GAZOO Racing 86/BRZ Raceの第6戦は、前戦の十勝スピードウェイから本州を一気に飛び越え九州で初開催。大分県と熊本県の県境にあるオートポリスサーキットにて熱いバトルが繰り広げられた。
スーパーGTとの併催となった今回のラウンドは、土曜日に予選、日曜日に決勝の2日間のスケジュール。オートポリスは標高が高く霧が出ることで有名だが、予選日はやはり濃霧と雨に悩まされることになった。
11時15分から予定されていた予選は、朝からの雨と霧のためにコースの視界が確保できずにキャンセル。コースコンディションの回復を待つことに。午後になっても断続的に雨が振り続けたが、時間によっては霧が薄くなることもあり、15時25分から改めて実施されることが決まった。路面コンディションは、コース上に水が溜まった部分もあり完全なウエット。難しいマシンコントロールを要求されることになった。
50台エントリーした中の4台が出走をキャンセルし、計46台でスタートした予選は、No.92谷口信輝選手(コウベトヨペット アドバン86)が、開始すぐに2分25秒台に入れてトップタイムをマーク。2番手にはNo.7 山野直也選手(P.MU RACING 86)が付けるが2秒以上の差があり、谷口選手が速さを見せる。その後、2番手以降もタイムアップするが、谷口選手もさらにタイムアップし2分24秒743で初のポールポジションを獲得した。
迎えた日曜日は、予選日の濃霧と雨から天候が回復し、路面も一部が濡れているがほぼドライコンディションと言っていい状況。スタート前から小雨が降り始めたが走行には影響がない程度だった。
10周で争われた決勝は、ポールポジションからスタートしたNo.92谷口信輝選手(コウベトヨペットアドバン86)よりも2番手スタートのNo.7 山野直也選手(P.MU RACING 86)の出足が良く、ホールショットを奪ったのは山野選手。好スタートを切った山野選手は、得意の先行逃げ切り体制を整えるために後続とのギャップを築くために猛プッシュし、1周終了時点で1.4秒の差をつけることに成功。2番手には谷口選手が付け、予選3番手からスタートしたNo.37蒲生尚弥選手(ケンダタイヤ86)がポジションをキープ、No.296平岡塾長選手(ワコーズ制動屋レイズ平岡塾86)が4位で2周目に突入。2番手以降は、サイドバイサイドの緊迫した争いを続けるが谷口選手が徐々に順位を落とすことに。山野選手が2秒ほどのリードを保ちながら周回を重ねレースは中盤へと進む。
白熱していた2位争いは、平岡選手が蒲生選手を抜き、その差をジワジワと広げ、7周目には1位山野選手から3位の蒲生選手までが2秒づつと均等に差が開く。このままゴールへ向けて山野選手が進むと思われた8周目の3コーナーすぎで、車両トラブルによりまさかのスローダウン。そのまま第1ヘアピンでクルマを止めてしまう。これで、トップが平岡選手に入れ替わり、2番手が蒲生選手、3番手には予選6位から順位を上げてきたNo.962織戸学選手(TRwithCOLLARS86)という順位になり、そのままの隊列で10周のチェッカーを迎えた。
ヴィッツやマーチなどのワンメイクレースでチャンピオン経験を持つ平岡選手は、今回の第6戦が初のエントリーだったが、見事に初出場で初優勝を決めるという劇的な幕切れとなった。
次戦のGAZOO Racing 86/BRZ Raceは、今年のシリーズを締めくくる最終戦。11月2日、3日にツインリンクもてぎで、今回と同じくスーパーGTの併催レースとして開催される。
開幕戦から3連勝を飾り第5戦の十勝スピードウェイでも勝利し、シリーズ2戦を残してGAZOO Racing 86/BRZ Raceの初代チャンピオンになったNo.7 山野直也選手(P.MU RACING 86)。チャンピオンは、すでに決定したが、シリーズランキングの2位以降は混戦の様相を呈している。
前戦を終えてのシリーズ2位は46ポイントのNo.557 大西隆生選手(オートバックスG786ポテンザ)、3位は35ポイントのNo.37蒲生尚弥選手(ケンダタイヤ86)、4位は33ポイントのNo.100富澤勝選手という状況だった。
オートポリスラウンドは、通常の獲得ポイントの1.5倍が与えられる重要な戦いで、3者ともに大量ポイントを狙っているのは当然。
ランキング2位の大西選手と4位の富澤選手は、ともにオートポリスを走るのが初めてということで予選、決勝ともに難しいレースになるだろうと、4日の金曜日に行われた練習走行のときに語っていた。対する蒲生選手も走行経験はあるが、豊富にあるわけではなくウエットを走ったことがないので、雨が予想されていた予選がどうなるか分からないとのことだった。
迎えた予選は、「難しい路面コンディションだったが満足の行くタイムアタックができた」という蒲生選手が3位を獲得。5位を獲得した富澤選手も「練習走行よりも上位との差がなくなり、目標だったトップ5に入れて良かった」と語る。納得の予選ができた両者に対して、大西は悔しそうな顔をして「セッティングを外したわけではないが、もう少し上の順位からスタートしたかった」と言葉少なだった。
ドライコンディションとなった決勝では、それぞれが毎周激しいバトルを繰り返しながら上位を目指した。蒲生選手は中盤から単独3位を走行し、山野選手が車両トラブルにより後退し2位でフィニッシュ。富澤選手は、激しい3位争いの集団で揉まれながら5位でゴール。大西選手もスタートから1つ順位を上げて9位でチェッカーを受けた。
この結果を受け、蒲生選手が57.5ポイントで、現在有効ポイント46の大西選手を逆転。富澤選手も45ポイントまで伸ばし2人を追うことになった。
GAZOO Racing 86/BRZ Raceは、全7戦の内の5戦が有効ポイントになる。つまり高ポイントを取った5戦だけがカウントされるので、最終戦のツインリンクもてぎで上位フィニッシュをすれば順位が逆転する可能性もある。まだまだ目が離せないのがシリーズ2位争いなのだ。
多くのビギナードライバーやアマチュアドライバーが参戦しているGAZOO Racing 86/BRZ Raceでは、毎戦プロドライバーをアドバイザーに招いたドライビングレッスンを開催。ドライビングレッスン以外でもパドックなどでプロドライバーに気軽に質問できアドバイスを受けられる体制を整えている。
今回は、福岡県柳川市出身でオートポリスが地元となる井口卓人選手がアドバイザーとして迎えられた。
予選前日の4日(金)には30分の練習走行が2本設定されていて、井口選手も86Racingデモカー#101で走行を行い、エントラントの走行を実際にコースからチェック。走行時にはオンボードカメラを撮影していて、練習走行後に行われたドライビングレッスンで、そのオンボード映像を公開した。
オートポリスは地域柄、初めて走行するエントラントや走行経験の少ない人も多いこともあり、ドライビングレッスンには30名以上の参加者が井口選手のレクチャーに耳を傾けた。
ドライビングレッスンは、まず井口選手のオンボード映像をモニターで流し、走行ラインやブレーキングポイント、タイムアップにキモとなるコーナーなどを紹介。
オートポリスは、山間部にコースがあり、傾斜地にレイアウトされているため起伏が激しい。ホームストレートはフラットだが、1コーナーから先は下っていき、中盤セクションもアップダウンがあり、最終コーナーに向けてまた登っていくテクニカルなコース。
井口選手によると「後半の登りセクションでタイムの差がでやすい」と言う。その辺りのライン取りやドライバーの目線など丁寧に説明を行っていた。
また、練習走行はドライコンディションだったが、予選はウエットが予想されていたため、コース上で水が溜まりやすい箇所や危険なコーナーについても的確にアドバイス。
レースを楽しみたい、ドライビングが上手くなりたいというエントラントが多いため、レクチャーが終わっても、オンボード映像をチェックするなど、真剣な様子が見受けられた。
ビギナーからアマチュア、プロドライバーなど様々なエントラントがいるGAZOO Racing 86/BRZ Race。その中には、プロドライバーの道を歩んでいる若手も含まれている。
BRZ勢では最大のチーム体制で参戦している「KOTA RACING」。スーパーGTのBRZと同じNo.61でエントリーする近藤翼選手(マナチュラKOTA-R BRZ)とNo.610 元嶋佑弥選手(KOTA-R R-S BRZ)は、シリーズポイントでも上位に付けていて、GAZOO Racing 86/BRZ Raceでも注目される若手ドライバー。両名ともKOTA RACINGがシリーズ開幕前に行ったドライバーオーディションで年間参戦の権利を勝ち取ったドライバーになる。
ともにスーパーFJやFCJなどのフォーミュラレースを経験していて、優勝を記録するほどの戦績も持っている。そんなフォーミュラ出身の彼らがN0規定で製作したBRZのレースカーをどのように感じているのだろう。
元嶋選手によると「ダイレクトにクルマの感覚が伝わってくるフォーミュラに対して、BRZのレースカーはワンテンポ遅くクルマの状態が伝わってきます。なので、それを予測してコントロールしないといけません。序盤戦はどのように運転すれば速く走れるか悩んでいましたが、いまではクルマにも慣れました。ただ、もう少し予選での一発のタイムが上がるように努力したいです」とフォーミュラとハコ車の違いに加えて今後の課題についても語ってくれた。
今回のオートポリスラウンドでは、近藤選手、元嶋選手ともに予選ではウエットの路面コンディションに翻弄され、本来の力を出せなかった。だが、ドライになれば自信はありますと語ってくれたように決勝では、今シーズンで一番のパフォーマンスを発揮。
予選18番手からスタートした元嶋選手は、表彰台争いに絡み3位とは、0.06秒差の4位。30位からスタートした近藤選手は、怒涛の追い上げをみせて7位でフィニッシュし、決勝レースで23台を抜いたということで、GAZOO Racing PARTNERS賞を受賞。ともにポイントを獲得し、満足な決勝レースだったとコメントをくれた。
開幕の富士スピードウェイラウンドからシリーズ参戦している「No.666 さいたまCITYボメックス86」。
今回のオートポリスラウンドでステアリングを握ることになったのは、モータージャーナリストとして雑誌媒体への寄稿や自動車メーカーのドライビングインストラクターを務めている斎藤聡選手。
そこで、様々なレースカーや市販車をドライビングしてきた斎藤選手に86Racingの印象を伺ってみた。
「ノーマルの86は色々なドライビングスキルを持った人が運転することを想定しているため安定志向のセッティングを施している。86Racingは、レースをすることを前提としているので、その安定思考のレベルを底上げしている感覚。コントロール性は高いままなので、挙動が唐突に乱れることがないし、非常に乗りやすい」というのが第一印象だという。
ただ、レースだとタイムが出るスイートスポットがあり、そこを見つけ出すのが難しいとも感じているそうだ。
レースについては、「ワンメイクレースなので、基本的に抜くのが難しいけど、上位陣が接触を避けるようにクリーンなレースをしているようにみえる。だから、中段以降のドライバーもなるべくクリーンなレースしようと真似しているのではないか。それと、自走でサーキットに来る人もいるからバトルはしたいけど、キレイな状態で帰りたいと思っているはず。そんな思いを持ったドライバーが多ければ、これからもいいレースが続けられるはず」とバトルを楽しみつつも悪質な接触のないレースが展開されているそうだ。
また「GAZOO Racing 86/BRZ Raceは、ドライバーを育てるのはもちろん、調整範囲の少ないマシンをどのようにセッティングするかというメカニックの訓練にも最適だと思う」とチームの全員が育っていく環境が揃っている入門レースだと語ってくれた。
海の幸、山の幸に温泉、雄大な景色を有する阿蘇山など、大分県と熊本県の県境にあるオートポリスには、レース観戦以外にも魅力が多い。
大分県日田市にあるオートポリスだが、阿蘇外輪山の北側に位置しているので、大分市よりは熊本市からアクセスする方がやや近い位置にある。熊本市からクルマで移動してくると阿蘇の外輪山を通ることになるのだが、その景色が実に素晴らしい。広大な草原に放牧された牛や馬などを見ると、ここが日本なのかという錯覚にさえ陥ってしまうほどだ。
観光に加えて是非、お勧めしたいのが「ご当地グルメ」。熊本は馬刺し、大分は関サバ、アジなどが有名だが、その他にも地元産のあか牛や豊後牛、ごまだしうどんに人吉ラーメンなど名物を挙げれば切りがないほど。
これら両県の美味しいご当地グルメが、サーキット内のイベント会場でも食べることができるのだ。
1コーナーの外側に設置されたイベント広場には、「おおいた味力(みりょく)フェスタ」「くまもと新ご当地グルメ」と名付けられた両県のコーナーがあり、10店舗以上の屋台が出展している。どの屋台にもお昼どきには多くのお客さんが並び、絶品グルメに舌鼓を打っていた。特に、阿蘇のあか牛とブランド豚「香心ポーク」の合いびき肉をパテに使った阿蘇バーガーは、味もボリュームも抜群で人気商品となっていたようだ。
グルメとともに外せない「温泉」も、実はオートポリスで体験できる。天ヶ瀬温泉というオートポリスから近い温泉地の旅館組合が、源泉をタンクに貯めて足湯として温泉を楽しめるブースを設置。こちらも多くのお客さんから好評を得ていた。
他のサーキットにはない、「食」「温泉」「自然」といった魅力的な観光資源が豊富にあり、レース観戦とともに楽しめる要素が豊富に揃っているのがオートポリスの最大の特徴といえる。
順位 | Car No. | 車両 | ドライバー |
---|---|---|---|
1位 | 296 | ワコーズ制動屋レイズ平岡塾86 | 平岡塾長 |
2位 | 37 | ケンダタイヤ86 | 蒲生 尚弥 |
3位 | 962 | TRwithCOLLARS86 | 織戸 学 |
順位 | Car No. | 車両 | ドライバー | 合計 ポイント |
---|---|---|---|---|
1位 | 7 | P.MU RACING 86 | 山野 直也 | 105 |
2位 | 37 | ケンダタイヤ86 | 蒲生 尚弥 | 57.5 |
3位 | 557 | オートバックスG786ポテンザ | 大西 隆生 | 49 |