第5の提言

第4回「レースの将来を考える」(株)モビリティランド 取締役 土屋 一正 氏

回はレースの将来について考えます。将来と云っても漠然としており、何をどうすれば良いのか…ここでは(1)マシン、(2)人、(3)社会との関わり方、について考えてみます。

レースの主役の一つであるマシンは、市販車ベースのクルマ、プロトタイプと呼ばれる車両、レース専用マシンなど、その時代背景に合ったカテゴリーで速さと技術を競い、ファンを魅了してきました。
当面はガソリンやディーゼルエンジンによるレースを続けるのでしょうが、いつか「昔は化石燃料を使ったエンジンでレースを遣っていた。」などと言われる時代が来るかもしれません。昨今のエコ重視の延長上で、従来の強度を維持しながらリサイクル可能な素材で造られた車体やエコタイヤに加え、環境に優しい動力源を使ったレースを開催する時が来るのでしょうか。さもなければレースの存在そのものが否定されてしまう可能性すらあります。
ちなみに環境に配慮したモータースポーツという観点では、国内でも50ccのエンジンを使って高校や社会人・最近は中学校のチームも参加して燃費を競うエコランは29年の歴史を誇り、2001年にはリッター当たり3,435㎞という記録を達成していますし、日本の大学生による海外ソーラーカーレースでの活躍も記憶に新しいところです。

2009年5月6日発売のランドクルーザーZX

また、ツインリンクもてぎで2001年から開催している「エンジョイ耐久(通称JOY耐)」と呼ばれる参加型の7時間耐久レースでは決勝に90台が出走しますが、2003年には脇阪寿一選手の提案でディーゼルエンジンのTOYOTAランドクルーザーがNSXやレビン、シビックと共に参戦して圧倒的な速さを示しましたし、プリウスも2003年と2004年に続けて参戦、2005年には天ぷら油などの廃油を燃料にした欧州仕様のカローラで片山右京選手・レーサー鹿島選手ほかが参戦し、翌2006年も服部尚貴選手・脇阪寿一選手・脇阪薫一選手ほかが参戦しました。また最近ではAT(オートマチックミッション)のハイブリッド車が従来の車と比べても遜色ない走りを見せました。
このように時代は少しずつ変化し始めており、いつの日か耐久レースのピットはガソリンではなく充電の速さと充填効率を競うようになるかもしれません。ATもレース活動を通して技術開発のスピードを上げるようにすれば自動車や関連部品メーカーも参戦する意義が見出せるのではないでしょうか。

う一方の主役は言うまでもなく「人」です。いつの時代も、どのスポーツも、ヒーロー無くしてファンを引き付けることは出来ません。
技術開発が進み、何でも出来るロボットが完成したとしてもマシンを操るドライバーがロボット!などというレースは観たいとも思いません。汗を流し、嬉し涙や悔し涙を流す、神経を研ぎ澄ました眼差しと歓喜の雄叫び、緊張時の心臓の鼓動や息遣いが伝わってくる…そういうレースを観て感動を味わって頂きたいと願っていますし、マシンを考える人・作る人・作戦を練る人・ピットで作業する人・操る人・審判する人も含め、時代がいくら変わろうとも、いつも主役は「人」であると確信しています。

た、社会に認められるには、従来の「レース=危険」というイメージも払拭しなければなりません。
レース中の接触などレーシングアクシデントは避けられないとしても、万が一の際にドライバーとマシンのダメージを最小限に留めるコースサイドウォールや、INDYでは既に採用済みの水で消火できる非石油系燃料など、今後も進化していくはずです。更に、騒音低減やゴミ処理をはじめ、サーキットに来場される皆様の公道での運転マナーや渋滞対策も含め、社会に認知されるために遣るべき事はまだまだいっぱい有ります。サーキット周辺の住民の皆様に迷惑を掛け、犠牲や我慢を強いるようでは社会から認知されるまでには至りません。



供の頃に私達はテレビや専門誌でカッコ良いドライバーやマシンを見てモータースポーツファンになりました。同様に野球もサッカーも子供の時に憧れ、自身がプレイすることで面白さや難しさを経験して自分には真似が出来ないプロ選手の凄さを理解しながらファンになった記憶があります。鈴鹿サーキットやツインリンクもてぎでは創業期から「子供の頃から乗り物を操る喜びを知って頂こう」との考えで3歳から乗れるバイクや4輪車を開発し場内で展開していますし、最近はGTAがスーパーGTのレース会場で子供向けカート教室を開催しています。また、スーパーGTやフォーミュラニッポンの会場ではキッズピットウォークを実施して子供達がモータースポーツに触れる機会を創り関心を持ってもらえるようなイベントを行いながら、数年先に彼らの中からドライバーやマシンデザイナーやメカニックが誕生する事を期待しています。

モータースポーツは他のスポーツに比べて選手自身の身体能力に加え、道具(マシン)の性能に依存する比率が高く誰にでもチャンスがある一方、道具に掛かる費用も大きい点が悩みであり、入門レースでは如何に費用を抑えるかが大きな課題です。まずは試してみたいと思っても草野球とは異なり、ライセンス取得からマシンの調達、サーキットへの移動や練習走行の費用などクリアしなければならない事が多く、なかなかレース参戦まで辿り着けないのが実情でしたが最近はどのサーキットも手軽に参加できる走行イベントやレースを開催していますし、自家用車でコースを体験走行できるプログラムもご用意していますので、是非参加して頂きたいと思います。

ずはサーキットにお越し下さい。そして走行してみて下さい。きっと同じコースを走るプロドライバーの凄さを実感されるでしょう。そのうえでレースにお越し頂けばコンサートや他のスポーツ同様、ライヴならではの迫力と面白さをもっと身近なものとしてご堪能頂けると思います。そして、その面白さをお友達や次世代に伝えて頂くことでモータースポーツファンの輪が広がり、もっとメジャーな存在になると確信しています。
私共サーキットやレース主催者としても関係各位との連携を図りながら、皆様が参加したくなる・観たくなる・社会に受け容れられるモータースポーツイベントを創り、その魅力を世の中に発信していきますので、どうかご支援ご協力をお願いいたします。

今回で私のコラムは最終回です。モータースポーツのほんの一部について私見を述べさせて頂きました。4回に亘りお付き合い頂きました読者の皆様と、この場をご提供いただきました皆様に御礼を申し上げますと共に、来シーズンもサーキットで皆様とお会いできることを楽しみにしております。

【編集部より】
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Profile:土屋 一正 氏
(株)モビリティランド 取締役 モータースポーツ担当
1950年7月9日、愛知県生まれ。中学生当時65年のホンダF1メキシコGP優勝以来ホンダに憧れ71年にホンダに就職、2輪の営業・宣伝・技術研究所・ワークスチーム、本社モータースポーツ・広報を経験し、98年ツインリンクもてぎに出向。4輪のJOY耐、KARTのK-TAI、2輪のもて耐など参加型イベントを企画推進。
その後、鈴鹿サーキットとの合併を経て現職。
仕事を離れたプライベートでは71年から94年まで休日に鈴鹿サーキットのコースオフィシャルに参画。87年の第1回目から94年までF1でチェッカーフラッグを振った他、81年のシビックワンメイクレース初年度ではドライバーとして参戦。
現在、本職の他にGTA取締役・スーパー耐久運営機構委員長・LSO運営委員長。
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