いつも通りのふたりで
勝ち獲った初チャンピオン 後編(2/2)
「フォーミュラトヨタ時代と同じシチュエーションに懐かしさを感じた」
石浦宏明
−−シーズン終盤にはポイントリーダーとして追われる立場となりました。その状況を「楽しんでいる」とおっしゃっていましたが、あれは本心ですか?
石浦:そうです。一番うれしかったのは、強敵がたくさんいる中でトップ争いをしていたことです。開幕前に可夢偉選手が参戦すると聞いて、彼をものさしにして自分が今どこにいるのかが分かるだろうと思い、楽しみでしたね。テストでも一緒に走って様子を見ていたので・・・。
立川:で、"俺のほうが速いぞ"って思った?
石浦:・・・そうなりますよね(笑)。急に自信になりましたから。
−−フォーミュラトヨタでともに参戦していた小林可夢偉、中嶋一貴両選手との戦いも話題になりました。
石浦:去年であれば、彼らに対して"どのくらいの位置に自分はいるのだろう?"という感覚でしたが、勝ったあとからは、彼らと戦えるという自信が出て、"負けたくない度合い"が変わりました。
共通の人がサポートしていることもあり、今年は3人揃って一緒に何度も食事をしましたが、その時ふたりが僕を直接褒めるわけじゃないものの、自分のことを認めてくれているのがうれしかったし、おもしろかったですね。3人揃ったことで、よくフォーミュラトヨタ時代の話を聞かれますが、当時から主力ドライバーだった彼らに対して、たまに僕がポールポジションを獲ったりして、速いときがあったんですよ。その頃から3人で話す機会がありましたが、今年はそれとまったく同じシチュエーションで話をすることにもなり、懐かしさも感じました。
−−シーズン中、ピットに何度か伺いましたが、石浦選手はエンジニアやスタッフとよく話をされてましたね。
立川:石浦は必ずどこかで誰かと話してますよ(笑)。まぁ話の半分はどうでもいいことで、別段クルマの話を常にしているわけではないですが。
石浦:そうですね。大事な話は走行後30分くらいだけかな(笑)。
立川:大体、いつも関係ない話で盛り上がっていますよ。でもそういう関係ない話をいろいろ仲良く話すことで、よりコミュニケーションがとれていると思うんです。クルマの話だけじゃなくて普段からくだけた話もしていることで、意思の疎通もよりしやすくなるし、より心が通じ合うことになるでしょうから。
そういったこともあって、僕らは改めてミーティングっていうのをやったことはないですね。
「オーダーメイドのエンジンって、別料金になってるんじゃないの?」
立川祐路
−−ところで今季のトヨタエンジンはいかがでしたか?2勝目を挙げた第4戦もてぎでは後半スペックのエンジンが投入されたタイミングでもありました。
石浦:ライバルと比べてパワーでぶっちぎっているというわけではないと思うのですが、ドライバビリティが改善され、細かいところまでドライバーの好みに合わせてもらいました。
実は昨日(11月26日、鈴鹿テスト)教えてもらったんですが、以前、僕がシーズン中のテストで作ってもらったアクセルに対する反応の曲線があって、それをもうちょっとこうして欲しいと(データに)線を書いて渡したものをSUGOのテストで作ってもらったんです。それをシーズン後半で使っていたんですが、今は僕しかそれを使っていないらしく・・・。つまりトヨタエンジンはドライバーの好みによって(特性違いが)何種類もあるということなんです。自分が好きなやつを自分用に作ってもらい、自分だけ使っている、というわけです。そう、オーダーメイドで対応してもらっているってことですね。
立川:それって、別料金かかってるんじゃないの?(笑)
石浦:あとで請求書来ますかね(笑)?
スーパーフォーミュラの場合はアクセルのストロークが結構長くて、コントロールしやすくなっているのですが、どのタイミングでどのくらいパワーが出て欲しいかっていう感覚が、ドライバーによって微妙に違うものなんです。だから、ターボエンジンだけどNA(自然吸気)っぽくしたいとか、その"NAっぽく"の中にも、それぞれ『この辺が欲しい』なんていう細かなリクエストが出てくる。それが何種類もあって、その中から好みのものを選ぶという感じですね。そういうきめ細かいオーダーメイドサービス(笑)が、トヨタにはあるんです。
それからトラブルがなかったというのも大きかったです。このシリーズ、1レースを落としたらチャンピオンはもう獲れないですからね。
立川:エンジンは2メーカーによる戦いですが、トヨタはパワーでもリードを奪い、信頼性という部分でも高いものがあったので、チームは安心してそれ以外のことに専念して仕事を進めることができました。それも大きなメリットになったと思います。
「来年は新しい気持ちで戦って2回目のタイトルが獲りたい」
石浦宏明
−−最後に、来シーズンに向けての目標や展望を教えてください。
石浦:タイヤが変わる(※)ということは、すごく大きな要素。クルマが変わるくらい大きな差になると思うんです。クルマのセッティングもリセットされるし。でもそういうときに自分の力やエンジニアの力でチームを引っ張っていければいいなと思っています。一歩でも二歩でも抜き出るよう開幕戦までに準備することができれば、"ゼッケン1番"を防衛できると思います。でも防衛したいというか、追われるという感覚はないです。新しい気持ちで戦って2回目のタイトルが獲りたいですね。
※:来シーズンからスーパーフォーミュラは横浜ゴム株式会社がオフィシャルタイヤサプライヤーとなる。
立川:今年(ドライバーズ)タイトルを獲ったので、連覇というのが目標になります。でもチームとしてやることは決まっています。ここ数年、ちょっとずつでもいいからレベルアップしようとやってきて、それがキチンと結果として現れて、僕らは毎年良くなってきている。タイトルを獲ったからといっても、この世界はちょっとでも進歩が止まれば、周りが追いついて追い越されてしまう。なので常に前進し続けないと。来年に向けて、また力を付けつつ、その結果としてチャンピオンが獲れるといいですね。今シーズンは逃したチームタイトル獲得という目標もありますし。2台揃っていい成績を収めてダブルタイトルを獲って・・・。そうだな、SUPER GTもタイトルを獲りたいですね(笑)。うん、それがいいな。
石浦:またハードル、高くなりましたね(笑)。
2015年シーズンもTOYOTA GAZOO Racingへの熱いご声援をありがとうございました。今シーズンは、石浦宏明選手がスーパーフォーミュラのドライバーズチャンピオン獲得。TOYOTA GAZOO Racingとしても7大会8レースで7勝、6回のポールポジションを獲得することができました。石浦選手、立川監督が言っているように来シーズンもさらに高い目標を目指し、そしてより"いいクルマづくり"によってシリーズが盛り上がるよう貢献していきたいと思います。来シーズンもTOYOTA GAZOO Racingの活躍をご期待ください。
目次ページ
- 前編 「"チームを強くしていくために"。
僕を選んだ立川監督の期待に応えたかった」(2015年12月10日公開)
- 後編 「初優勝で得た大きな自信。
彼らに"負けたくない度合い"が変わった」(2015年12月17日公開)