシンと結束を高めたチームを待ち受けていたものは…。

予選・決勝レポート

スケジュール
【第1回予選】 日本時間 5/22(金)2:30~6:30(現地時間 5/21(木)19:30~23:30)開催
【第2回予選】 日本時間 5/22(金)21:00~23:00(現地時間 5/22(金)14:00~16:00)開催
【決勝】 日本時間 5/23(土)23:00~5/24(日)23:00開催
現地時間 5/23(土)16:00~5/24(日)16:00開催
スケジュール
【第1回予選】日本時間 5/22(金)2:30~6:30
(現地時間 5/21(木)19:30~23:30)開催
【第2回予選】日本時間 5/22(金)21:00~23:00
(現地時間 5/22(金)14:00~16:00)開催
【決勝】日本時間 5/23(土)23:00~5/24(日)23:00開催
現地時間 5/23(土)16:00~5/24(日)16:00開催

特別な週末が始まる

24時間レースを控えたサーキットのコースサイドには、1週間前ともなるとキャンピングカーやテントが立ち並び、バーベキューとビールを楽しむファンの姿が見られる。この光景を目の当たりにすると、ニュルブルクリンクへやってきたことを実感する。はやる気持ちを抑えきれずにピットへ向かうと、GAZOO Racingの3台のマシンが悠然とたたずんでいた。

37回目を迎えたニュルブルクリンク24時間耐久レースには、ミニ、ゴルフからポルシェ、ダッヂパイパー、アストン・マーチンに至るまで170台の多種多様なマシン、700名近いドライバーが集結。もちろん、例年通り、参加することを楽しむアマチュアから勝つことを目的に挑むプロフェッショナルまで、チームにもドライバーにもそれぞれの思いがある。

GAZOO Racingの狙いは、レースを通じた“クルマの味づくり”。2007年はアルテッツァ、昨年はIS250、今年は未発売のプレミアム2シータースポーツLF-Aを2台、IS Fを1台、過去最多の3台体制でエントリー。世界中のモーターファンや関係者がその動向を気にかける開発車両はひときわ注目度が高く、これまでのつや消し黒一色から一変、筆のタッチを思わせる白と黒のツートーンカラーを身にまとったLF-Aがフラッシュに包まれる。既に取材陣の多くがプロジェクトの目的を認知しており、チームからのリリースで発表されているスペックからは知り得ない、エンジン音のフィーリングや醸し出すオーラなど“味”を探ろうと余念がないように見受けられた。

また、LF-Aと同じく筆のタッチを用いたiQ GAZOO Racing tuned by MNも展示され、注目を浴びていた。

期待高まる予選の戦い

GAZOO RacingのLF-Aは、実戦テストの一環で4月以降、ニュルブルクリンク4時間耐久レース(VLNシリーズ)へ3度出場、優勝、2位、3位と上位入賞を果たしている。また、木曜日の予選前にはRCNレースという耐久レースにも参加して最終チェックを完了、万全な体制で24時間レースの公式スケジュールを迎えた。

5月21日、現地時間午後1時30分から90分間のフリー走行はドライコンディション、LF-A・14号車、LF-A・15号車はSP8(4000~6200cc)クラス2、3位、総合18、19位とまずまずの滑り出し。続く予選1回目は夜7時30分、開始直前に激しい雨が降りウェットコンディションで始まった。14号車は、木下隆之、ハビエル・キロス、飯田章、モリゾウ、15号車はアーミン・ハーネ、ヨッヘン・クルンバッハ、アンドレ・ロッテラー、成瀬弘の順でステアリングを握る。一方、若手メカニックたちは、夜間のしかも予測できない天候のため常に緊迫した状況の中、予選から持てる力の全てをぶつけて懸命に対応する。このレースで起こる全てが彼らの財産になることは誰の目にも明白だった。

雨の量が目まぐるしく変わる難しい予選となったが、夜11時頃、30分を残して雨が上がる。依然として濡れた路面、低い気温の中、最終アタックに出た14号車の飯田が10:08.955でクラス1位/総合10位、15号車のロッテラーが10:09.887、クラス2位/総合12位を記録。マシンを降りたドライバーは誰もがこう語った。「難しいコンディションだったが、レースへ向けていいテストになった。」この言葉が、チームのムードを表していた。

翌22日金曜日午後2時からの予選2回目は青空の下でスタート。ドライコンディションのここでスタート順が決定することから、上位を狙うチームに緊張感が漂う。GAZOO Racingも各ドライバーがアタックを試みるが、170台ものマシンがひしめき合うコース上でなかなかベストな状況でのタイムアタックが叶わない。結局、15号車はロッテラーが8:57.712でクラス2位/総合23位、14号車は飯田が8:58.024でクラス3位/総合24位のタイムを記録。IS F・16号車はクラス7位/総合113位。フリー走行から順位を競ってきたシボレー・コルベット12号車が8:55.661でクラス1位/総合21位をマーク、決勝での接戦が予想される結果となった。

プロジェクトの目的は、順位を追い求めることでなく“レース参戦を通じて開発車両を鍛え、同時に若手メカニックを育成すること”とわかっていながらも、手に汗を握りラップモニターに釘付けになっていた。レースに挑戦することでしか得られない何かが、そこに確かにあることを改めて認識する。

苦難の24時間、明日への希望

23日土曜日16時、約24万人の大観衆が見守る中、24時間の戦いがスタート。オープニングラップ、チーム全員が中継映像とラップモニターに注目する中、耳を疑う情報が飛び込んできた。「15号車がストップ!」。ドライブシャフトのジョイントが破損し、ベテランのハーネがステアリングを握るLF-Aがカルーセルコーナーの先で止まっている。チームは現場付近での修復が可能と判断し、すぐさまメカニックが工具を持ってバンに乗り込んだ。

一方の14号車は、木下のドライブで1周目に一気に10台をオーバーテイクし総合14位へ浮上、15号車の分まで頑張ろう、そんな声が聞こえてきそうな気迫の走りで周回を重ね15位でモリゾウへ交代、さらにキロスへとつないでいく。

スタートから4時間、コースサイドでパーツ交換を行った15号車がピットへ戻ってきた。土と汗にまみれたメカニックスーツが、未舗装の斜面での懸命の作業だったことを物語る。そこから約1時間、本格的な修理と各部の点検を行い、スタートから5時間後、再スタートを切った。その時、同じピットで同じクラスのライバルでもあるアストン・マーチンのチームスタッフから拍手が沸き起こる。ニュルブルクリンク24時間ならではの光景に誰もが胸を熱くする。クルンバッハは9分10秒前後の好タイムを連発、スタッフにようやく安堵の表情が訪れた。

ノートラブルで走行を続ける14号車も、大事をとって足回りを中心に入念にチェックを行い問題がないことを確認。そのため順位は106位まで後退したが、各ドライバーが着実に追い上げ、午前7時前には総合27位(クラス2位)まで挽回する。しかし、ここで充電系のトラブルが発生、修復に3時間半を要す。コースに戻った時には総合101位、残り約5時間半、必死の追い上げを続ける。ところで、14号車がピットストップを余儀なくされている間、15号車のロッテラーは、8:50.458のチームベストを含む好タイムをマークし続けLF-Aの実力をアピール、中継カメラがその雄姿をクローズアップした。

レース終盤、14号車、15号車ともに安定したペースでラップを重ねていたが、ゴールまで1時間半を切った時、中継モニターに衝撃の映像が映し出されメカニックが叫ぶ。「15号車が止まっている!」。メカニカルトラブルにより15号車は惜しくもそのままリタイヤとなった。

残り30分、14号車のステアリングがモリゾウへ託された。テストドライバーの高木実、勝又信義、そしてモリゾウ、成瀬(ルールで2台のマシンでエントリーすることが可能)がコンスタントな走行で予選クラス7位から3位までポジションをあげてきたIS F・16号車は成瀬へ交代、GAZOO Racingはランデブー走行でゴールへと向かう。16時、大歓声の中、チェッカーが降られた。GAZOO Racingは16号車がクラス3位/総合81位、14号車がクラス4位/総合87位でフィニッシュ、長かった24時間の戦いが幕を閉じた。

「悔しい場面もありましたが、その瞬間、瞬間が何事にも変え難い“明日への希望”につながるものだったと思います。そして同時に、この24時間でいくつもの宿題をいただきました・・・」。レース後、モリゾウが語った言葉には3年目の挑戦の全てがある。

「クルマを強くし、人を強くする。そこから新しいクルマづくりが始まる」。GAZOO Racingのニュルブルクリンクでの戦いを追いかけて3年、今年の戦いを経て、この プロジェクトの哲学に続く言葉を見つけることができたと感じています。その言葉は、 夜を徹して声援を送った皆さんの心の中にもあるはずです。

「クルマを強くし、人を強くする。そこから新しいクルマづくりが始まる。それは、人 を惹きつけ、感動させる、本当の“味”を持ったクルマづくり・・・」。