第3の提言

第2回「スーパーGT――今のままでいいの?」レーシングドライバー/スーパーGTドライビング・スタンダード・オブザーバー/2009-2010日本カーオブザイヤー選考委員 服部 尚貴 氏



シーズンのスーパーGTで500クラスを見てみるとGTRが4勝、SC430が2勝、NSXが未勝利と少々GTRが有利に思えてくる。このコラムがアップされる頃には、後半戦に向け若干手直しされた新たな特別性能調整のもとで行われる第7戦が終わっているのでマシン別の優勝回数は変わっているが、今の私には予想が立たない。今回の性能調整はSC430とNSXのリストリクター(*1)を0.5ランクアップして低~中回転域でのトルクに勝るGTRに近づけようとしたと聞いている。私もスープラで参戦していた頃、大排気量がもたらすトルクの太さは実感した経験があるので、今回のシーズン途中の変更は納得できる。ただ今日時点でポイントランキングトップのNISMOは第3者の目から見ればマシンだけでなくチーム・ドライバー・タイヤを含めた総合力でリーダーになっている感もあるから性能調整後もNISMO中心でチャンピオン争いが展開されると勝手に思っている。
 この特別性能調整だが、本来は今年3メーカー共に同じディメンション(*2)のマシンに同じ排気量のエンジンになるはずで性能調整は廃止して、レースの成績で積まれるハンディウエイトだけで『同一チームが勝ち続けられないスーパーGT』に出来る予定だった。ここから先は皆さんもご存じのように、次期NSXの市販中止や経済状況の悪化等の理由で足並みが揃わず、2009年規定に合致したマシンはSC430だけで、今年も特別性能調整が必要な状況でレースが行われている。ここで何が悪い!誰が悪い!って言うのではなく、今後のスーパーGT規定を勝手に考えてみたい。

ず、スーパーGTをFIA-GT規定に統一したらどうか?と言う声も聞かれる。私はこの意見には反対派だ。今、スーパーGTが国内でナンバー1のモータースポーツに発展してきた理由の中に自動車メーカー・チームのニーズに合わせた対応が出来てきたことがあげられるだろう。ある意味、小さな団体だからこそ敏速に対応できてきた。そして、ヨーロッパ中心で作られている規定は日本のニーズに全く関係なく変えられてしまう。残念ながらそこでの日本の政治力・影響力は殆どないに等しい。例えば、ルマン24時間レースでディーゼルエンジン車が上位を占めているが、ヨーロッパでのディーゼル普及率から言うと普通なのかも知れない。しかし、日本ではディーゼルじゃなくハイブリッド車の普及率が断然上回っている。現状のレギュレーションではハイブリッドLMP1(*3)車両を作ってルマンに参戦してもディーゼル車両のパフォーマンスに及ばないだろう。これと同様に現状でFIA-GT(*4)規定に当てはまる国産車はルノー傘下の日産GTRしかない。その他のメーカーはベースとなるクルマを持ち合わせていないのが現状で、300クラスを含むシリーズ全体としては参加台数・車種の減少を招きかねない。私としてはグループC(*5)カーやグループA(*5)時代のようにヨーロッパに振り回されない規定を参加者と共に考える方が良いのではないかと思っている。もちろん現状がベストだとは思っていない。500クラスのマシンは車両自体のコストが掛かり過ぎているし、現状では台数を増やすのも難しい。年間のコストを下げる新たなシャシー作りの規定を考えなくてはならない。今年のスーパーGTは2デイ開催にして1日分のコスト削減を実施しているが、車両に手をつけないと全体のコストは大幅には下がらない。ワークス系のチームは『クルマはメーカーからの貸与で問題はランニングコストだ』と言うかもしれないが、チームだけではなくメーカーも含めたスーパーGT全体で考えないといけない時期、もう一度このカテゴリーが出来た原点に戻り、メーカーやチーム・人それぞれのエゴじゃなく『日本のモータースポーツの発展』の為に、意見を出し合う時だろう。次回、私の最終回は『服部尚貴流のスーパーGT規定』を語らせて頂こう。

(*1) リストリクター:エンジン吸気口の口径を絞ってエンジンパワーを抑えるパーツ
(*2) ディメンション:(長さ・幅・厚さの)寸法
(*3) FIA-GT:国際自動車連盟(FIA)が管轄するGTカーによるレースの名称
(*4) LMP1:ルマン24時間耐久レースのトップカテゴリー
(*5) グループC・グループA:国際自動車連盟(FIA)による自動車レースのカテゴリー。グループCはスポーツカー(プロトタイプレーシングカー)のレース。グループAは一般の市販車に改造を施した車両のレース。

【編集部より】
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Profile:服部 尚貴 氏
1966年生まれ 三重県四日市市出身
GTA ドライビングスタンダードオブザーバー、TeamLeMansフォーミュラーニッポンチームテクニカルディレクター、フォーミュラーレーシングドライバーアソシエイション(FRDA)顧問、トヨタGTドライバーズアソシエイション(TGDA)顧問、2008-2009日本カーオブザイヤー選考委員、DVD ベストモータリング レギュラーキャスター
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