第5の提言

第2回「レースオフィシャルの活躍」(株)モビリティランド 取締役 土屋 一正 氏

回はレース運営に欠かせないオフィシャルさんについてご紹介します。
一口にオフィシャルと言っても、(1)参加受付や各種事務処理を司る事務局、 (2)マシンが規則に合致しているか検査する技術オフィシャル、 (3)パドックの管理とスムーズな進行を図るパドックオフィシャル、 (4)コースサイドで信号合図を送ると共に、コースアウトしたマシンをいち早く撤去するコースオフィシャル、 (5)クラッシュ時にドライバーを救出するレスキューオフィシャルやSGTレースでのFROメンバー、 (6)消火活動を担うファイアーマン、 (7)ピットレーンの安全管理やピット作業を監視するピットオフィシャル、 (8)走行タイムを計測する計時オフィシャル、(9)医師・看護士・救急救命士・レスキューヘリコプターの同乗医師、 (10)これら各セクションからの情報を基に的確な判断を下す競技長をはじめとするレースコントロール、などの役割があり、各セクションの役務に応じたライセンスを取得してレースの現場に於けるスムーズな進行・運営・審判役を担い、規則に従って客観的に、公明・公正な判断と実務を遂行しています。

人数も、2輪の最高峰MotoGPでは万が一の転倒時に於ける素早い救出を可能とする為に、全長4.8㎞のツインリンクもてぎのコースサイドには500名を超えるコース・レスキュー・医師・看護士などのオフィシャルが待機し、鈴鹿サーキットの4輪レースでも総勢400名近いオフィシャルが選ばれた数十名のドライバーとマシンによるレースを支えます。

齢層も幅広いうえ、レースの週末には早朝から深夜まで一緒に活動することからチームワークも良く、中にはオフィシャル同士で結婚するカップルや、ご夫婦・親子二代での参加も珍しくありません。彼らの活動を支えているのは、レースに対する情熱と自分もレースを構成する一員であるとのプライド、与えられた任務を全うした時の満足感、仲間との連帯感です。これが無ければ炎天下をはじめ、強風や豪雨の中で傘も差さずに屋外に立ち、燃え盛る火に近づいて救出作業をする事は出来ません。
職業も多種多様で、自営業主も会社員も学生も主婦も一緒になって協力しあう姿は社会の縮図を観ているようでもあります。彼らはレース前日の仕事を終えてから夜中にサーキットに到着、翌日からの任務に備えたミーティングを済ませ翌朝からは現場で実務、レース終了後に次のレースの打合せを済ませてから帰宅し、翌月曜日は仕事に就くというライフスタイルで、私もドライバーの視点からオフィシャルの動きや旗がどう見えるのか確認したくて入門レースに参戦し、オフィシャルとレース参戦の両立で1年52週間のうち40週末をサーキットで過ごしたシーズンもありました。

もなく創立50周年を迎える鈴鹿サーキットはオフィシャルにもベテランが多く、以前はトップドライバーが予選後のオフィシャルミーティングに顔を出して「きょうの俺の走りはどうだった?」と相談、オフィシャルが「いつもよりクリッピングポイントが2m手前だったよ。」と答えると、「やっぱりそうか。」というような会話も度々でした。
ジャッジに関しては、コントロールタワー内で競技長ほか各オフィシャルの長・副からなるメンバーが現場からの報告を受けて事実確認とビデオや計時結果から検証し、客観的かつ公正に判断して、審査委員会に事実を報告し裁定を委ねます。
先日もKARTの参加型イベントで、フォーミュラ・ニッポンやスーパーGTをはじめドライバーとして海外レース経験も豊富な現役監督にこのイベントのレフェリーをお願いしてレースコントロールメンバーと一緒にオフィシャルをお願いした際、彼から『タワーに呼び出される際、事前にこんなに多くの情報と証拠でジャッジされていた事を知らなかった。これでは言い訳も出来ない訳だ。』と言うのを聞いて、「今後は抗議に来ないの?」と質問したら、『でもやっぱり来ます!(笑)』と言っていましたが…。

後に、私たち主催者がチーム監督やドライバーの皆さんにお願いしたいのは、「黄旗を見たら減速して下さい」という事です。コース上で黄旗が出るという状況は、黄旗または黄色シグナルの先に何かのトラブルが起きており、オフィシャルが救出作業をしている・またはこれからしようとしているという合図です。レーシングスピードで走るマシンと生身の人間が衝突すればその結果は明らかで、オフィシャルも後続車が減速してくれなければコースで停止したマシンに駆け寄ってドライバーを救出することは出来ません。オフィシャルが動けるか否か、その数秒が本当に重要な時間なのです。コース全長が短くラップタイムも数十秒のオーバルレースでは黄旗が出た瞬間にそこまで減速しなくてもと思えるほど全車が減速します。
自分が減速することでオフィシャルによるドライバー仲間の救出をサポートしたうえで、次のリスタートでまた勝負するという、実にフェアで格好良い姿を見ることが出来ますが、こういう格好良さを子供達に見せてあげたいのです。
次回レースをご覧になる時は、是非彼らオフィシャルの動きにもご注目下さい。
そして、このコラムをお読み頂いた皆様の中でオフィシャル活動に興味をお持ち頂けたなら、是非お近くのサーキットにお問い合わせ頂きたいと思います。
次回はレースを取り巻く環境に焦点を当てます。

【編集部より】
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Profile:土屋 一正 氏
(株)モビリティランド 取締役 モータースポーツ担当
1950年7月9日、愛知県生まれ。中学生当時65年のホンダF1メキシコGP優勝以来ホンダに憧れ71年にホンダに就職、2輪の営業・宣伝・技術研究所・ワークスチーム、本社モータースポーツ・広報を経験し、98年ツインリンクもてぎに出向。4輪のJOY耐、KARTのK-TAI、2輪のもて耐など参加型イベントを企画推進。
その後、鈴鹿サーキットとの合併を経て現職。
仕事を離れたプライベートでは71年から94年まで休日に鈴鹿サーキットのコースオフィシャルに参画。87年の第1回目から94年までF1でチェッカーフラッグを振った他、81年のシビックワンメイクレース初年度ではドライバーとして参戦。
現在、本職の他にGTA取締役・スーパー耐久運営機構委員長・LSO運営委員長。
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