冒険は止まらない、TLCの挑戦!ダカールラリー2011

やろうと思えば、何でもできる -田中幸佑ナビゲーターインタビュー-

ダカールに憧れて

 2011年1月、再びダカール2011の戦いの舞台へ舞い戻るチームランドクルーザートヨタオートボデー(TLC)。このチームの参戦体制がユニークなのは、自社の社員をチームの主要メンバーに起用しているところ。中でも実際に競技に参加するナビゲーターを社員の中から募集するというのは、非常にチャレンジングな試みだ。その社内でのナビゲーター募集に応募し、2011年大会から実戦に参加することになったのが、田中幸佑ナビゲーター。大学時代にTLCの講演会を聴き、社員がダカールに参加していることを知ったのが、入社の志望動機のひとつだったという。もともとランドクルーザーのファンだったうえに、社員になればダカールに行けるかも知れない。それが田中ナビの意欲をかき立てた。 実際、トヨタ車体に入社してみると、まわりには同じような考えの人が多かったそうだ。

「私がナビに決まってからも、全然知らない社内の人に“頑張れよ”と言われたり、“オレも若かったら応募したかったな”と言われたり、そういうことが頻繁にあります」 「私がナビに決まってからも、全然知らない社内の人に“頑張れよ”と言われたり、“オレも若かったら応募したかったな”と言われたり、そういうことが頻繁にあります」

 「実際に応募したかどうかはわかりませんが、入社した当時から、“実はやってみたいと思っているんだよね”という人間が、同期の中に何人もいました。私がナビに決まってからも、全然知らない社内の人に“頑張れよ”と言われたり、“オレも若かったら応募したかったな”と言われたり、そういうことが頻繁にあります。社内にもチームのファンは多いですよ。」

 この言葉にもある通り、心の中では“行きたい”と望んでいる人が多いダカール。しかし、社員ナビの応募には、所属部署の上司からの推薦を得なければならず、そこで断念する人も多いとか。そうしたなかで、田中ナビが一歩踏み出せた理由は何だったのか?

動かなければ始まらない

「とにかく応募しないと受かることもないからやってみよう、応募しないと後悔するだろうっていう感じでしたね」 「とにかく応募しないと受かることもないからやってみよう、応募しないと後悔するだろうっていう感じでしたね」

 「ナビゲーターの任期は3~4年。これくらいの周期で入れ替わっているんですけど、体力的なことを考慮すると20代のうちしか応募できないだろうな、と。だったら、チャンスは今しかないと思いました。実際に受かるとは思っていなかったので、受かった後のことは考えておらず、とにかく応募しないと受かることもないからやってみよう、応募しないと後悔するだろうっていう感じでしたね。」

 「その後、モロッコでの訓練やファラオラリーへの出場など、ダカール本番に向けて色々な活動がありましたが、それらを通じて自分が変わったなと思うのは、“やろうと思えば、何でもできるんだ”と考えられるようになったところです。世の中には、やりたいと思っても、行動に移さない人も結構いると思うんですけど、それを移せる自信がついたというか。とにかく動けば何かが起こる、動かないと始まらないのでまずは立ち上がってみる。そうできるようになったのは自分のなかで大きな変化でしたね。」

 この考えに至るまでには、努力や苦労もあった。田中ナビは、選手でもあるが、一般の社員でもある。そのため、通常の業務をこなしつつ、ナビゲーターとしての準備に励まなければならなかった。業務終了後にルートブックを読む練習をしたり、休日に2号車のドライバーである寺田昌弘選手と合流して、トレーニングランに出かけたり。また、ダカールの準備のために何度も海外に渡航。この時も一人で動かなければならない場面が多かった。

プロから受けた刺激

「私もすべてのことに対して“何のためにするのか?”ということを、きちっと真剣に考えるようになりました」 「私もすべてのことに対して“何のためにするのか?”ということを、きちっと真剣に考えるようになりました」

 デビュー戦となるファラオラリーの時も、ラリー競技自体がどのように進んでいくのか、全く経験がなく、連日の情報集めに苦労したという。しかも、エジプトでは食当たりを起こし、その状態で競技を続けなければならなかった。そんな田中ナビの教育係となったのは、前述の寺田選手だが、1号車には国内トップラリーストの三橋淳選手もいる。そういう先輩たちから、田中ナビは一体どんなものを得ているのだろう。

 「三橋・寺田両選手は、今までの生活では交わることのないような人たちだったので、考え方とか経験の部分ですごく刺激を受けます。徹底したプロフェッショナルさを感じます。ひとつひとつの物事に対して、どこに問題があるのか。それを解決するためにはどうすればいいのか、当たり前の考え方だけれどそれを実際にやってる人を間近に見られることはすごく勉強になりますね。おかげでこの1年で、私もすべてのことに対して“何のためにするのか?”ということを、真剣に考えるようになりました。今まで人に言われてやってきた部分がほとんどだったので。それは仕事にも役立っていくと思います。特に寺田ドライバーは社会人経験もあるので、ナビだけでなく会社生活の部分においても多くの事を教えてもらっています。」まもなく、ダカール2011が行われる南米の地に立つ田中ナビ。“ドライバーとナビゲーターしか見ることができない光景”のなか、2週間以上を闘い抜いた後、彼はまたひと回り大きくなっていることだろう。できれば、またその時の感想も聞いてみたいものだ。