第5の提言

第1回「レース主催者という存在」(株)モビリティランド 取締役 土屋 一正 氏

年初めにこのコラムの企画をお聞きした際、大先輩方の中に私などがと固辞申し上げたのですが、数少ない主催者という立場での発言の機会だからとのお言葉で4週に亘り拙文にお付き合い頂くことになりましたので宜しくお願いします。

こで第1回目は、レースの主催者がどんな役割を担っているのかをご紹介します。
ファンの皆様が観戦されるレースの世界は、(1)マシン(市販車ベースのレースの場合は遡って市販車)を創る人、(2)チームを組織するオーナーや監督、エンジニアやメカニックなど参加する人、(3)ドライバー、(4)スポンサー、(5)メディア、(6)モータースポーツ全体を統括する団体やシリーズを統括するプロモーター、(7)レースを開催する主催者、(8)オフィシャル、(9)加えて各分野でサポートして下さる数多くの関係者で構成されおり、誰ひとり欠けてもレースを開催することは出来ません。
一つのレースを開催する為に、主催者は前年の夏頃までに翌年のレース開催を意思表示し、4輪の場合は、フォーミュラ・ニッポン(JRP)やスーパーGT(GTA)など当該カテゴリーのシリーズプロモーターや、他の主催者と日程を調整しながらJAFに開催を正式申請し、国内モータースポーツに関する最高決定組織で承認を得ますが、世界選手権の場合はFIAによる各国の日程調整を経て年末近くになってから変更されるケースもあります。

次に主催者は、一人でも多くの方々にモータースポーツファンになって頂くとの大命題のもと、企画担当者はそのレースにできるだけ多くのファンにお越し頂く、また初めてレースをご覧になる方を増やす為の様々な企画を練ると共に、同日併催でどんなレースを組み込むか、そのカテゴリー事務局と調整を進めながら一つのレースイベントを組み立てます。更に、営業担当者は、そのレースを企業活動の一環としてご活用頂くべく、スポンサー候補企業への営業活動をはじめ、観戦チケットの販売や観戦ツアーの企画、レースを告知する為のポスター・チラシ・Webの制作、専門誌をはじめとする媒体広告をはじめ、街中でのイベント実施や広告展開など、プロモーターやチームの協力を得ながらレースを一つの商品として創り上げ、売り出していきます。

また、サーキット現地の運営担当者は、大会を組織し、審査委員やオフィシャルの皆さんが週末のレースに参画頂けるようスケジュールの調整をお願いしながら、レースによっては600名近いオフィシャルの宿泊・食事の手配は勿論、レースが安全かつ公正に運営されるよう、レース開催が無い日やシーズンオフを利用してオフィシャルのレース規則勉強会や現場トレーニング・シミュレーションを重ねてレベルアップを図り続けます。更に、安全なレース運営を実現する為に、現地担当者は平日も会員様のスポーツ走行やクラブ・ショップ様の走行会、メーカー様の占有テストなどの営業終了後にコース清掃は勿論のこと、セフティーゾーンのグラベルの表面均しや雑草刈り、ピット内設備やガードレール破損などの補修、大型ビジョン・電光掲示板やコース監視カメラ・計時システムをはじめ医療機器などのメンテナンスをしながら来るべきレース開催日に備えます。

道なところでは、1レースあたり多い時はパドックだけで何十トンも捨てられるゴミの処理を計画・実施する担当者や、チームへの電力や水道供給・トイレ使用に支障が無いように施設をメンテする担当者、場内誘導の係員配置や駐車場の担当者など、数多くの従業員と関係会社の皆様方が支えてくれています。更に、年々上昇するマシンのスピードに対応する為のセフティーゾーン拡幅や、コース監視システムの充実、コース内の各ポストマーシャルからコントロールタワーへの通信システムをはじめ、チームや観客席への情報伝達手法の充実など、参加されるチームと観戦されるお客様全ての方々に「安心・安全・快適」をご提供できるよう、毎年更新を重ねています。

また、私共サーキット業は、レースを開催するだけでなく、モータースポーツを体験頂く為の一般の方のコース走行をはじめ、各種ドライビングスクールなどを開催するサービス業であると共に、一方では広大な敷地と大掛かりな設備を有する装置産業でもあります。商店や工場が一定の敷地の中に如何に効率よく商品を並べ機械をレイアウトするか効果効率を追及するのに対し、サーキットは如何に広いスペースをチームに提供し、また、コースサイドに出来るだけ何も造らずセフティーゾーンを確保しつつ観客の皆様にはコースに近い処でレースの醍醐味を味わって頂くか…これらの課題について日々研究を重ねています。

次回はレースを支えるオフィシャルさんの活動に焦点を当てます。

【編集部より】
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Profile:土屋 一正 氏
(株)モビリティランド 取締役 モータースポーツ担当
1950年7月9日、愛知県生まれ。中学生当時65年のホンダF1メキシコGP優勝以来ホンダに憧れ71年にホンダに就職、2輪の営業・宣伝・技術研究所・ワークスチーム、本社モータースポーツ・広報を経験し、98年ツインリンクもてぎに出向。4輪のJOY耐、KARTのK-TAI、2輪のもて耐など参加型イベントを企画推進。
その後、鈴鹿サーキットとの合併を経て現職。
仕事を離れたプライベートでは71年から94年まで休日に鈴鹿サーキットのコースオフィシャルに参画。87年の第1回目から94年までF1でチェッカーフラッグを振った他、81年のシビックワンメイクレース初年度ではドライバーとして参戦。
現在、本職の他にGTA取締役・スーパー耐久運営機構委員長・LSO運営委員長。
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