第6の提言

第4回「ファンがいる限り、モータースポーツは生き続ける」モータースポーツアナウンサー ピエール北川 氏

シーズンもモータースポーツではさまざまなカテゴリーで幾多の名勝負が展開され、ファンの皆さんもたくさんの感動を味わったことでしょう。そして勝負の結果だけでなく今年も様々なビッグニュースがありました。それは決して良いニュースばかりではなく、今後この業界が心配になってしまうようなものもたくさんありましたね。特にF1に携わるメーカーの撤退報道は、社会的にもインパクトが強く、モータースポーツを知る人もそうでない人も、ショッキングかつ過敏な反応の報道を一般のTVや新聞でされると、心中穏やかでない状況ではありました。
昨シーズン限りでF1からの撤退を決断したホンダ。2010年の契約満了をもって供給を止めるブリヂストン。そして2009年限りの撤退を突然発表したトヨタ。日本企業でもこれだけあるのに、ドイツのBMWも撤退を決め、フランスのルノーまでもF1から身を引くかのような報道までありましたね。F1の世界はかかる経費が莫大ですから、かつて経験がないほどの世界経済悪化が及ぼす影響が、メーカーの動きを大きく左右するのは当然ですが、経済状況だけではない理由も少なからずあるのだと想像もできます。それにしてもこれだけF1でシリアスな発表が続いてしまうと、モータースポーツをあまり良く知らない方や、F1はファンだけれどそれ以外のモータースポーツにはあまり興味のない方にとっては「もうモータースポーツも続けるのが難しい時代なのかな…」などと思ってしまっている方も少なくないのかもしれません。何しろ応援する対象や興味が激減してしまったのは事実ですから。しかし本当にモータースポーツは“終わってしまう”のでしょうか?


ータースポーツファンの方が楽しむスタイルというのは、大きく分けて2つに分けられると思います。一つは「観戦を楽しむ」。もう一つは「参加することを楽しむ」の2つです。もちろん両方楽しむ方も多いでしょう。前者はF1やスーパーGT、そのほかいろんなレースイベントを皆さんがチョイスし、観戦チケットを購入するなどして実際サーキットやイベント会場に出かけ、お目当ての選手やチームに応援をするというもの。現地まで行かなくとも、TV中継などを見て楽しむのも“観戦”ですね。次に後者は、レースやラリー、そのほかスピード行事や走行会などにドライバーで参加したり、メカニックやチームクルーとしてレースをサポートする形で関わる。それからオフィシャルとしてレースを裏側から支えるというのも“参加”するスタイルです。


し筆者の話を聞いてください。実は先日レーシングカートのレースに参加してきました。レーシングカートとは、排気量125ccほどの小さなエンジンと、シャシーとなるパイプフレーム、それにレース専用のスリックタイヤがついているだけの極めてシンプルな構造で、モータースポーツの中では入門カテゴリーであり、“グラスルーツ”レースとして今なお人気が高いものです。レースの開催場所は鈴鹿サーキット南コース。1周が1キロ強の距離で、F1も開催される本コース同様、ヘアピンやS字、シケインや複合コーナーが組み合わさった、日本でも屈指のショートコースです。実はこのコースでは知る人ぞ知る有名なカートレースがあります。年に一度の国際カートレース、「ワールドカップ・カートレース・イン・ジャパン」です。1991年から開催が始まり、来年は20回大会を迎えます。過去このレースで光った走りを見せたドライバーの多くが、その後フォーミュラワンでかなり活躍していて、例えば今年ワールドチャンピオンに輝いたジェンソン・バトンをはじめ、アロンソやハミルトン、トゥルーリにロズベルグ、フィジケラ、クビサ、コバライネン、リウッツィ、中嶋一貴、小林可夢偉など。今年のF1ドライバーを挙げただけでもこれだけのすごい面々が、少年のころ日本のワールドカップでレースをしているのです。彼らは小さなうちからカートでしっかりとレースというものを学び、トップレーサーとしての資質を高めていきました。実は私もかつては真剣に「レーサー」という職業に憧れ、プロのレーサーになりたいと意識した時期もありました。しかし実際にカートレースに参戦してみて、自分の才能の限界をいち早く察知して、以後モータースポーツは趣味にしておきました。今ではその選択が賢明だったと自負しています(笑)。でもF1で活躍中の彼らが走った同じコースを、今でも同じようにカートでレースをすることが出来るのはとても楽しく、ワクワクするものです。趣味とはいえ、自分の限界を試し、真剣にドライビングをチャレンジすると、少しは彼らと同じ気分が味わえたような気がして、気分だけはF1ドライバー!これがカートレースに参加する楽しみ方であり、趣味の醍醐味ですね!

がそれましたが、先に紹介したF1のビッグなニュースたちは社会的影響も大きく、たくさんのF1ファンを失望させました。しかしトップカテゴリーがダメならモータースポーツのすべてが“ダメ”なイメージになってしまうのでしょうか?いえ、そうではありませんよね。ビジネス第一でなく、本当にモータースポーツが好きで、愛してくださる方が日本にはまだまだたくさんいらっしゃるからです!特に草の根のモータースポーツ、「グラスルーツ」レースにはいまだたくさんの方々が参加してくださっています。もちろん私もその一人です!とかく最近暗いニュースばかりが多いこの業界ですが、このコラムをご覧の皆さんには、これを機会にぜひ“グラスルーツ”のモータースポーツに目を向けていただきたいですね。そこには純粋に「モータースポーツが大好き!」という人たちが集まり、汗を流し仲間と喜びを分かち合い、時には悔しくて子供のように泣いてしまう…そんな「人間」が本来持っている感情がたっぷり詰まったドラマがあるからです。“観る”だけだったファンの方は、今後“参加”することをお勧めします!さらに楽しいモータースポーツライフを送ることが出来ますよ!

後に自動車メーカー各社にお願いです。近年気軽にモータースポーツを楽しめるクルマが、世の中から少なくなりました。エコロジーも大切ですが、もう一度初心に帰って、「乗っていてワクワクする」「スポーツして楽しい」クルマを世に出していただけませんか?草の根のモータースポーツを活発化するクルマが世に出れば、イコール自然にクルマ好きが増えることに繋がると思います。クルマというものには、移動する道具の役割だけではない、人の生活を豊かに”楽しく!”する大きなロマンや可能性も持っているはずですから。
モータースポーツはこれからも、いろいろな形で愛してくださるファンがいる限り、生き続けることができます。厳しい時代も乗り越えながら、その歴史が途切れることなく積み重なっていけば、それはやがて文化へとなるでしょう。


【編集部より】
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Profile:ピエール北川 氏
1970(昭和45)年6月2日生まれ、39歳。
三重県桑名市出身。名古屋市在住。
元々は某自動車ディーラーの営業マン。
趣味でカートレースを楽しむ傍ら、マイクを握り始め実況の世界へ。
現在は鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎを中心にF1からカートやラリーまで、あらゆるモータースポーツを実況するフリーアナウンサー。
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