メニュー

開発者が語るレーシングエンジン開発秘話 後編(1/2)
次世代レースエンジンの技術は市販車にも使えることも重要

次世代レースエンジンの技術は市販車にも使えることも重要 トヨタ自動車 スーパーフォーミュラ プロジェクトリーダー 永井洋治

完成の域に達したRV8K。そして来年に登場する次世代レーシングエンジン。トヨタモータースポーツは今進化の時を迎えようとしています。先端の技術の中で、何が変わろうとしているのでしょうか。

RV8Kでやり残した課題は"コスト"です

−−現時点で、RV8Kの完成度を、何かわかる形で表現していただけませんか。

永井洋治(以下永井): 去年、RV8Kシリーズは、フォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)、SUPER GT、LMP1など全部で20台レースに出て、のべ約15万km走行しました。トヨタの歴史の中で同じ形式のエンジンが1年間で20台もレースで使用されたのは初めてではないでしょうか。
この20台のうち、去年、エンジンに起因する大きなトラブルは残念ながらSUPER GTで1台だけありましたが、それ以外はまったくなかったんです。そういう意味では相当完成されてきたかなと思います。しかも勝てる性能を発揮しています。性能も信頼性も確保しました。
あえて言うならば、コストについては道半ばですね。正直なところ。もう少しコストを下げられれば20台が40台になると思うんです。

−−当初目指したRV8Kのコンセプト、つまり性能や信頼性あるいはコストは、相反する要素だったと思いますが、それを並び立たせるのは容易なことではありませんか?

永井:確かにその通りです。でも設計者がちゃんと意識すれば実現できるものなんです。今のエンジンは、市販のパーツも結構使っています。例えば燃圧センサー。どのエンジンにもついていますが、市販品は数百円も出せば買えます。ところがレース用は、平気で10万円します。機能はどちらも圧力を計るだけなのに、なぜそんなに違うのかというと、壊れるかどうかなんです。元々レース用エンジンは振動が大きいので、センサーがよく壊れます。だからレースでは壊れないものを使うのですが、壊れない場所につければ市販品で大丈夫なんです。
インタビューに答えるトヨタ自動車 スーパーフォーミュラ プロジェクトリーダー 永井洋治
ただ、こういう発想がレースエンジンの設計者にはありません。壊れるから壊れないものを持ってくる。10万円でもしようがない、これがレースなんだ、と。でも今のわたしは違うと思います。10万円のものを使っても性能など1馬力も変わらないんです。燃圧センサーなどそれ自体は性能には全く関係がない。そういう意識をまず技術者が持たなければいけません。意識すれば、相反する要素も並び立たせることができるはずなんです。

−−レース用の部品と一般部品はそんなに価格が異なるものなんですね。

永井: こういう考え方の下、RV8Kでは、性能に関わるインジェクターのような部品であっても、非常に安価な部品を使っています。多分レース用パーツの50分の1くらいの値段です。でもほとんど同じ性能を出せるんです。
ほとんど同じ性能なら安い方がいい。高いものを使うのがレースだという考え方は間違っている、安価でシンプルな仕組みから性能を引き出すのが一番の技術だと自分は思っています。こういうことをエンジニアが意識することが大事です。

−−RV8Kは今年で5年目を迎えます。完成の域に達したと言ってもいいのでしょうか。

永井: すでに来年からのエンジンの開発に着手していますが、今シーズンも相手に勝たなければなりませんから、今年もRV8Kは、性能向上します。でもほとんど完成に達したと考えています。来季は新世代エンジンが現れますから最前線での役割は終えますが、もし使えるカテゴリーがあるのであれば、エンジンリースという形で提供したいと思っています。