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【選定作品】提言1「レースベース車となるスポーツカーが存在すること、及び、ドライブの楽しさ・奥深さを知るファンの輪を広げること」 ニックネーム : carguyshouさん

レースが盛り上がるためには、応援したい車がなければなりません。
また、プロドライバーがレース中のコックピットで何を行っているのかが理解できたとき、尊敬の念が生まれ、俄然興味も沸いてくるはずです。
故に、日本のクルマとモータースポーツを盛り上げるためには、レースベース車となるスポーツカーが存在すること、及び、ドライブの楽しさ・奥深さを知るファンの輪を広げることが必要と考えます。

ここではスポーツカーに焦点を絞って提案を行いたいと思います。現在日本のモータリゼーションの中で圧倒的な主流となっているミニバンはとても便利なクルマで、その存在は不可欠ですが、いかにミニバンでスポーティカーに勝るとも劣らぬ走行性能を持っていようと、サーキット走行に参加しようという人は稀有であり、やはりそこには「イメージ」のつながりが大切であると考えます。私もスポーツカーとミニバンのユーザーとして、なにもミニバンが悪いと言いたいわけではなく、やはり大多数の人の中でミニバン→サーキットのイメージはもともと強くつながらないのです。しかもほとんどのミニバンはそういう走行を考慮して製造されていないので、つながってしまっても困るのですが・・・。

それでは本題ですが、現在、日本のスポーツカー事情を鑑みると、2つの問題があると考えます。第一に、スポーツカーそのものの存在、第二に、スポーツカーの「客層」と「ドライビングの機会」です。

まず第一に、スポーツカーの存在について提案申し上げます。

現在のスーパーGTの500クラスを見れば一目瞭然のように、今、日本にはメーカーイメージを背負って立ち、なおかつ一般人が乗って楽しめるスポーツカーが皆無です。無いものが盛り上がるはずもなく、こればかりはメーカーに魅力的なスポーツカー開発を頑張ってもらうしかありません。しかし今、消費者の視界から外れてしまっているスポーツカーを、どのように展開すれば良いのでしょう。

かつて日本のスポーツカーが全盛だった90年代と違い、現在の世界のプレミアムスポーツは恐竜化しており、当時のようにそれらと性能的に比較できるクルマを普及させることは、もはや不可能です。ならば必然的に絶対性能からは一歩降りた土俵で勝負しなければなりません。

そこで求められるのは、「感性能」です。

まず、見た目がカッコイイこと。所有するにあたり最も満足感に直結する部分ですし、さらに運転を体験できない子供でも、カッコイイ形には憧れが持てます。そもそもレースに興味のある大多数の人は、レーシングカーがカッコイイからでしょう?

昨今のクーペデザインは「塊感」を強調したものが多く、それはそれで成功しているとは思いますが、ここはやはりスポーツを謳うなら、「低さ」を強調していただきたいところです。なぜならいくら塊感を強調し高級感を演出しても、そのような高級セクレタリーカーと、運動性能のため低重心化された本来の「リアルスポーツ」が醸し出す迫力とは、ベクトルが違うから。ここはコストがかかり割り切りも大きい部分ですが、スタイルに関してはこの王道を追求していただきたいと思います。さらにメーカーに強力なハローカーが存在する場合、必ず何らかのわかりやすい共通の意匠は持たせるべきです。

また座席は2+2で、爽快に吹き上がるエンジンと、破綻のない当たり前のハンドリングを備えた、初級~中級者向けの「ツーリングベスト」である必要があります。本来ならば入門用車種とハイエンド車種が別個にあれば理想ですが、現状そうもいかないので、特別な高額少量生産の高性能グレードを設け、イメージリーダーをそれに任せたいところです。しかしここで注意しなければならないのは、普及版を高性能版の「安物」に甘んじさせないこと。特に日本車はターボ=高級高パワー、NA=安物・廉価版、という図式で、性能以外でのコストダウンも顕著です。そうではなく、たとえばターボに対しNA版はローパワーでもレブリミットが1,000回転高く燃費も良い、等の「ならではの特典」が付いていれば、別個のものとしての評価が生まれるはずです。普及版を安く作るのではなく、高性能版をより高く作るのです。スポーツカーは満足感の世界なので、これまでのように比較して惨めな安物を作ってはいけません。

さらにもう一つ言わせてもらえば、伝統的な車名は残すべし、です。何十年という継続は、ただそれだけで振り返ったときに得られるノスタルジックな感動があります。名前をコロコロ変えてはいけません。

かつて日本車とは比べるべくも無い信頼性だった海外プレミアムスポーツが、半世紀近くにわたり顧客に何千万という高額の代金を払わせしめていた要素はまさに「形」や「音」という五感に訴える感動と、社会的名声を所有する満足感に他なりません。バブル期のような絶対性能重視ではなく、感性能の磨かれた、他人に「いいね」と言わしめる新世代スポーツカーの登場を期待したいものです。

第二に、「ドライビングの機会」についてご提案申し上げます。

現在ほとんどの人が普通の道路を普通に「移動」するだけで車を終えてしまっています。それが当たり前であり、これではユーザーから要求される車も積載と移動だけに特化してしまうことは当然の成り行きといえるでしょう。普通に生活していれば、どこにも一般人にクルマを操ることの楽しさ、ドライビングプレジャーに触れる機会が訪れようもないのです。ドライビングの知識がなければ、レーシングドライバーも、ただ早いクルマをブッ飛ばしているだけと思われているのではないでしょうか。

市民サーキットを作れというのは非現実的ですが、メーカーが主催者となり、基幹工場のテストコースなどで月に1~2回、3,000円くらいの低料金でドライビングレッスンを体験させることのできる機会を設けることはできないでしょうか。地元の教習所や自動車関連ショップと連携するのも良いかもしれません。なぜなら、いきなりサーキットやレースは敷居が高すぎるけど、教習所では教わらないドライビングレッスンは受けてみたい、という「ライトな」クルマ好きなユーザーは、潜在的にかなり多いと思うのです。メーカー名義ならば信用も置けますし、そうすれば同時にスキッドパッド体験など、交通安全の要素も盛り込めると思います。

実際、私はトヨタ自動車の交通安全センター「モビリタ」の地方出張講習に参加し、楽しい思いをした経験があります。そのように走りの体験を広げていけば、いわゆる「走り屋」ではない、健全なイメージの走り好きのユーザーの裾野を広げることができるはずで、また走り屋気取りの未熟なドライバーの健全化にも一役買えるかもしれません。評判がよければ参加してくる機会もあるはずで、車の主流がエコカーへと大きく変貌しようとしている現在、いまだ残る「走り好き=暴走族」の古い偏見もそろそろ払拭すべきと考えます。

これは確実にサンデーレースの糸口になりますし、同時にクルマ好きが集まるのでレースの宣伝、イベントの開催の効果も期待できると思います。

最後にまとめとして申し上げたいのは、前述もしましたがこれからの時代、多方面において「ライトなコアユーザー」の取り込みを狙って欲しいと思います。やってみたい、興味があるけど踏み出せない、という人は多数存在し、チューニングにおいても100万円で500馬力以上を狙うよりも、2~30万円でプラス50馬力という時代だと思います。人口も経済のピークも今は昔と過ぎ去り、様々な変革の中困難もつきまとう事でしょうが、今後も日本のモータリゼーションが豊かである事を願って終わりとさせていただきます。

最後になりますが、このような企画を提供下さり、拙文を審査下さったGAZOO.com関係者の皆様に深く感謝申し上げます。