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いつも通りのふたりで
勝ち獲った初チャンピオン 後編(1/2)

2015年スーパーフォーミュラのドライバーズチャンピオンとなった石浦宏明選手。一時はシートを失うも立川祐路監督に抜擢されスーパーフォーミュラに復帰。石浦選手と立川監督が昨年、今年とやってきた事とは?後編ではいよいよ"勝てるチーム"への変貌の秘密が明かされます。また、来シーズンへのおふたりの目標もお聞きしました。

「ドライビングは変わらない。でもシーズンオフのテストでのトップタイムが自信になった」石浦宏明

−−石浦選手が復帰した2014年ですが、ポールポジションや優勝を果たせず、最高位は第4戦もてぎでの2位でした。今季はどのようなことを踏まえて挑んだのでしょうか?

石浦: 去年は予選に対するイメージができておらず、なんとなく"こんなものかな"という感じで走っていました。でも基本的には、去年からドライビングはさほど変わっていません。シーズンオフを一度挟むと急に上位に行けるようになるという・・・。どう言えばいいのかな?

立川:"昼寝すると速くなる"っていうヤツ?

村田卓児エンジニアと話す石浦宏明

石浦:いや、それは立川さん!(笑) でも、若いドライバーで2年目になったら急に速くなることがありますが、あれは経験が整理されて余裕が出てくるからだと思うんです。例えばテストのときにセッティングやドライビングというものを、なんとなく大きな幅の中でやっていたのが、2年目には緻密になってその幅が狭まってくる。僕にもそういう感じのことがありました。でも、去年の最初は自分が走るだけでいっぱいいっぱい。復帰したばかりの去年のシーズンオフのテストではクルマの速さに目もついていきませんでしたし。シーズン中盤に入ってからようやくドライビングもクルマのこともだんだん理解していって、それが今年に繋がっていったと思います。
今年のシーズンオフのテストでは、エンジニアと話し合って一貫性をもったチャレンジをしてきました。走る機会があれば、そこからブレずに突き進めていくというやり方をしたのですが、それによってセッションによってはトップタイムを出せるようになってきて、鈴鹿テストでトップタイムを出すことができました(※)。ただ、そのトップタイムを出したセッティングは、その後、使わなかったんですけど(苦笑)。
でもF1やル・マン24時間レースなど世界で戦ってきたドライバーたちと一緒に走って1セッションでもトップタイムを取れたわけですから、自信に繋がりました。
※:3月10日に鈴鹿サーキットで行われた第1回公式合同テスト 走行3回目。

−−監督としては、その様子をどう見守っていたのでしょうか?

立川:彼はもともと実力あるドライバーなので、なにかが大きく変わったということではなく、やっぱりブランクがあったために去年の前半は多少影響したのでしょう。もちろん、彼だけじゃなくチームとしても去年はまだ勝てる状態ではなかった。一緒に成長というか、スタッフも力が伸びたというのはあると思います。

ピット作業の様子

石浦:例えば、ピット作業も他のチームと比べて速い方ではなかったと思うんです。チームのみんなも認識はしていたようですが、チームに加わったばかりの僕が『ピット作業を速くしましょう』なんてことをメカニックたちには言いにくいわけです。でも1年やって、表彰台圏内で走れるようになれば、"もう表彰台には乗れるな"という意識になってくる。
そして"優勝"を狙うとなれば、自然に"それ(速いピット作業)も必要だ"という雰囲気になるんです。僕も1年経ってからは、『来年はピット作業をもっと速くできるように目指しましょう』と言うことができました。

ポール・トゥ・ウィンで初優勝した第2戦岡山の表彰台

「"勝ちたい"から"勝たなくちゃいけない"になって強くなった」立川祐路

−−そして2年目、ついに第2戦岡山で花開きました。見事ポール・トゥ・ウィン!終盤の小林可夢偉選手とのバトルは凄かったですね。

岡山戦で初優勝した石浦宏明と立川祐路監督

石浦:第2戦岡山はニュルブルクリンク24時間レースから帰ってきたばかりで、僕はドイツからそのまま岡山入りするという状況でした。でもエンジニアやチームは開幕戦から約1ヶ月の間でしっかり準備してくれました。後から考えたら、レース中のピット作業も初優勝へのプレッシャーが掛かる時に、ミスなく速くこなしてくれたのですからね。やはり去年のことがあって少しずつ強くなっていたから、チャンスが来た時に勝てたのだと思います。
それにもてぎで勝ったときも、ピット作業が全チームの中で最速だったんですよ! そういう大事な場面できちっとやってもらったことも大きいです。

立川:可夢偉とのバトル、あれはもう大丈夫だと思ってました。(GTでは)同じドライバーとしてレースをやっているだけに、石浦のことはわかってますから。石浦はあんな感じで攻められることに関しては強いんです。GTでも同じようなシチュエーションに耐えてますから。

石浦:可夢偉が来るのか来ないのか、そういうものは対しているドライバー同士は分かるものなんです。途中から僕がミスしなければ無理だな(逆転できない)という空気のあることが、お互いの中でもう分かっている状態なんですよ。

−−ところが続く第3戦富士の雨の予選では10番手止まりでした。

立川:あれは難しい予選でしたね。途中で雨も強くなったし。ウエットタイヤを着けるとき、ユーズドがいいのか新品がいいのか、その選択をチームとして間違った。でも、反省点としてきっちり今後に活かすところとなりました。レースでは巻き返して3位に入れたし。ただ、次の優勝がすぐ来るとは思っていませんでした。

石浦:全然誰も思っていませんでした(笑)。しかも2勝目の祝勝会をまだやっていないんですよ! なんだかもうみんな慣れちゃって・・・(笑)。

立川:岡山で勝ったときはゴールした瞬間のピットは大騒ぎだったのに、2勝目したときのもてぎは、もうそれほどでもありませんでした。僕はそんなみんなの様子を見て、意識が高まってるなと思いましたよ。もう勝ったくらいで大はしゃぎしない、"勝たなきゃいけない"という気持ちで仕事をしているんだと。

もてぎ戦で優勝した石浦宏明

石浦:そうですね。勝とうという意識がだんだん高まっているというのは、全員が認識していたと思います。例えば開幕戦ではレース中に(外国人ドライバーに)邪魔されて表彰台に上がれなかった。だから、レース直後に相手のところへ行って、思いっきり日本語で怒鳴り散らしました。すでに、僕も表彰台に上がるのは当たり前という気持ちで開幕を迎えていましたから。


目次ページ

  1. 前編 「"チームを強くしていくために"。 僕を選んだ立川監督の期待に応えたかった」(2015年12月10日公開)
    1. 1. こんなに"おめでとう"と言われたことは、これまでの人生ではなかった
    2. 2. チームを牽引するのは、やはりドライバー。石浦ならトータルで任せられる

  2. 後編 「初優勝で得た大きな自信。 彼らに"負けたくない度合い"が変わった」(2015年12月17日公開)
    1. 3.ドライビングは変わらない。でもあのメンバーと走ってトップが自信になった
    2. 4. フォーミュラトヨタ時代と同じシチュエーションに懐かしさを感じた