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レーシングドライバー塾 2016 冬期講習
一貴、可夢偉、石浦が若手に伝えたい言葉 1時限目

中嶋一貴、小林可夢偉、石浦宏明 トップドライバー3人が若手選手に伝えたい言葉 講師 中嶋一貴

1時限目:国内外、複数のカテゴリーで活躍するには?
講師:中嶋一貴

<中嶋一貴先生キャリア>
国内トップフォーミュラ2012年、2014年ドライバーズチャンピオン。SUPER GT(GT500クラス)には2011年から2014年に参戦し、4勝2PPを記録。2012年よりトヨタのWECにも参戦し、昨年まで2勝を挙げる。2014年にはル・マン24時間レースで日本人初のポールポジションを獲得した。

−−1時限目は、中嶋一貴先生の授業です。
昨年の中嶋先生は、国内トップフォーミュラのスーパーフォーミュラでタイトルを争い、世界選手権のWECではTS040 HYBRIDのレギュラードライバーとマルチに活躍されています。レースはもちろん、クルマの特徴も違う中、きちんと結果も出している中嶋先生には『複数のカテゴリーで好成績を収めるためには、何が必要なのか?』を教えていただきたいと思います。中嶋先生、よろしくお願いします。

講義する中嶋一貴

経験を得るため、チャレンジする気持ちを周りにどんどん伝えてほしい

中嶋 それでは、授業を始めたいと思います。『複数のカテゴリーで活躍するには?』というのがテーマでしたね。
 複数のクルマを乗りこなすことは、それがドライバーの仕事ですから、それぞれが違うとはいえ、多分そんなに難しいことではないと思います。ただ、これらを乗りこなすためには"経験"がすごく重要なので、いろんなクルマに乗る経験をしておくことが大事になってくるでしょうね。
 だからと言って、若い選手が「乗りたい! 乗らせて欲しい!」と希望したところで、そうそう実現できないでしょう。でも、いろんなカテゴリーにチャレンジしたい、いろんなクルマに乗りたいとアピールしておくことはすごく大事なことだと思います。僕の例ですと、フォーミュラトヨタからF3にステップアップ、その間にスーパー耐久にも、SUPER GTのGT300クラスにも出させてもらいました。このようにフォーミュラ、ツーリングカー問わず、いろいろな経験をさせてもらったことが、結局は今につながっているのかなと思います。
 チャレンジする気持ちを持つことと、それを周りにどんどん伝えるようにしましょう。必ず誰かがそれを受け止めて、意外なつながりで実現することもありますから。

これまでWEC、SUPER GT、スーパーフォーミュラに参戦してきた

中嶋 その経験を積むためには、単年ではなく何年か乗り続けることが必要です。そのためには、押さえるべきところできっちりと結果を押さえて、シートを失わないこと。
僕自身、日本に帰ってきてからはスーパーフォーミュラ(当時はフォーミュラ・ニッポン)とSUPER GT(GT500クラス)を掛け持ちしていましたが、GTに関しては乗りこなすのに少し時間がかかりました。例えばテストでも、朝の乗り始めからポンとタイムを出せるようになるまでは2年ぐらい掛かったんです。このように時間がかかることもありますが、それでも、予選までにはタイムを出せるようになるとか、レースまでにはしっかりと自分のレベルを上げて何とかするとか実績を積み上げ、チームに使える選手と思ってもらい、1年でシートを失わないこと。
 もちろん、クルマを壊さないということも、この中に含まれます。まぁ、僕自身はGTで何回か壊したことはあるんだけど......(苦笑)。大きいクラッシュをして多方面に申し訳ないことをしたこともあったけど、それでも今僕はここにいることができています。同じ失敗を繰り返さず、そこから前を向いて、何ができるかを考えたいですね。

中嶋一貴先生の話を聞く山下健太と坪井翔

海外には国内のような"優しさ"はない。コミュニケーションが大事

中嶋 次に、海外と日本のレースを両立することですが......。
そもそも海外でレースするには英語が必要ですね。2人とも、英語は勉強しているの?

山下&坪井 ......。

中嶋 してくださいね(苦笑)

小林 大丈夫! 俺は勉強してなかったぞ!(笑)

中嶋 まぁ、たまにこういう人もいます。(外国に)行けばなんとかなるってね(笑)
その可夢偉だって、なんとかコミュニケーションを取ろうとして、ボディランゲージなんかも交えながらしっかりと自分の言いたいことを伝えるでしょ?
要は、必要なことさえ伝えられればいいんだけど、ちゃんと英語がしゃべれたり、分かったりすれば、手間が省けるっていうこと。

中嶋 2人は、レース以外の部分では結構時間が空いていると思うから、学校で勉強できる範囲でもやっておくと、海外に出た時に多少の助けになります。海外での仕事は、自分から言わないと(周りは)何もやってくれないからね。
君たちが今在籍しているチームみたいに、黙っていてもやってくれるような"優しさ"はない。本当に必要なことはちゃんと伝えることが大事だし、向こうの言っていることが分からなければ、分かるまで何回も聞くこと。日本でも一緒だけど、こういったことが日本以上に必要だと思います。

チームメイトと話をする中嶋一貴

坪井 中嶋先生は、英語をどうやって勉強したんですか?

中嶋 勉強をちゃんとしたのは、やはり高校から。
中学・高校の英語がまあまあ分かれば大丈夫だと思う。まったくのゼロで行くよりはいいだろうね。ただ、僕は勉強してなんとかなったタイプだけど、可夢偉みたいに現地に行ってなんとかするタイプもいるし、勉強の仕方は人それぞれじゃないかな。

小林 速く走る方法と一緒で、人それぞれのやり方があるんやから、それは自分で見つけたらいいと思うよ。
僕の場合、向こうでレースもやったけど、普通の学生として学校にも通った。その生活でも言いたいことが伝えられなかったのがすごく悔しくて、学校から帰ってからひたすら映画を見て、それで英語を覚えた。英語は覚えると、レースだけじゃなくて人生も楽しくなる。今や、簡単に飛行機に乗っていろんなところに旅行できる時代やからね。人生を楽しむためにも、英語はしゃべれたほうがいいよ。

中嶋 海外を目標にするなら、読むこととしゃべることは絶対に必要。クルマに関するマニュアルも英語だからね。
しかもイギリス人が書いているわけじゃないから、変にまどろっこしい英語だったりすることもあるし。「こんなん読めるか!」って思うこともあった(苦笑)
こんなふうに、英語がうまくない外国人も当たり前にいるし、母国語でないのにめちゃめちゃうまい奴もいるし、語学に関係なく速い奴も速くない奴もいる。外国人って言ったって、自分たちとそんなに変わらないんだから、変な先入観はいらないと思うよ。

中嶋一貴

うまくいかないことがあっても、そこでのベストを獲得する

山下 先生は、国内トップフォーミュラで2回チャンピオンになっていますよね? シーズン途中で苦しい場面とかもあったと思うんですが、そういう時はどうやって乗り切ったんですか?

−−山下選手は、全日本F3選手権で2年連続のシリーズ2位でしたね。来年こそは頂点に立つために、中嶋先生、アドバイスをお願いします。

中嶋 アドバイスできるほど経験があるわけじゃないけど、「苦しい時でも取れるものは取る」っていうことかな。F3の頃からお世話になっている関谷(正徳)さん※2の言うことで大事だなって思ったのは、「失敗したことは受け入れて次にいけ」ってこと。スタートとかで失敗しても※3、言われるでしょ? 調子が悪かったり、レース中にうまくいかないことがあったりしても、その自分の立ち位置からベストなものを取っておくと、そこで手に入れていた1点2点というのが、シーズンの最後の最後に効いてくることがあるので、すごく大事だなと思います。

※2:関谷正徳氏はFTRSの校長を務め、SUPER GTではLEXUS TEAM TOM'Sのチーム監督として、ドライバーの育成にも関わっています。トヨタの若手、中堅ドライバーにとっては、正に"レースの先生"です。
※3:山下選手は、スタンディングスタートが得意ではなく、今季も何度か決勝スタートを失敗しています。

フォーミュラトヨタ時代に関谷正徳氏からアドバイスを受ける中嶋一貴

−−中嶋先生、ありがとうございました。2時限目は、小林可夢偉先生に「海外でレースキャリアを磨くために」というテーマで授業をしていただきます。それでは、ここで少し休み時間としましょう。

  1. ホームルーム
    1. 生徒自己紹介

  2. 1時限目:国内外、複数のカテゴリーで活躍するには?(2016年2月5日公開) 1時限目:中嶋一貴
    1. 「大事なのは、同じ失敗を繰り返さず、前を向いて何ができるかを考えること」中嶋一貴

  3. 2時限目:海外でレースキャリアを磨くために大事なこと(2016年2月11日公開) 2時限目:小林可夢偉
    1. 「自分の言葉をいかにうまく伝えるか。海外では、それが人としての信頼にもつながる」小林可夢偉

  4. 3時限目:チームとクルマを強く鍛えるドライバーになるために(2016年2月19日公開) 3時限目:石浦宏明
    1. 「勝ちたいという意志をドライバーが示せば、チームが勝利に向かう力も一層強くなる」石浦宏明