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いつも通りのふたりで
勝ち獲った初チャンピオン 前編(2/2)

「チームを牽引するのは、やはりドライバー。石浦ならトータルで任せられる」立川祐路

−−話が遡りますが、2014年にこのチームに石浦選手を抜擢したのは、立川監督だったと聞いています。その理由をお聞かせください。

エンジニアと話す立川祐路監督と石浦宏明

立川:僕とセルモの佐藤正幸社長と話をしていく中で決めました。当時、石浦はフォーミュラでは2年間ブランクがありましたが、僕がドライバーとして参戦するSUPER GTにおいて、同じドライバーとして見るかぎり、彼に実力があることはわかっていました。あとは同じタイミングでスーパーフォーミュラのクルマが新しくなるときでもあったので、一からクルマを作って行かなきゃいけないので、セッティングができるトータル的に優れたドライバーがいい、という思いがありました。そこで石浦が適任だと判断したのです。
GTでは2013年から開発ドライバーとして石浦と一緒に仕事をしているわけですが、クルマのセットアップをはじめとしてそういうことがキチンとできる人って意外と少ないんですよ。彼はクルマのことをキチンと理解しているし、取り組む姿勢が真面目で勉強熱心。あとはチームの雰囲気を作り、チームを牽引するのは、やっぱりドライバーだと思うんですが、そういういいムードを作って引っ張っていくドライバーもまた決して多くないんですね。でも、石浦ならトータルで任せていけると思いました。

−−立川監督から声をかけてもらったときのお気持ちはどうだったのですか?

石浦:そりゃもう、うれしすぎる内容でした。"チーム全体を強くしていくために"ということも言われていたので、その期待に応えたいという想いもありました。クルマが新しくなるということに併せて声をかけてくれたと思うし、僕からしてもクルマが変わることは復帰するチャンスになると考えていたので、ゼロからやれば復帰するタイミングでチャンスはあると思っていました。

ピット内でモニターを見つめる石浦宏明と立川祐路

「SF14に乗った監督なんて他にはいない。ドライバーと同じ目線で話ができる」石浦宏明

−−そもそも立川監督はSUPER GTの現役ドライバーながら、フォーミュラで監督業を務めることに違和感はなかったのでしょうか?

立川祐路監督

立川:いや、別に。ただ"監督"と言われるのは恥ずかしかったですね。そうそうたるメンバーの中に入るわけですから、初めてのときは、"もうこのグループの中に入っちゃうんだ"って...(笑)。

石浦:思うに、星野(一義)さんや舘(信秀)さんと一緒に、トークショーとかというのは難しいですよね。

立川:そういう外向きの違いはありますが、でもチーム内ではやることは・・・。
なにか変わっている? GTとフォーミュラとでは違う?(と石浦に訊ねる)

石浦:立川さんが、走るまでの環境を調整してくれますが、GTでもそれは一緒なんです。走るまでに『ここが足りない』とか『あれをこうしてくれ』などと、新参の僕がまだ言いにくいようなことを代わって現場に言ってくれるんです。それはフォーミュラでもGTでも同じ。レース中にあれこれ言うのではなく、例えば『タイヤ交換を次までにもうちょっと練習したほうがいいんじゃない?』とか、前もって足りないところを見つけて言ってくれます。

SUPER GTではドライバー同士の2人

立川:どのみちGTでも一緒なんですよ。違うのはレース中に走っている(GT)か、見ている(SF)かの違いだけです。監督だから急に偉そうになるわけでもないし、実際偉くないですし(笑)。
でもまぁP.MU/CERUMO・INGINGは、もともと上下関係というのがないんです。和気あいあい仲間として付き合いがあるという感じですね。だから今の僕が監督としてみんなの上に立って、なにか指示してやっているというわけでもありません。客観的に見て伝えることはしていますけど、気がついたことを伝えているだけで、監督だから、ドライバーだから、ということはありません。
周りから見ると"監督とドライバーの二刀流"とか言われますが、僕は別になにも意識していないですね。野球選手が現役で監督をするのとは違うんじゃないかな。先ほど"ドライバーはチームを引っ張って行かなきゃいけない"と言いましたが、特に今のP.MU/CERUMO・INGINGは若手メンバーが多く、僕もいつの間にか年長者になってしまった。そういう意味から"監督"なのであって、GTとフォーミュラでなにか特別自分の中で切り替えているかといえば、そういうものもないですね。

石浦:そうなんです。レースウィーク中にクルマに乗っているか、乗ってないかだけで、会話も同じですね。

立川:だけど、石浦はGTのときだけは僕に"タメグチ"ですよ(笑)。

対談中の様子

石浦:いやいやいや、それは嘘ですよ(笑)皆さん、信じないでくださいね。
でもSF14に乗ったことがある監督なんて、他にはいないですからね(※)。だから走行後はセットアップの話もしやすいですし、話を聞いてもらうだけで違うと思いますね。仮にとんでもなく間違った方向に行ってしまったら、アドバイスもしてもらえるでしょうし。
その結果、今シーズンのなにかがどうにかなってというわけではないんですが、例えばエンジニアと僕が話をしているときに監督も同じ目線で全部理解した上で話ができるし、チームメイトの国本(雄資)もそうだと思いますよ。そういう状況は他のチームとはだいぶ違います。なので、僕の中でもフォーミュラとGTとで立川さんとチームの関係が違うような感じはしないです。
※:立川監督はテストでSF14をドライブしている。

−−フォーミュラ、GT共、一緒にレースができることの強みがあると?

石浦:だから、レースウィーク中にエンジニアと話をするときも、GTとスーパーフォーミュラが混ざることが結構ありますね。

立川:スーパーフォーミュラのレースウィーク中にGTの話になったり(笑)。

石浦:その時も、別に戻さずそのまま話します。なので、それが僕らのルーティンになっています。ずっと同じメンバーでやっていますから。

立川:会話の内容もずっと同じことの繰り返しで・・・。よく飽きないと思いますね(笑)。まぁ、P.MU/CERUMO・INGINGはみんな仲がいいんですよ。

石浦:コミュニケーションが良いんです!(笑) しかし、あれだけずーっとしゃべっているチームもないと思いますけれど。

石浦選手と立川監督。おふたりの話を聞いているだけで、これまでの監督と選手の関係とは違うことがお分かりになったと思います。このふたりがどのようにチームを成長させ、栄冠を掴んだのか? そしてTOYOTA GAZOO Racingの"いいクルマづくり"がどうタイトル獲得に貢献したのか? 後編ではさらにこのふたりの活躍に迫っていきます。


目次ページ

  1. 前編 「"チームを強くしていくために"。 僕を選んだ立川監督の期待に応えたかった」(2015年12月10日公開)
    1. 1. こんなに"おめでとう"と言われたことは、これまでの人生ではなかった
    2. 2. チームを牽引するのは、やはりドライバー。石浦ならトータルで任せられる

  2. 後編 「初優勝で得た大きな自信。 彼らに"負けたくない度合い"が変わった」(2015年12月17日公開)
    1. 3.ドライビングは変わらない。でもあのメンバーと走ってトップが自信になった
    2. 4. フォーミュラトヨタ時代と同じシチュエーションに懐かしさを感じた