イタリアGP
テクニカル・プレビュー
パスカル・バセロン Q+A
●モンツァはF1カレンダーの中で唯一の低ダウンフォースサーキットです。これはどういった意味を持つのでしょう?
「今のモンツァは他のどのサーキットともまったく違うコースと言える。したがってわれわれはこのレース専用の特別なクルマを用意しなければならない。平均速度が非常に高いため、低ドラッグ仕様の特別パッケージを用意する必要がある。もしモンツァに特別なパッケージを持っていかなかったら、レースではまるで自分がその場に停まっているような感じで、他車からどんどん追い抜かれてしまうだろう。モンツァのもうひとつの側面として、その歴史が挙げられる。ここでの過去のレースの歴史が、モンツァを特別なコースにしているんだ。私がイタリアが大好きだし、私個人としてはイタリアでのレースが多ければ多いほどいいと思っているよ」
●モンツァでは、以前からスリップストリームを使ったバトルとその興奮が約束されていますよね。ですが現在はたとえモンツァであっても、やはり追い越しは難しいのでしょうか?
「トップスピードで走っているときに前のクルマにある程度接近してしまうと、やはりいつもと同じ問題が生じてしまう。前のクルマから発生する気流の中に入ると、フロントのダウンフォースが失われてしまい十分に接近できなくなる。特にホームストレートに続く高速最終コーナーのパラボリカではそうだ。ダウンフォースがそれほどでもなかった昔のレースでは、前のクルマに近づくとダウンフォースを犠牲にすることなくドラッグが低減できたので、そこでパフォーマンスを稼ぐことができたが、現在は乱れた気流の中で大きくパフォーマンスを失うことになる」
●モンツァではブレーキも重要な鍵になります。このレースのために、通常と異なるブレーキパッドを使う可能性はありますか?
「数年前、モンツァとモントリオールで通常と異なるブレーキメーカーの製品を使ったチームがあったが、ここ3~4年はそういったチームを見たことがないね。というのも、ドライバーにとってはブレーキペダルを通じた感覚が非常に大切だからだ。その感覚を維持するには、ブレーキディスクとブレーキパッドの摩擦係数がいつも完全に同じでなければならない。ドライバーはそれを前提に走っているからね。したがって常に同じブレーキメーカーの製品を使っていればこれを確実にできるというわけだ」
●モンツァではブレーキが限界ギリギリになるのでしょうか?
「モンツァではブレーキング時のエネルギーはかなり大きくなるが、同時に十分に冷却することもできるため、適切な作動温度の範囲で走らせるのは難しいことではない。ブレーキの摩耗に関しても特に一番厳しい状況とは言えないね。モントリオールのほうが状況は厳しい。ブレーキング時のエネルギーはモンツァと同程度だが、平均速度がモンツァよりもかなり遅いため冷却効果が十分に得られないんだ」
●となると、問題になるのは、空力面のアドバンテージを狙った小型のブレーキダクトと、それによる冷却効果の低下の要素だけですね?
「その通り。だが、賭けに出るだけの価値はそこにはないね。ダクトを小型にしたところで、得られる効果は10分の1秒にも満たない。ブレーキ温度の問題を抱えながら走るだけの価値はそこにはないし、最近ではすべてをチェックするための特別なモンツァテストもある。したがってブレーキの冷却をどうするかを決めるのは特に大きな問題ではない。これはエンジニアリングの視点から決断されるべきことで、必要なのはテストの予定をしっかり組んで、各セッションを実行し、そして冷却に関してどこが限界なのかを確認しておくことだ」
●今回は低ダウンフォースということですが、その点でモンツァではクルマのパフォーマンスに関して運任せになるのでしょうか?
「モンツァ専用のパッケージを使うというのはそういう意味だ。まずは目標値を設定し、あとはそれを達成できるかどうかの問題になる。こういったレースは1回限りのものであり、こちらもそのつもりで臨まなければならない。特別だからといって必要以上に多大な時間を費やすわけにもいかないしね」
●高速コースのモンツァでは、それ以外にどんな要素がクルマに影響しますか?
「ひとつ言えるのは、通常のレースで見られる空力効率改善を狙ったパーツのいくつかが取り去られるということだ。いっぽうで今回も使用されるパーツには、通常よりも大きな負荷がかかることになるし、また空気の流れから生じる振動も大きくなる。特にテストの際にたとえばTウィングが脱落してしまうクルマが多いのはこれが理由だ。テストの際にさまざまなことを理解すればするほど、パーツを支えるためのパーツも増えていくことになる」
●カーブの縁石をうまく乗り越えなければなりませんが、これは問題になるでしょうか?
「なるね。ここでの縁石は高さがあり、もしこれに乗り上げずに走ったとしたらタイムを失うことになる。本来ならば、効率を最大限に発揮させるため、クルマをできるだけ硬めにし、車高を低くしておきたいだけに、この状況はちょっとした悪夢とも言える。縁石の要素を考えずに、そういった要素を自分好みにすることはできないしね」
●モンツァでTF107はどんなパフォーマンスを見せてくれそうでしょう?
「私はかなり楽観視している。われわれのモンツァ専用パッケージから得られた数値には、自分たちがいい仕事をしてきたことが表れているからね」