強豪「LEXUS TEAM ZENT CERUMO」にみるSUPER GTチーム
SUPER GTのトップチームであるLEXUS TEAM ZENT CERUMO
SUPER GTのGT500クラスは、国内トップチームがひしめく激戦のクラスだ。そこで戦うLEXUS TEAM ZENT CERUMO(レクサス・チーム・ゼント・セルモ)は、1995年にSUPER GTの前身である全日本GT選手権(JGTC)に参戦し、デビュー戦でいきなり5位につけると2レース目には早くもポールポジションを獲得。さらに参戦2年目となった1996年には初優勝を飾ってシリーズ2位へと躍進。2001年と2005年にはドライバーズチャンピオンに輝いている。
しかし何よりも凄いのは、1999年から昨年まで、2度の例外を除いて毎年のようにポールポジションを獲得し、やはり3度の例外を除いて毎年のように優勝を飾っていることだ。
SUPER GTは簡単なレースではない。ドライバーだけが速くても、マシンだけがパワフルでも勝つのは難しい。その中で、安定した速さと強さを発揮するチーム。LEXUS TEAM ZENT CERUMOの"速さ"と"強さ"は、どこにあるのか? チームの首脳陣に話を聞き、その秘密を解き明かしてみたい。
エンジニアは「ドライバーが納得するクルマを目指す」
現代のレーシングチームにおいて勝敗を握る重要なポジション、それがエンジニアだ。エンジニアには扱う技術によって、データや電気系など専任もいるが、レーシングチームではクルマの改良や調整、実戦に向けてのセットアップを決める"チーフエンジニア"のことを指す。レースエンジニア、トラックエンジニアと呼ぶチームもある。
このエンジニアの具体的な仕事は、サスペンションの設定(バネやダンパーの硬軟調整、ジオメトリーと呼ばれるパーツの長さ調整など)や空力の調整(フロントスポイラーの選択やリアウィングの角度など)、あるいは最低地上高(路面とボディ下面とのすき間)を規定の範囲でどこにするか、などなどクルマの細かい調整を考えること。つまり、"速い"クルマになるかは、エンジニアの頭脳によるものなのだ。
そこで、LEXUS TEAM ZENT CERUMOの村田卓児エンジニアに、どのようなマシンを目指しているのか訊ねてみた。すると「速いクルマを目指しています」と即答だった。
「ただし、運転するのはドライバーだから、彼らが納得できる(セッティングの)クルマで、速くて乗り易いのが理想です」と、付け加える。中にはドライバーに、"速くしたクルマ"に合わせたドライビングをリクエストするエンジニアもおり、ここは村田エンジニアの"哲学"なのであろう。
少し意地悪に「データロガーからの情報とドライバーのコメントが食い違ったら?」と訊ねてみる。
「(マシンの挙動変化やフィーリングなど)データロガーに出ないこともありますから、やはりドライバーのコメントが大切です」とキッパリ。そして「でも基本的には立川選手も平手選手も、間違ったことは言ってこないですけどね」と付け加えた。SUPER GTのように2人のドライバーが交替して走る場合、ドライビングスタイルの違い、マシン特性の好みの違いも気になるところ。
「ドライビングスタイルの違いがあっても、それは決して大きなものじゃなくて、マシンの問題点は2人に共通したものなんです。まず、それを解決しないと。実際には立川(祐路)さんでセットアップしていって、それを(平手)晃平もドライブするんですが、『これじゃ運転できない!』ってことはありませんでした」と村田エンジニア。
平手選手も「村田さんはドライバーの意見をちゃんと聞いてくれて、セットアップに反映してくれるから走り易いクルマに仕上げてくれる。僕はただドライブするだけです」と満足顔でコメントしていた。
こうなると、エンジニアがドライバーだったらもっと速いのではとも思えてくる。だが、村田エンジニアは、エンジニアにレーシングドライバーの資質は必要ないという。「ただしドライバーのコメントを理解して、走りをイメージできることは必要でしょうね」と付け加えた。立川選手はこれを「村田さんの頭の中で、クルマが、各部分がちゃんと動いているんだと思います」と補足する。そこにエンジニアという仕事の奥深さがあるのだろう。
目次ページ
- 第1回:SUPER GTチームにおける監督とエンジニアの役割(2013年8月29日公開)
- 1. SUPER GTのトップチームであるLEXUS TEAM ZENT CERUMO
- 2. 監督は「スタッフを信頼し、決断と責任は僕が引き受ける」
- 第2回:最大の武器はチーム全員の「想い」の総量(2013年9月5日公開)
- 第3回:ZENT CERUMO SC430を動かすチームメンバーたち(2013年9月6日公開)