スーパー耐久シリーズ2012第6戦(11/10-11)が、オートポリス(大分県日田市)にて、開催された。マシントラブルに見舞われ、不本意なレースウィークを過ごした前戦の鈴鹿ラウンド。今回の最終戦までにクルマを手直しし、同クラスに少しでも追いつけるように頑張って来たチームだが、その努力は報われるのか?
参戦初年度のGAZOO Racing SPIRITの今シーズン最後の戦いを静かに見届けるつもりで訪れたオートポリス。だが決勝日は悪天候!濃霧と雨、寒さに震える極寒サーキットとなっていた。朝から幾度となくスケジュールが順延され、フリー走行もキャンセル。当初午後1時に開始予定の決勝レースは、濃霧で全く先が見えない中、1時間30分遅れ、セーフティーカー先導によりスタートした。
86開発ドライバー影山正彦と、師匠影山をリスぺクトする若手ドライバー2人とのレースウィークに密着した。
シリーズの途中、第4戦からの参戦となったスーパー耐久シリーズ2012も、いよいよ最終戦を迎えた。強豪がひしめくST4クラスで戦って来たが、GAZOO Racing TOYOTA86は、難関オートポリスで、影山正彦選手、井口卓人選手、蒲生尚弥選手の3人にステアリングを託す。
今シーズン最終章にふさわしいこのトリオは、オートポリスでいかなるパフォーマンスを見せるのか。期待が持てるところだ。
地元九州、福岡県柳川市出身の井口は、ニュルブルクリンク24時間耐久レース以来のGAZOO Racing参戦。そして、このスーパー耐久最終戦に際し、事前に故郷福岡でプロモーションも行い、オートポリス入りした。
蒲生は、シェイクダウンを影山と共に担当し、初参戦の岡山大会以来の参戦である。
木曜、金曜日と、専有走行が設けられ、木曜日は井口がセットアップを担当。金曜日は、全員でそれを煮詰める方向でレースウィークはトラブルなく進行して行った。
今回もイベント広場にGAZOO Racingブースが開設された。
本年5月のニュルブルクリンク24時間耐久レースで、それぞれクラス優勝を果たしたLEXUS LFA(83号車)と、GAZOO Racing TOYOTA 86(166号車)の2台に加え、来年夏から実施される予定の、86ワンメイクレース用のプロトタイプ車両が展示された。
「本物」のレーシングカーであるニュルブルクリンク参戦車は、車内を覗き込むお客様が常に絶えず、また86ワンメイクレース用プロトタイプ車両は、参戦に興味を持つお客様が次々とシートに座っておられた。
ドライバーもトークショーも行われ、サイン会を実施するなど、ファンサービスにも勤しんでいた。
午後2時より、Aドライバー、Bドライバー、Cドライバー予選開始。A、Bドライバー予選は、クラスごとに、1グループ、2グループに分けてアタックする。Cドライバーは、エントリーしていないチームもあり、全クラス一斉にアタックとなる。
各ドライバーのコメント
■Aドライバー 第2グループ(天候:曇り 気温:9℃ 路面:ドライ)
影山選手 2'05.582
-予選を終えましたが、クルマの調子はどうですか?
「木曜、金曜のフリー走行でセットアップを煮詰めてきた。金曜日のタイムは2分6秒台。クルマの進化も実感できている。公式予選のタイム目標は2分5秒台だったので、クルマも順調に仕上がって、想定のタイムをマークすることができ良かったと思う。また、3人ともタイムが拮抗していたことも良いと感じる。明日は悪天候の予報が出ているので、難しいコンディションをそれぞれのドライバーが走ることになると思うが、3人の気持ちをひとつにして、自分の持ち分を最高の走りで走り切りたいと思っている」
■Bドライバー 第2グループ(天候:曇り 気温:8.8℃ 路面:ドライ)
井口選手 2'05.376
「木曜日から走行を始めて、金曜日も3時間と専有時間を使って、試行錯誤してみました。いろいろな方向性を見出し試すこともできた。今日の予選では、想定していた予選タイムは上回ることができて良かった。現在クルマの持っているポテンシャルは、発揮できたと思う。それでもクラストップとの差は、まだまだあるので、もっと詰めていける部分もあると思う。明日の決勝に向けて、チームと更にクルマを改善していきたい。」
■Cドライバー(天候:曇り 気温:8.5℃ 路面:ドライ)蒲生選手 2'05.502
「このクルマを一番最初に富士スピードウェイでシェイクダウンをした時と比べると、格段に進化している。足回り、ブレーキなどが良くなっていて、ステアリングを握っている時が以前よりもさらに楽しく感じる。初参戦の岡山大会の時もドライバーとして参加させていただいたが、その時からすると、周囲とのタイム差もだいぶ縮まってきているので期待して欲しい。明日は、雨模様のようですが、先輩方に負けないようミスなく完走したい」
蒲生選手は、今シーズンシートのない状態からスタートしたが、GAZOO Racingに見いだされ、スーパー耐久のシートを獲得することとなった。トヨタの育成プログラム時代から彼の印象は、口べた。もっともっと話して自分を表現しないと!という欲求を持ったこともある。今思えば若さ故…。これは蒲生選手に限ったことではない。少年の彼らが、大人の中で自分をコントロールするのはとても難しいに違いないと思う。しかし、その蒲生選手が、真剣な中にも笑顔いっぱいの自然体でレースをしている姿を幾度となく見て、とても興味が湧いた。このカテゴリー自体も、勝つことに全力を尽くすのはもちろんだが、参加を楽しむカテゴリーであるので、彼の笑顔は周囲をなごませる。ダイエットをして、とても精悍になった彼に話を聞いてみた。
-GAZOO Racingのドライバーになって、どう?
蒲生:「今年シートが何も無くて、いろいろ辛かったところに、このシートを得たことに、関係者のみなさんに感謝したい。そして、「縁」を引き寄せてくれたのか、他のカテゴリーへのスポット参戦も叶い、状況が若干変わって来た。体重を落としたことの影響も大きいと感じている。
今まで失敗したことを繰り返さないようにと思っているし、レースに対する考え方、取り組み方を今までと変えて行こうと思っている。ポジティブに物事を考え、これから先も気を緩めず頑張って行きたい。今から思えば、過去の体制は、どれほど恵まれていたのか、その当時気付いていない自分がいた。今頃…、22歳の自分が気付いた。こうして乗れることに感謝し、また自分を取り巻くさまざまな方々への感謝の気持ちを忘れず、頑張って行こうと思う」
予選が終わったあとに伺ったが、笑顔が素敵な彼が実感をこめて語った言葉には、「肌」で感じた苦労を語る姿があった。
「若いうちの苦労は買ってでもしろ」と言われるが、いったんは道が断たれてしまった今シーズン、このチャンスをものにし、しっかり速さを発揮している。いわゆる“ハコ”に慣れていない彼のドライビンスタイルは、素直で我慢ができるそうだ。これは慣れてないがゆえと、周囲が語っている。スポンジのように、師匠のスキルをぐんぐん吸収し、どんどん道を切り開いていく姿をわれわれも応援していきたいと思っている。
業界に、たくさんの教え子がいる影山選手。今般、チームメイトとなった若手2人も、たくさんの教え子たちのひとりだ。そこで、教え子とチームメイトとして走る心境を聞いてみた。
影山:「カートから上がって来た若い子たちが、講師をしていたメーカーの育成プログラムで初めてクラッチを切るシーンを見て来たが、こうして立派にレースを戦うようになってうれしい。たくさんいる教え子たちの中の2人であり、一緒にレースを戦うということは、感慨深い。何より僕自身が、レースを戦える体力も備えてないといけないし、一緒に乗るということは、まだまだプラスになると思う。指導者の立場としてわかってほしいのは、外からアドバイスするのも大事だし、データロガーを一緒に見ることも大変重要であるが、やはり一緒に乗ってセットアップをすることのほうが彼らに実戦でとてもわかりやすいと思う。セッティングもそうだし、その場その場で、予選だからこう行こう!、タイヤの状況がこうだからこうしたなど、実践で教えられることは沢山あるし、こういう事をやりたいと思っていた。コメントの仕方など、細部まで指導できる。
クルマのセットアップは、高い次元での妥協点を見つけること、魔法のクルマ、レールの上にハマったクルマもない、どこをどうバランスを取って総合力のあるセッティングができるかだと思う。
それに彼らは、まだまだフォーミュラーカーに乗るチャンスもあると思います。そちらも“足”然り。空力ばかりを追い込むのではなく、クルマありきなんです。ツーリングカーの大きな動きで学んで、フォーミュラーカーで生かすことも可能。スーパー耐久のツーリングカーも同じ。その延長線上に、トップフォーミュラがあると考えてください。フォーミュラーカーもツーリングカーも、基本的に全部やることは共通、ツーリングカーの方が空力が若干足りないだけ。クルマのどうにもできないところを、補うのが空力です。空力というのは、最後の味付けで塩・コショウなんです。彼らにとって、スーパー耐久とは言え、とても良い経験ができるはず。
今回3人で移動しているが、ホテルからサーキットまでは他愛のない会話をしているが、サーキットではドライバーとしての仕事の話をしている、オンオフのメリハリも大事だと思う。ずっとレースの事ばかり考えて張りつめていると、実際のレースの場面で何か足りなくなるのと思う。自分のやり方がすべて正しいとは思わないが、少しでも参考になってくれればと思う」
決勝レースは、11日(日)、午後2時半に悪天候の為、セーフティーカー(以下、SC)先導でスタートした。当初の3時間耐久レースは、2時間のレースに短縮されていた。濃い霧と突風が吹く中、最初にステアリングを握った影山。いつ赤旗が入るかわからない状況下、監督三塚は影山を1周でピットに呼び寄せ、井口へと交代させた。9周目にSCが解除となったものの、16周目にはまたSC。更に2周走るとまたSCと、3度もSCが導入され、ほとんどピット作業2回の義務をどこで消化するかというレースとなってしまった。2度目のSCの入るタイミングで、蒲生へとドライバー交代を行い、ピットインの義務の消化を行った GAZOO Racing TOYOTA86。気付けば総合11位のポジション、クラス3位にあがった時点(午後3時59分、25周目)で赤旗が呈示され、午後4時16分レース終了となった。
影山:「荒天の中のレースだったが、サーキットまで足を運んでくださったお客様にとっては、中止にしてしまうよりも少しでもレースを見せられて良かったのではないでしょうか。われわれは、この大会でクルマの進化も確認でき、SCランばかりではあったが、来年に繋がるものとなり良かったのではと思う」
井口:「自分は、2周目で交代したのですが、初のウェットタイヤでの走行も、タイヤがグリップしてくれたので無事にこなすことができました。視界が悪く難しいコンディションでしたが、レースウィーク、クルマのポテンシャルもあがって楽しく過ごすことができました。来年が楽しみです」
蒲生:「ほとんどセーフティーカーランだったので、バトルをしていませんが、無事にレースウィークが終わって良かったと思います」
今シーズン、GAZOO Racing SPIRIT の陣頭指揮を執って来た三塚監督、いつも笑顔でチームを取りまとめている姿は、みんなの頼もしい存在だ。シりーズ途中からの参戦となったが、最初の岡山大会ではリタイアを喫したものの、鈴鹿大会を経て最終戦には速いクルマに仕上げて来た。
三塚監督:「お疲れさまでした。なんとか今日は最終的に3位になることができました。クルマもようやくちょっとづつ進化してきました。今日は悪天候により荒れたコンディションとなったので、それに助けられて結果に繋がったこともありますね。まずは結果が残って良かったです。
シーズンを振り返ると、岡山大会でデビューして、鈴鹿、そして今回のオートポリス。今回は、いろいろ投入してクルマの戦闘力もアップしたので、かなり速くなったと思います。来年は、クラストップになれるよう頑張ろうと思います。今シーズン、応援ありがとうございました」
クルマを楽しむ仲間たちのカテゴリーに参戦させていただいた今シーズン。まだまだ進化の途中という GAZOO Racing TOYOTA86の未来は、まだ未知の世界が広がっている。来年、またこの仲間たちと一緒に、TOYOTA86を楽しみつつ、さらに上を目指していく姿を応援したいと思う。
スーパー耐久シリーズ第6戦は、35台のエントリーがあった。九州初上陸となった今回は、そのほとんどがセーフティーカーランとなる悪天候となったが、地元九州の555号車 マッハGoGoGo車検458GT3(玉中哲二/山野直也組)が、初優勝を遂げた。今シーズンも無事に終了。シリーズチャンピオンは、前戦で、PETRONAS SYNTIUM SLS AMG GT3が決めている。
順位 | Car No. | 車両 | ドライバー |
---|---|---|---|
1位 | 555 | マッハGoGoGo車検458GT3 | 玉中哲二/山野直也組 |
2位 | 1 | PETRONAS SYNTIUM SLS AMG GT3 | 谷口信輝/Dominic Ang/Farique Hairuman組 |
3位 | 24 | スリーボンド日産自動車大学校GT-R | 藤井誠暢/GAMISAN/MICHEL KIM組 |
クラス | Car No. | 車両 | ドライバー |
---|---|---|---|
GT3 | 555 | マッハGoGoGo車検458GT3 | 玉中哲二/山野直也組 |
ST-1 | 3 | ENDLESS ADVAN 380RS-C | 峰尾恭輔/谷口行規/高木真一組 |
ST-2 | 20 | RSオガワADVANランサー | 大橋正澄/阪口良平/花岡翔太組 |
ST-3 | 14 | 岡部自動車マイロード協新計測RX-7 | 小松一臣/杉林健一/増田芳信組 |
ST-4 | 339 | GPO+KOTARACING | 北野浩正/佐々木孝太/橋本達也組 |
ST-5 | 19 | BRP☆HYPER ECU C72制動屋J'Sフィット | 村浩一/松田卓也/西田公也組 |
<86号車 GAZOO Racing TOYOTA86結果>
【予選】総合26位 ST4クラス9位
【決勝】総合11位 ST4クラス3位