チーム代表や監督、ナビゲーターなど、多くの社員が参加しているチームランドクルーザートヨタオートボデー(TLC)。そこには、もう1社、活動に参加している企業がある。それが福岡トヨタ自動車。この会社からは、“トヨタ1級”と呼ばれる資格を持った整備士が2名、メカニックとして現地に派遣されているのだ。その選抜は、やはり社内での公募。第1回の公募時には、全部で百数十名いる“トヨタ1級”所持者の約4分の1が応募したという。トヨタ車体同様、福岡トヨタ自動車でも、ダカール参戦は社内で憧れの的となっているようだ。
その厳しい選考を経て、現場に派遣されるのは、今回が2度目の参加となる松本識裕メカニックと、初参加の阪本歓喜メカニック。もともと自分でもサーキットを走っていたというモータースポーツ好きの松本メカが、友人と4WDのトライアル競技などを楽しんでいた阪本メカを先輩として指導している。そんな彼らにとって、一般車の整備とラリー車の整備は、一体どんな部分が違うのか?松本メカは言う。
「ダカールラリーでは日本でやっている車検や定期点検、それよりも詳しい整備を毎日やらないと、次の日に完走できないぐらいクルマにダメージが蓄積されるんです。最終的にはドアの開閉さえうまくできなくなるほど負担がかかるので、日本の常識が全く通用しないと感じましたね。最初は何をやればいいのかもわかりませんでしたし、フランス人のチーフメカにフランス語で“ワーッ”と言われて。それも理解できないので、通訳さんに助けてもらいながら作業をしていました。」
「さらに、ビバーク地が舗装されていないので、砂浜で整備しているような感じなんです。だから、工具や部品などを“地べたに置くな”と叱られました。砂に埋まって工具や部品がなくなってしまったり、砂がかんで部品がうまく付かなくなったりしてしまうので。日本ではいかに恵まれた環境で整備させてもらっているかと、つくづく感じましたね。」
一方、ルーキーの阪本メカは、整備の仕事以前に、モロッコでの訓練やファラオラリー参戦の時に、整備の仕事以前に身にしみたことがあるとか。
「海外に出たことがなかったので、すべてが大変でした。空気から何から全然違うじゃないですか。そんななかラリーに出て、クルマを直すためには、まず自分の体調を整えないといけないのだ、と。ファラオラリーで食当たりを経験して仕事以前にまず食べ物とか水とか、そういうところに気を配る必要があることを痛感しました。」
この体調管理については、飲食物だけではなく、睡眠も重要になる。日本では普段、彼らは日中に一般車の整備を行っているわけだが、ラリーでは夕方から夜中にかけてが作業時間。場合によっては、夜を徹して作業しなければならない場合もある。一方、朝から夕方まではリエゾン区間を通っての移動。これも1日数百㎞に及ぶため、とにかく“寝られる時に寝る”という習慣を身につけなければならなかったと、松本メカは言う。
「スタートして1日、2日は、ずっと起きていて、カメラ片手に外を見ていたんですけど、そのうち余裕がなくなりました。正直、大会の半ばを過ぎると、体力的にも、精神的にもキツくなって。クルマが走らない中間日には、朝6時ぐらいから丸1日整備をやるんですけど、“早く終わらせて、もう寝たい”という気持ちでした。でも、明日ゴールだっていう日になると、感動してしまって……。特に、最後のゴールセレモニーには感動しました。それに、最初は怒られてばっかりだったんですけど、フランス人メカが、最後に『ありがとう。一緒に整備ができて良かった』って言ってくれて……。その時、自分の中で達成感が芽生え、もう一度参戦したいと思いました。」
そして今年2回目のダカールラリー参戦となる松本メカだが、後輩の阪本メカには、どんなことを期待しているのだろう。
「日本で整備をする時は、1人で1台を担当することが多いですが、ラリー車の場合は、1台に3人ぐらいで作業に取り掛かります。だから、まわりを広く見て、気配りしながら作業をし、色々なことに気付いて、自分から動けるようになって欲しいですね。阪本メカは、店舗の中でもベテランに近いところにいて、ゆくゆくはリーダーとなって後輩を見なくちゃいけない立場になると思うんです。だから、ダカールを通じて、まわりを広く見られる視野を、今のうちに養ってもらえるといいなって。」
一方の阪本メカも、ダカールラリーを経験することで、「精神的には変わると思いますね。仕事というよりも、何か人間としてひとまわり大きくなれるんじゃないかって。ダカールラリーにはそういう魅力を感じます」と元気いっぱいに話してくれた。1年後にはおそらく先輩メカとして、後輩を指導する立場になる阪本メカ。その時は一体、何を語るのだろうか?