メニュー

いつも通りのふたりで
勝ち獲った初チャンピオン 前編(1/2)

「こんなにおめでとうと言われたことは、これまでの人生ではなかった」石浦宏明

−−石浦選手、2015年スーパーフォーミュラにおけるドライバーズチャンピオン獲得、おめでとうございます。チャンピオンとなられて、何か変化はありましたか?

石浦宏明(以下、石浦):実はまだ実感がないんです。家にたくさんの花が届いたくらい(笑)。最終戦のあと、この鈴鹿テストまで仕事ばかりなので、浸っている間がないという感じです。ただ、こんなにいろんな人から"おめでとう"と言われたことは、これまでの人生ではありませんね。

−−立川監督はいかがでしょう?

立川祐路(以下、立川):僕の家には花が届かなかったですし、変わったことは何もないですよ(笑)。第2戦での初優勝のときに石浦がエンジニアに時計をプレゼントしたらしいんですが、僕には・・・。ずーっとこの左手、空いてるんですよ。

石浦:(笑)

−−とはいえ、気持ちとしては正直ホッとしたのでは?

立川:2010年はスーパーバイザー、2011年から監督を任されてあまり情けない成績じゃ立場がないですから。そういう意味では5年目でキチンと結果が出せたこと、そしてチームのみんなががんばってやってきたことが結果として形になったので、いいシーズンになったと感じています。

最終戦に臨む立川祐路監督

「いつもどおりできればという思いで最終戦を迎えた」立川祐路

−−改めて最終戦鈴鹿を振り返りましょう。予選はドライ、決勝はウエットとコンディションが変わりました。戦う上での不安はありましたか?

石浦:1週間前に見た天気予報ではレースウィークが雨の予報だったので、"これは無理だな"と思いました(笑)。

−−何が"無理"だったのですか?

最終戦鈴鹿で顔を合わせた時の様子

石浦:天気予報が晴れだったら『どうやって(ランキング2位の)中嶋一貴選手との6点差をキープしてチャンピオンを獲るか・・・』と考えるのですが、第3戦の富士では雨の予選のタイヤ選択で予選10位に沈んでしまいました。スーパーフォーミュラは僅差の戦いですから、タイヤ選択を間違えただけで大きく順位が変わってしまう。だから"雨だと全然わからないな"と思ったんです。
でも、雨という予報で逆にプレッシャーがなくなったというか、"リードしている"という感覚があまり感じられなくなりました。とは言え、結果として土曜日に晴れたのが大きかったのかなと思います。

−−監督としてはこの様子をどうご覧になっていたのでしょう?

最終戦鈴鹿戦のピット内

立川:チームとしてはいつもどおりでした。チャンピオンシップをリードしているからと言っても、僕らはチャレンジャーという気持ちでしたから。ライバルはこれまでチャンピオンを獲ってきたチーム、ドライバーであり、僕らはそうではないので特別意識することもなかったですね。ただ、ポイント的には有利な立場でいられたとは思います。
正直「予選が終わるまではまったくわからない」という気持ちもありました。予選が終わった段階で、ある程度チャンピオン獲得の可能性が見えてきたので、あとはクルマやレース中のアクシデントなどのトラブルが起らなければ・・・、という気持ちになりましたね。でも別にチームの誰かになにか言うこともなかったです。意識すればプレッシャーは大きくなるものだし・・・。今シーズンは石浦もスタッフもいい仕事をやってきたので、いつもどおりできればという思いがありました。

−−プレッシャーはないか、と多くの人から聞かれたと思いますが?

石浦:周りがプレッシャーをかけてくるんですよね(苦笑)。『そこまでじゃないよ』と思うくらいみんながあおってくるんです。レース前に服部さん(※)も来てくれました。多分あれは応援というよりも「なんだお前、緊張してんのか」って、様子を見に来てくれたという感じでした(笑)。まぁ、それでいつもどおりにしていられましたが。
※:フォーミュラトヨタ時代にサポートしてくれたレーシングドライバーの服部尚貴氏。

立川:プレッシャー自体、悪いことじゃありません。プレッシャーが力になるということもたくさんありますから。僕もまだ現役だからわかりますが、プレッシャーがあるからこそ力が出せるということもあるし、勝ち抜いていくには、これを力に変える必要があって、今回はそれがうまくできていたのだと思います。

石浦宏明

「レースの勝利の盛り上がりに、なんかひとりだけ参加できないんですよ」石浦宏明

−−結果的にはレース1で2位、レース2で4位に入り、チャンピオンが決定しました。レース2のあと、2人が最初に交わした言葉は何でしたか?

最終戦鈴鹿で顔を合わせた時の様子

石浦:顔を会わしたのは車検場かな? たしかトヨタ くま吉の隣りで・・・(笑)。

立川:車検場に行ったけど、話してはいませんね。握手だけですよ。

石浦:クルマに乗っているとレースウィークを通して、チームがどんな雰囲気だったとか、当然、僕は見ることができません。監督やエンジニアがどんな様子だったとか、そういうのは、家に帰ってから録画した映像をテレビで観ることになる。レース中、なにかが起ったときピット内のスタッフはどういう表情をしていたとか。例えば、今回はエンジニアが予選のQ3で(順位が上がらず)、『あーっ!』ってなっていたのをテレビで知るわけです(笑)。

立川:でもレースで勝ったときは大体そうですよ。車検場で会うのは一瞬だし、そのまま表彰式とか記者会見に行くわけです。そして、ピットに戻る頃にはみんな優勝の感動から冷めて、普通にピットを片づけている(笑)。

優勝したもてぎ戦のゴールシーン

石浦:そうなんです! なんかひとりだけ盛り上がりに参加できないんですよ(苦笑)、当の本人なのに。テレビ番組などでその時の録画を見せられると、なんだかすっごくピット内が盛り上がってるんです。"一緒にいたかったなぁ・・・"って感じです。

立川:優勝したら、一回ピットに戻りたいよね。

石浦:そうですよ、表彰式の前に戻りたいですね。記者会見とか全部終わって、チームが撤収作業している真っ暗な中に帰っていくから、普通に"お疲れ〜"みたいな感じになっていますから(笑)。


目次ページ

  1. 前編 「"チームを強くしていくために"。 僕を選んだ立川監督の期待に応えたかった」(2015年12月10日公開)
    1. 1. こんなに"おめでとう"と言われたことは、これまでの人生ではなかった
    2. 2. チームを牽引するのは、やはりドライバー。石浦ならトータルで任せられる

  2. 後編 「初優勝で得た大きな自信。 彼らに"負けたくない度合い"が変わった」(2015年12月17日公開)
    1. 3.ドライビングは変わらない。でもあのメンバーと走ってトップが自信になった
    2. 4. フォーミュラトヨタ時代と同じシチュエーションに懐かしさを感じた