F1界におけるトヨタの存在
●ヨーロッパ文化のひとつであるF1の世界へ、日本の自動車メーカーとして入っていくことの難しさがあるのではと思います。ただ、トヨタの場合はドイツに拠点を置いて活動を展開していますから、そういったF1の世界へうまくとけ込んでいく流れに乗っているのかな、とも思います。そのあたりの難しさを感じられることはありますか?
「毎日ありますよ。今までF1に参戦されていた自動車メーカーとトヨタ自動車が決定的に違うところは、“ひとつ屋根の下でエンジンとシャシーを作ります”ということだけではないのです。われわれは、チームそのものを作っているのです。F1チームとしてトヨタ自動車は参戦し、しかもTMG会長として日本のトヨタ自動車から冨田を送り出している、というわけです。F1グランプリという文化の中へ、チーム・プリンシパルをトヨタ自動車から出している。それはエンジン・サプライヤーで参戦しているスタンスとはまったく違う部分なのです。つまり、今後のF1、そしてF1の将来に対しても責任を持つ、ということになりますし、そのような理解を持った上でトヨタ自動車はF1に参戦しています。
そこまでの決意で参戦するトヨタは、F1界の中で、とてもいい形で受け入れてもらっています。ただし難しい部分というのもあります。たとえば現在のF1が直面している問題に対してトヨタとしても共に取り組んでいく責務があるわけですが、そこにどう対処していくのか、というのは難しい課題です。
事例として、ご周知の通りトヨタはエンジンのみを他チームへ供給することになりました。われわれは、エンジン・サプライヤーとしての参戦ではなく、シャシーとエンジンを共に開発し、参戦しているのが、私たちのアイデンティティーです。二つで一つ。それらを切り離して考えるということは、本来の目指す方向性ではありません。
しかし今回はF1界での未来や現在のことを考え、エンジンを必要としているチームがある、という現状を踏まえ、いろいろとチーム・プリンシパル達と協議をしました。トヨタ自動車自身にはエンジンを供給できる力がありました。F1に参戦する者として、出来る限りのことをしたいと純粋に考えました。冨田もその辺のことを悩みに悩んで今回のエンジン供給の決断をしました。毎日のように難しさを感じるというのはそういう決断や判断でもあります」
●F1の世界はライバルチームも、主催者も、大勢の力で作られているのですね。
「はい。そうなのです。しかし、貢献だけではなく、レースの「結果」も当然大切である事を私達は強く噛み締めています。だからこそ今期は必ず表彰台を獲得する、という目標を明確に掲げました」
F1への夢を現実にするために
● 現在、F1の世界で仕事をしてみたいと夢見ている若者も多いと思います。たとえばトヨタの一員としてそういった夢を現実のものにしたいと願っている人たちに対して、どのような道をたどっていけばそこにたどりつけるのか、アドバイスをいただけますか?
「それはやはり険しい道でしょう。もちろん、エンジンか、車体のエンジニアになりたいのか? でも難しさは変わるでしょう。人材の需要という面から考えれば、エンジンのほうが、この世界に入るきっかけを掴み易いかと思います。
たとえば自動車メーカーや、レーシングチューニングメーカーに入ってエンジンを担当する、というのは本当に熱い志を持って突き進めば実現できると思います。エンジンというフィールドは、日本は得意分野ですから、日本でやっていけることと思います。そのために大学でエンジニアリングを学ぶのも良いでしょう??でも絶対それがないとダメというわけでもないと個人的には思いますが。目指す目的は一つでも、そこまでのプロセスはいくつもあるでしょう。チャレンジに必ず必要なもの、それは熱い志ではないかと考えます。
いっぽうで難しいのは車体のほうです。なぜ難しいかと申しますと、レースの場合、使う車両以上の数の人材の需要はありません。恐らく、多くの方がイメージするのは“サーキットで無線を使いながらレースをしているクルー”ではないかと思うのですが、限られた車体数に限られた需要ですから、マーケットとして非常に狭い。車体の数がどんどん増えていく状況ではないのですから、その門はさらに狭いものです。
しかし、確かに狭い門ではありますが、不可能であるとは考えません。熱い志を叶える為に、どんな努力や道でも進んでいけるのであれば、私は、アメリカから入っていく道を、自らの経験からもアドバイスさせて頂きます。
競争率がかなり高いヨーロッパや日本でいきなり、というのは難しいことでしょう。しかし、アメリカの母集団は大きいです。アメリカで経験と実績を積み重ねて、その後にヨーロッパや日本で更に突き進む、という道は現実的に辿れる道ではないかと考えます。私も、アメリカでCART選手権に携わり、現在こうしてF1に携わっているのです。この世界を志すみなさん、頑張ってください。私のアドバイスが役立てば幸いです」
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