日本はもちろん、世界でも注目のFRスポーツカーをベースにした、ナンバー付きの新ワンメイクレースだけあり、富士スピードウェイを舞台にした第1戦は、何とトヨタ86が72台、スバルBRZが10台の計82台と、期待を上回るエントリーが集まったため、予選はA組/B組に分かれて行なわれ、上位45台が決勝に駒を進めた。
10周で行われた決勝は、レース序盤で首位を奪回した予選3番手の山野直也選手がプロドライバーの意地を見せ、クルマを労わりながらも2位以降を引き離す安定した走りで独走、一人旅で初戦を制覇した。
一人旅の山野選手とは裏腹に、2位争いは激しい戦いとなり、毎周毎に順位が入れ替わるほど。そんな中2位になったのは箱車でのレース初出場というNo.100 富澤勝選手(エヌワンテクノロジーWIN86)、3位はヴィッツレースからステップアップしたNo.557 大西隆生選手(オートバックスG786ポテンザ)が獲得。
車両の性能差がほとんどないイコールコンディションのレースだけに、上位だけでなく中段グループはもちろん下位グループまで、毎周コース随所でデッドヒートが繰り広げられていた。観客にとっても、毎周毎に変わる順位に、手に汗握るレース展開であった。
また、予選落ちしてしまった35台(未出走2台)のために、5周のコンソレーションレース(決勝に残れなかった参加者によるレース)も行なわれた。軽い接触やコースアウトがいくつかあったが、本戦同様の白熱したレース展開を繰り広げた。No.305 遠藤浩二選手(映画 真四谷怪談86)が優勝、2位はNo.91 市丸聡選手(千自総大ロフティED86)、3位はNo.561 佐藤優選手(さとう整形外科ノウムBRZ)が獲得した。
初戦のエントリーを見てもらうとわかるが、ドライバーの顔触れは多彩である。織戸学選手や片岡龍也選手と言った現役のトップドライバーやヴィッツレースからのステップアップ組、フォーミュラ出身の若手、ジャーナリスト、そしてA級ライセンス獲得後1年以内の「モータースポーツ入門層」などなど、男女問わず幅広い年齢層のドライバーがエントリーしている。プロ/アマ問わずに参戦できる敷居の低さが、このレースの魅力でもある。
ちなみに、今回がレースデビューの人もいれば、上を目指すためのステップアップ、ドライビングトレーニング、クルマを楽しむなど、参戦のテーマは人それぞれだが、「86/BRZだから参戦した」という意見も多く聞かれた。やはりスポーツカーでレースをしたい…誰もが待ち望んでいたのだろう。
このレースには「トヨタ86 Racing/スバルBRZ RA Racing」が使用される。このマシンの一番の特徴は、公道走行も可能なナンバー付きレーシングカーであることだ。普段は普通のクルマと同じ様に使用でき、週末はレーシングカーに変身する…という一石二鳥のクルマなのだ。そのため、レースでは必要のないエアコンなどの快適装備も取り外すことはできない。ちなみに、今回の参加者は、各々の拠点から富士スピードウェイまで自走してきた人が多かった。コンパクトサイズのスポーツカーでありながらも、86/BRZはタイヤ4本はもちろん、工具やテーブルなども積載可能だ。そのため、一般的なレースカーのように積載車やサービスカーがなくても全く問題ないのも嬉しいポイントである。
ノーマルモデルとの違いは、安全のためのロールケージやブレーキダクト、エンジン保護のためのオイルクーラー、けん引フックの有無程度。つまり、基本は街中で使用されている86/BRZと同じだと思って間違いない。この状態から、足回り(1種類に限定)、ブレーキパッドやタイヤ&ホイール(自由に選択可能)などの交換は認められているが、エンジンは「封印」されているため手を加えることはできない。
クルマによる性能差が少なく、ドライバーの技量がレースの勝敗を左右する要因ではあるが、その裏には数少ない調整代の中でベストなセットアップを出す…という、チームとしての総合力も求められる。そのため、プロドライバーもそう簡単に勝てないのがワンメイクレースの難しい所。憧れの“あの人”を倒すチャンスは誰にでもあるのだ。
実は予選でプロドライバーの織戸学選手が低迷した理由は、ベストなセットアップがまだ見つからなかったためだという。そういう意味では、タイヤやホイール、ブレーキ、油脂類と言ったパーツメーカーの戦いにも、注目して欲しい。
86の生みの親であるチーフエンジニアの多田哲哉さんは、GAZOO Racing 86/BRZ Raceの開幕戦を、どのように感じているのだろうか?富士スピードウェイに観戦に来ていた多田さんに直撃してみた。
「82台というエントリー台数には、正直驚いています。ただ、もうちょっとで“86”台だったので残念でしたね(笑)。
実は我々の事情により86Racingのデリバリーが遅れてしまったので、参加者の皆さんには色々とご迷惑をおかけしました。そんな心配ごともあり、『参加台数が少なくて盛り上がらなかったらどうしよう?話題作りに私も参戦したほうがいいのかな?』など色々考えましたが、取り越し苦労でしたね。
また、今回参戦してくれた多くの方から「このレースは86だからやりました!!」という意見もたくさん頂きました。開発者として嬉しい限りです。
元々86/BRZはレースの事を考えて開発したクルマではありませんが、走る/曲がる/止まる…という基本設計をシッカリ鍛えてきましたし、後から改造することができないドライビングポジションなどにも徹底的にこだわりました。なので、ちょっと手を加えるだけでレース車両としても全く問題ないクルマに仕上がっています。
レギュレーションによりパーツの交換はあまりできませんが、すでにタイヤメーカーの戦いもスタートしたと聞いています。各スポーツタイヤの特性の違いに敏感に反応するのも86の特徴のひとつですし、サスペンション周りで変更可能なパーツもあります。ただ、すべてを変えればベスト…というわけでもないので、色々トライしてもらいたいなと思っています。
実はサスペンションセットやアライメントとは違う部分で、まだまだ速くなる部分もたくさんありますが、それは追々レクチャーしていこうと思っています。
今回のエントリー状況を見ていると、プロドライバーや『プロには負けない!!』というアマチュアドライバーからレース初心者まで、様々なドライバーが参戦しているのもいいですね。プロドライバーと一緒に走ることでドライビングの勉強にもなりますし、現在プロドライバーとのドライビングの違いをバーチャル上でチェックが可能になる機能(CAN-Gateway ECU)も鋭意開発中です。ドライビングテクニック向上の概念を変えると思いますので、そちらもご期待ください」。
今回のエントリー台数82台のうち、トヨタ86は72台、スバルBRZは10台である。ノーマルカーでは「走りの味付け」が異なる…というのがクルマ好きの間で話題になったが、レーシングカーではどうだろうか?STI総監督である辰己英治さんに聞いてみた。ちなみに、辰己さんは現職に就くまで、スバル/STIで車両の実験評価を行なってきた走りのエキスパートである。
「86Racing/BRZ RA Racingはレーシングカーですが、基本の部分はノーマルモデルと一緒ですし、レースのために交換可能なパーツはトヨタ/スバルで共通なので、『86/BRZで何か違うか?』というと、性能差はありません。
一般論で言えば、ワンメイクレースはイコールコンディションなので、『ドライバーの腕に左右される』と言われますが、実際にはクルマの仕上がりによる差も大きいと思います。
ワンメイクレースは、スーパーGTのように有り余るパワーを押さえこんで走るのではなく、クルマの性能を目いっぱい使って走らせます。なので、細かい積み重ねが最終的なタイム差になって表れてきます。もちろん、ドライバーがシッカリと走れる…というのが前提の話になりますが、GTドライバーが簡単に勝てない理由はそこにあります。
私はワンメイクレースの車両には関わっていませんが、これまでの経験から言えば、指定パーツを全部装着したから完璧…ではないでしょう。部位によってはノーマルのほうがいい部分もあるかもしれません。まだ、開幕戦がスタートしたばかりなので、どのチームもベストなセットを模索している状態でしょう。色々トライしてみるのも面白いと思います。『セットアップでクルマがこんなに変わるのか!!』と驚くと思いますよ」。
GAZOO Racing 86/BRZ Raceのスタートを記念して、富士スピードウェイでは様々なイベントが行なわれた。開幕戦にトヨタ86/スバルBRZで応援にかけつけてくれたオーナーの皆さんへのプレゼントということで、専用の無料駐車場とメインスタンドに専用の応援席を用意。オーナー同士の交流の場としても有効活用してもらった。また開幕戦限定のオリジナルグッズなども配布された。
また、イベントステージでは、トヨタ自動車・多田哲哉チーフエンジニアとSTI辰己英治総監督のスペシャル対談やニュルブルクリンク24時間耐久レーストークショー、86/BRZドライバーズトークショーをはじめとする、様々なトークショーも行なわれた。
その他、GAZOO Racing&STIのニュル24時間耐久レース参戦車&スーパーGTマシンの車両展示や、ドライビングシミュレーター「グランツーリスモ5」による86タイムアタック、スタンプラリー、表彰台記念撮影コーナーなど盛りだくさんの内容で、気温が高く暑い天候にも関わらず、大勢の人で賑わった。
また、日曜日にはGAZOO Racing86/BRZレースのフォーメーションラップの先導走行同乗体験、しかもそのマシンは…ニュル24時間耐久レースを走った「トヨタ86(佐藤久実選手)/レクサスLFA(影山正彦選手)/スバルWRX STI(佐々木孝太選手)」という超スペシャルな特典だ!!僅か3名という狭き門に多くの応募者があったという。幸運な当選者3名は、他では絶対に体験できない“非日常のひと時”を味わってもらったようだ。
また、決勝直前には、富士スピードウェイに来られなかったモリゾウことトヨタ自動車・豊田章男社長によるビデオレターも放送。「GAZOO Racng86/BRZ Raceにより、もっとクルマ好きが増えてくれると嬉しい」、「クルマで笑顔を作りたい」と言うコメントが印象的だった。
順位 | Car No. | 車両 | ドライバー |
---|---|---|---|
1位 | 7 | P.MU RACING 86 | 山野 直也 |
2位 | 100 | エヌワンテクノロジーWIN86 | 富澤 勝 |
3位 | 557 | オートバックスG786ポテンザ | 大西 隆生 |
順位 | Car No. | 車両 | ドライバー | 合計 ポイント |
---|---|---|---|---|
1位 | 7 | P.MU RACING 86 | 山野 直也 | 20 |
2位 | 100 | エヌワンテクノロジーWIN86 | 富澤 勝 | 15 |
3位 | 557 | オートバックスG786ポテンザ | 大西 隆生 | 12 |