メニュー

レーシングドライバー塾 2016 冬期講習
一貴、可夢偉、石浦が若手に伝えたい言葉 3時限目

中嶋一貴、小林可夢偉、石浦宏明 トップドライバー3人が若手選手に伝えたい言葉 講師 石浦宏明

3時限目:チームとクルマを強く鍛えるドライバーになるために
講師:石浦宏明

<石浦宏明先生キャリア>
レーシングカートは17歳からと遅めのスタート。しかし、4年目の2003年にはフォーミュラトヨタに参戦。参戦費用などに苦労しながらもF3、フォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)とステップアップ。2015年にはスーパーフォーミュラで初優勝。この年、都合2勝を挙げてドライバーズチャンピオンを獲得した。

−−3時限目は、昨シーズン、念願だったスーパーフォーミュラのドライバーズタイトルを獲得した石浦宏明先生の授業です。2014年、「チームを強くするために、来て欲しい」というオファーを受けてP.MU/CERUMO・INGINGに入った石浦先生は、長らく勝ち星に恵まれなかったチームにシーズン2勝をもたらし、チームランキング2位獲得にも大きく貢献しました。さらにSUPER GTでもGT500クラス車輌のLEXUS RC Fの開発ドライバーとして活躍しました。そこで石浦先生には『チームとクルマを強く鍛えるドライバーになるために』というテーマの授業をしていただきます。よろしくお願いします。

石浦先生の話を聞く坪井翔、山下健太、中嶋一貴、小林可夢偉

ドライバーひとりでやれることには、やはり限界がある

石浦 僕のキャリアの紹介ともに、昨年の功績を誉めていただきましたが、実は僕が何か特別なことをしたわけでもなく、チームはチームでがんばって、その結果として強くなってきた面もあるんです。
 そして、ドライバーが自分ひとりでいくら速く走ろうとしても、やはり限界があります。チームのサポートがないと速いクルマは作れないし、自分の本来のパフォーマンスも出せない。僕がいつも意識しているのは、チームのみんなに、少しでも自分の方を向いてもらえるように、協力してもらえるように流れを持っていくということ。自分の意志が伝わり、「コイツは本気で勝ちたいんだな」ってみんなに思ってもらえると、チーム全体として"勝利"に向かう力も一層強くなるはずです。
 例えばガレージでクルマのアライメント(サスペンションの調整)を取るときに、「これぐらいなら許容範囲だし、大丈夫か」っていう具合に終わらせるか、「夜中までかかっちゃうかもしれないけど、ここはきっちり突き詰めてやっていこう」ってなるのか。そこは、やっぱりドライバーの強い気持ちが伝わっているかどうかで変わってくると思うんです。
 2時限目の授業で小林可夢偉先生も「しつこいぐらい話す」と言っていたけど、ちょっとでも「こうしたいな」と思うことがあったら妥協せずにとことん話す。「コイツ、妥協して終わらせたな」という雰囲気は相手にも伝わります。そこで真剣である気持ちを表して、周りの人たちを味方にしていくことは大事なことですね。

石浦 僕が一緒に戦っている立川選手※1からよく言われることがあります。「チームに対して何か不満があるとき、チームの中では何も言わずに外に向かってその不満を漏らしてしまうのはよくない。そうではなくて、チームの中ではしっかりと不満を伝えて、外には何も言わないこと。」それは選手とチームの信頼関係にも繋がります。仮に彼らにミスや遅れがあったとしても、外部のプレッシャーから守り、その一方で選手からは真剣に反省を促す。そうすれば、チームから「よし、次はもっと上手くやろう」って思ってもらえる。そうやって、チームって一丸になっていくと思います。

※1:立川祐路選手はSUPER GTで昨季から石浦選手と組むベテランで、スーパーフォーミュラではチーム監督の立場で石浦選手をバックアップしています。今の石浦選手にとって正に"先生"であり仲間といえる人物です。

ピットでセッティングをする石浦とエンジニア

クルマ作りで大事なのは、ぶれないということ

石浦 それからクルマのセッティングについてですが、目の前の状況に対して「クルマがどんな感じだ」「ああだこうだ」って言うのは簡単なんです。でも、常に1レースとか、1シーズンとか"流れ"を意識した長いスパンで考えたコメントをしていくと、自分の中の軸がぶれずに進めていけると思います。その軸がぶれていると、どっちの方向に進んでいるのかわからなくなってしまうんです。

石浦 僕自身の話をしましょう。昨年のスーパーフォーミュラはタイヤの使用本数の関係で、予選日午前中のフリー走行でニュータイヤが履けませんでした。そこで開幕戦は手探りの状態で進めていきましたが、あんまりうまくいきませんでした。第2戦では、フリー走行でのバランスをすごく意識して、ユーズドタイヤで走り「これぐらいのバランスで行けば、ニュータイヤを履いたらぴったりはまるんじゃないかな」っていう感覚......、ドライバーなら分かると思うんだけど、その感覚をすごく意識してセッティングを進めて、実際に予選でニュータイヤを履いたらバシッと来たんです。次の第3戦は、前の2戦での違いを考えて、さらにコースのキャラクターも加味して、その時の感じを再現できるようにセッティングを進めて行きました。次第に、その「はまるんじゃないかな」っていう予想が的中するようになったんだけど、それも、その場のことだけしか考えてないと、なかなか見えてきませんよね。

石浦 一番大事なのは、ぶれないっていうこと。ミドルフォーミュラ※2の頃とかは、周りから「お前のドライビングスタイルは間違ってる」とか、「このセットアップで走ったほうがいい」なんて言われることがあると思う。その度に「いや俺のやり方の方がいいはずだ」とか、「直さなきゃいけないかな」って悩んだりすることもあると思う。でも、どうしたら自分のパフォーマンスが出せるかは、人それぞれ違う。だから、自分のやり方からぶれないよう、そこを考えてやっていくことが大事です。もちろん、小林先生が話したように、とことん話し合って、良いものなら受け入れるのも大事です。

※2:フォーミュラレースではそのシリーズのレベルによってポジション付けが成されており、入門(エントリーまたはジュニア)フォーミュラから始まり、世界最高峰のF1へと上り詰めます。その中でステップアップを目指す若者中心のカテゴリー群をミドルフォーミュラと総称します。現在ではF4クラスやフォーミュラ○○(エンジンメーカー名)などがそれに相当します(F3を含める場合もあり)。

昨シーズンのもてぎ戦スタートシーン

−−石浦先生は、昨シーズンにスーパーフォーミュラでの初ポールポジション、初優勝、そして初のタイトル獲得となりました。一気に実力が開花した、とも思えます。一緒に戦ってきた中嶋先生や小林先生から見て、それまでと違うなと感じるところはありましたか?

中嶋 予選でのタイムの出しどころくらいじゃないかな? 一昨年までは、Q2がすごく速かったという印象があるね。

小林 そう。去年は、Q2までがそこまで大したタイムじゃなくても、Q3でドッカーンってくる感じやったね。

坪井 (予選の)タイムの出し方というのは、石浦先生が自分でも意識していたポイントなんですか?

石浦 確かにそれは目指していた部分ではあります。ただ、一昨年までと去年とで一番違うのは......、"レースウィークを楽しめるようになってきた"ということ。そこがひとつ違う点かもしれないですね。それまで僕は、「このレースがダメだったら、もうレース人生は終わり......」みたいな崖っぷちな状況が続いていたので(苦笑)、なかなかレースが楽しめなかったんです。でも、去年は走っていない時にリラックスできて、オンオフをしっかりと切り替えられるようになった。自分が力を出しやすいリズムみたいなのが分かってきたのかもしれません。そうですね。2012〜2013年の2年間、スーパーフォーミュラのシートを失って、その後、2014年にまた呼んでもらって手応えをしっかり得られたことで、もう今は怖いものがないっていうか(苦笑)。

小林 そうやね、思いきりは良かった気がする。ここっていう時に失敗せえへんし、タイムの出し方だって、コンマ1秒速いとかじゃあくって、コンマ5秒くらい速かったもん。あれは、だいぶ思いきって行かないと出ないタイムだからね。

石浦 今は"失敗したらどうしよう"っていう気持ちはなくなりました。それも信頼関係だと思うけど、失敗してもチームが「なんだアイツは」みたいな空気にならない。むしろ「いや、失敗しやすいクルマだったんだよ。こっちでなんとかするよ」って言ってもらえる時もあって、「なんて優しいんだ」なんて思ったり(笑)。それは、自分がそういうふうにチームの雰囲気を作れたということもあるでしょうね。

授業をする石浦宏明

僕がクルマに詳しいというのは、イメージだけですよ(笑)

山下 石浦先生は、クルマにすごく詳しいっていうイメージがありますが、メカニカルな知識はどれぐらい身につけたらいいでしょうか?

石浦 それはね、そういうイメージがついているだけ(苦笑)。 僕がGT500に上がった頃、「ジオメトリーでここを変更するね」って言われても全然イメージがわかなくて、「ジオメトリーじゃなくて、スプリングだとか、イメージの湧きやすい言い方にしてもらえませんか?」って言ったことがあるくらいです(笑)。他にもGTで僕より若いドライバーと組んだ時に、僕がセットアップして作戦を考えるみたいに思われたりしますが、実際は若手がやっていることもあります。
 クルマの知識はあるに越したことはないけど、それよりも速く走れることのほうが大事。僕たちが乗っているようなレーシングカーに付いているものってすごくシンプルだし、そんなに難しい知識を得なければいけないことはないと思います。

中嶋 自分が乗っているクルマが"どういう特性があるのか"、ドライバーはそういった全体的なことが分かっていればいいんじゃないかな? あとは、どこを触ったらどう変化するかぐらい。まあ、そこは分かっていないと、一緒にクルマを作っていくエンジニアが苦労するからね。

石浦 そうレーシングカーの知識は、すべて経験して吸収できるものだから、いろんなクルマに乗っていくことで身についてくると思います。そう言う意味でも、中嶋先生の話の繰り返しになるけど、若い選手は乗り続ける環境を作ってください。乗る時間や経験さえ積めば絶対に行けると信じて、1年だけのチャンスではなく、2年3年というスパンで乗れるチャンスを作れるよう、これからもがんばってください!

−−石浦先生、ありがとうございました。これで今日の授業は終了です。中嶋一貴先生、小林可夢偉先生、石浦宏明先生、お忙しい中、お時間をいただき、貴重なお話しをありがとうございました。

放課後(山下、坪井選手の振り返り)

黒板にコース図を描く坪井翔と山下健太

実践タイプなので、思い切って海外に行ってみたい(坪井)

−−坪井選手、山下選手。今日は3人の先生に貴重なアドバイスをもらえましたね。

坪井 中嶋先生の授業では、英語の重要性をすごく感じました。僕はいま、TOEICの勉強中なんですが、なかなか(勉強)できている気がしなくて。教科書を読むっていうやり方よりは、映画を見たりする方が僕には合っているのかもなと思いました。あとは、実践タイプなので、思い切って海外に行ってみたいとも思いました。

山下 僕も、周りから『英語は勉強したほうがいいぞ、勉強しろよ』と本当によく言われるのですが、なかなかやる気にならなくて(苦笑)。小林先生のように、やる気を出せるきっかけを探すところから始めようと思います。

−−2時間目の小林先生は、レースだけにとどまらず、生き方のような授業でしたね。

山下 小林先生は、他にはいないタイプですよね。今まで、あまり喋ったことがなかったんですが、今日の話を聞いてすごく、人を引っ張る力がある人だなと感じました。そういうところを見習いたいです。

坪井 単純に"楽しいキャラクター"の部分の印象が強かったので、今回生き方というか、考え方を聞けてよかったです。

−−最後の石浦先生の授業は、具体的なお話が多かったです。すぐに実践できそうなこともあったのでは?

坪井 チームとのコミュニケーションがいかに大事か、改めて感じました。僕自身、昨シーズンはエンジニアともっとしっかり理解を深めるために、言葉のニュアンスを共有させることを意識して話をするようにしていました。その効果もあってシーズン中盤から結果が出るようになりましたから。

山下 僕も普段から、レースの話だけじゃなく、いろんな話をエンジニアやチームのみんなとしていこうと思いました。チームへの気遣いというか、一緒に戦っていくために、『勝たせたい』と思ってもらえるドライバーになれるようにがんばります。

集合写真

−−山下選手、坪井選手もお疲れ様でした。3人の先生の授業は、きっとおふたりの今後の活躍に繋がると思います。ファンの皆さんも今シーズンの両選手に、ぜひ注目してください。
 そして、今回は先生として登場した中嶋一貴選手、小林可夢偉選手、石浦宏明選手。今年もスーパーフォーミュラなど国内外のトップカテゴリーで、トップを目指して、胸躍る感動のレースを見せてくれることでしょう。今シーズンもTOYOTA GAZOO Racingの各ドライバー、チームにご期待ください。

次のページ
  1. ホームルーム
    1. 生徒自己紹介

  2. 1時限目:国内外、複数のカテゴリーで活躍するには?(2016年2月5日公開) 1時限目:中嶋一貴
    1. 「大事なのは、同じ失敗を繰り返さず、前を向いて何ができるかを考えること」中嶋一貴

  3. 2時限目:海外でレースキャリアを磨くために大事なこと(2016年2月11日公開) 2時限目:小林可夢偉
    1. 「自分の言葉をいかにうまく伝えるか。海外では、それが人としての信頼にもつながる」小林可夢偉

  4. 3時限目:チームとマシンを強く鍛えるドライバーになるために(2016年2月19日公開) 3時限目:石浦宏明
    1. 「勝ちたいという意志をドライバーが示せば、チームが勝利に向かう力も一層強くなる」石浦宏明