TS030 HYBRIDを徹底解剖!
最先端のハイブリッド技術をつぎ込み、レースで鍛える
トヨタはTHS-R(TOYOTA Hybrid System - Racing)を搭載したTS030 HYBRIDで13年ぶりにル・マン24時間に復帰、そしてWECに挑戦している。TS030 HYBRIDの要(かなめ)となるTHS-Rとは、どんなものなのか?ハイブリッド市販車との技術的な関係とは?図解や開発者のインタビュー動画を交え、その特徴と仕組みを紹介しよう。
ライバルが驚嘆したTHS-Rの加速性能
アルミ合金製ミッションケースに内蔵されたデンソー製モーター
220kW(約300馬力)を発揮するレースで用いられるエネルギー回生システムは、エネルギーを減速時に回収し、これを電気エネルギーに変換。一旦蓄えた後、コーナー脱出時の補助動力として活用(放出)する。WECではLMP1クラスに限り、エネルギー回生システムの使用が認められている。レギュレーションではエネルギーの回生と放出は前輪または後輪いずれかの2輪で行うことが定められており、4輪での回生と放出はできない。
日清紡ホールディングスとトヨタが共同開発したキャパシタ TS030 HYBRID のシステムはTHS-R(TOYOTA Hybrid System - Racing)と呼ばれ、3.4リッター V8NAガソリンエンジンに、220kW(約300馬力)を発揮するデンソー製モーターを組み合わせている。このモーターはエンジンとギアボックスの間、アルミ合金製ミッションケースに内蔵されており、その回転はギアボックスを介して後輪に伝えられる。加速時にはこのふたつのパワーが組み合わされ、ル・マンでライバルチームのドライバーが驚嘆した加速性能を生んでいる。また、このモーターはスターターとしても使われ、スターターモーターとそのためのバッテリーは搭載されていない。
コックピット奥に見えるのがキャパシタ
安全のためオレンジ色のカバーで覆われている ハイブリッド車の回生エネルギーの蓄え方には一般に蓄電池、フライホイール方式等があるが、THS-Rではキャパシタを用いている。これは日清紡ホールディングスとトヨタが共同開発したEDLC(電気二重層キャパシタ)で、電圧は700V。コクピット内右側のパッセンジャーシートの場所に置かれている。
ところで現在、市販ハイブリッド車の蓄電器はニッケル水素電池が一般的だが、小型で軽量なリチウムイオン電池が増えつつある。しかしキャパシタはこれら電池よりもエネルギー効率が高く反応熱が少ない、電力の回収を素早く大量に行える等の利点があり、ハイブリッド車の蓄電器として有望視されている。反面、一般にキャパシタは電池と比較してエネルギー密度が低い(容量が小さい)という問題もあるが、レースではエネルギー密度よりもパワー密度が優先されるため、キャパシタの有効性は高いのだ。
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