第3の提言

第2回「FCJをレース界の“甲子園”にするために」レーシングドライバー/スーパーGTドライビング・スタンダード・オブザーバー/2009-2010日本カーオブザイヤー選考委員 服部 尚貴 氏

のレース関係以外の友人やファンの人たちからよく『S-GTのマシンって凄いんでしょ?』『素人が乗ったらアクセル全開なんてありえないでしょ?』『訓練しないとスタートだって出来ないでしょ?』と聞かれる。そこでいつも『いやいや…クラッチやブレーキのストロークの無さや重さには戸惑うと思うけど、それ以上にブレーキの良さやステアリングのダイレクト感、直進安定性の良さにびっくりすると思うよ!』と答えている。限界内で走らせる分にはスーパー曲がる・止まるの魔法のクルマだと思う。ただコンマ1秒を争うレースの世界では別。いかに短い時間でコーナーに合ったスピードに落とし、ベストなアングルに向きを変え、トラクションをかけて路面を蹴飛ばしていけるか…要するに限界域でマシンを如何にコントロール出来るかがドライバーの仕事になってくる。それにマシンもタイヤも日々進歩している。私が96年にラークマクラーレン(500クラス)で出したポールポジションタイムは、今や300クラスなら当たり前のように出るタイムになっている。エンジンパワーは当時からさほど変わっていないのでコーナリングとストッピングパワーがどれだけ進歩したかが解るだろう。500クラスの予選タイムに於いては、ちょっと前のフォーミュラーニッポンでの決勝タイムで走ってしまう。今や500クラスは最低F3以上のフォーミュラー経験者じゃないとチームも怖くて選びようがないのが実情です。

んなS-GTの為、と言う訳じゃないが、国内トップカテゴリーそして世界へのステップアップカテゴリーとしてFCJ (フォーミュラーチャレンジジャパン)がある。前回もこのカテゴリーについてチョッと触れたが、ここは私が思うにドライバーにとっての『甲子園』じゃないとも言わせて頂いた。

 このカテゴリーはトヨタ・ニッサン・ホンダの3大メーカーが『世界で活躍する有能な若手ドライバーの発掘と育成』および『日本のモータースポーツの裾野を広げ将来を支える人材の育成』を理念に協力して創ったジュニアフォーミュラーカテゴリーだ。今までの日本のモータースポーツには無かった取り組みで、ノーブランドのワンメイクエンジン、ワンメイクシャシー・タイヤ、それにセッティングまでワンメイクセッティングにして、ドライバーの技量が試されている。ここで優秀なドライバーには各メーカーのスカラシップによりステップアップ出来ると言うご褒美付きなので、レーシングドライバーを目指すには最高のカテゴリーだ。しかし、私が『ここがドライバーにとっての甲子園だ!』と言いきれない理由もある。
 このカテゴリーには各メーカーから選出されたメーカー枠から出場しているドライバーと普通にJRP(*1)に応募して出場している一般枠とが存在する。メーカー枠のドライバーはFTRS(*2)やSRS-F (*3)と言ったメーカー系レーシングスクールの卒業生で、スクールを持たないニッサンはそのドライバーの戦績等(カートレース等)から判断してオーディションを開き選抜しているようだ。言いかえれば、ニッサンはわざわざこのカテゴリーの為にドライバーを作っているのである。そして一般枠からチャンピオンが誕生してもスカラシップには該当しないと言っているメーカーもある。トヨタなんだけどね…こうなると一般枠だと意味がない!ドライバーと言うよりその親御さんは、なんとかメーカー枠に入る為に、スクール用にコソレンさせる。それでも選ばれなかったらそこでレーサーの夢を諦める、諦めさせる…ある意味凄く現実的かもしれないが、私はとても残念である。プロフェッショナルレーシングドライバーへの間口が狭すぎだと感じています。

こで私の提案です。基本的にメーカー枠の廃止、FTRS/SRS-Fのスクールからのスカラシップは各2名くらいに留める。このシリーズで優秀なドライバーにはメーカー問わずスカラシップを与える。別にニッサンがFTRSカラ―で走っていたドライバーに声かけていいじゃない!トヨタが今まで知らなかったドライバーにF3のスカラシップ与えてもいいじゃない!要するに今より多くの子供たちがチャレンジ出来る環境を創ってやってほしい。FCJより上のカテゴリーはもう個人ではどうにも出来ないバジェットが必要になってくる。そこにステップアップを目指し、F1を頂点とするプロフェッショナルへの道を若いドライバーが迷わず選べるカテゴリー、ギラギラした目の奴しか集まらないカテゴリーになってもらいたい。今より本当の意味で間口を広げて頂きたい。これでようやく全国・全世界(今年は中国人ドライバーがいる)からまずは『甲子園』を目指して優秀なドライバーが集まってくるはず。

 2週に渡りドライバー目線からの意見を言わせて頂いたが、前回の林みのる氏が言う通り業界全体が盛り上がると自然にいいドライバーが生まれる環境になる。次回からはS-GTに携わる者として書かせていただこう。

(*1) JRP:株式会社日本レースプロモーション
(*2) FTRS:フォーミュラトヨタ・レーシングスクール
(*3) SRS-F:鈴鹿サーキットレーシングスクール フォーミュラ

【編集部より】
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Profile:服部 尚貴 氏
1966年生まれ 三重県四日市市出身
GTA ドライビングスタンダードオブザーバー、TeamLeMansフォーミュラーニッポンチームテクニカルディレクター、フォーミュラーレーシングドライバーアソシエイション(FRDA)顧問、トヨタGTドライバーズアソシエイション(TGDA)顧問、2008-2009日本カーオブザイヤー選考委員、DVD ベストモータリング レギュラーキャスター
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