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2013年のキーパーソンに聞く
伊藤大輔(LEXUS TEAM KeePer TOM'S)

これまでのトレーニングが大きな武器になっている

第2回 ドライバーのトレーニング(1/2)

伊藤大輔選手へのインタビュー2回目は、今やレーシングドライバーとしても必須のフィジカル(体力)トレーニングについて聞いてみました。他の競技で活躍するトップアスリートと同様に、いやそれ以上に追求している伊藤選手。どんなきっかけで始め、現在のトレーニングの手法など語ってくれました。

最初はトレーニングに積極的ではなかった

−−伊藤選手は、熱心にフィジカルトレーニングに励んでいる印象が強いのですが?

伊藤大輔(以下伊藤):そうですね。SUPER GTに参戦しているトップドライバーなら当然でしょうが、皆いろいろな考え方でトレーニングをやっています。その中で、僕は人に負けないぐらいやってると思っています。

−−クルマを走らせるだけのドライバーだと、体力はあまり関係ないようにも思えますが?

伊藤:確かに、普通のアスリートのトレーニングに比べて、モータースポーツのトレーニングは少し状況が違っています。
 スポーツと言ってもモータースポーツに分類されるもので、使用する道具の性能が占めるファクターが他に較べて大きいと思うんです。もちろん、たとえば陸上競技ならランニングシューズの良し悪しも関係してくるのでしょうが、レースにおけるクルマの性能差ほど勝敗を左右することはないと思います。それにプラスして道具を使う技術、体力よりも先に技術の方が大切になってくるスポーツです。そういう意味では、僕自身も最初はトレーニングに対してあまり興味はなかったですね。
 トップカテゴリーに出るようになってからも、やはりSUPER GT(の車内)は暑かったし、フォーミュラ・ニッポン(現在のスーパーフォーミュラ)は強烈なGがかかるので、腕力だったり身体の強さが必要なのは知っていました。でも、トレーニングの量とレースの結果がリンクしないことがつまらなかった。どれだけトレーニングをして、万全の態勢でレースに臨んでも、クルマの調子によって結果が出ないこともあったりしたし、逆に体調を整えていなくても、クルマの調子が良かったら勝ててしまう。そういうこともあったので、自分が積極的に身体的なトレーニングをしなきゃいけないという気持ちを持ってなかったですね。

苦手なランニングが車のセットアップと同じだった

−−そんな伊藤選手が、フィジカルトレーニングに励むようになったきっかけは?

伊藤:専属でついてもらっていたトレーナーが陸上部出身なんですが、実は僕、走るのが苦手で...。でも、トレーナーの母校の市立船橋高等学校(千葉県にあるサッカーや野球、陸上競技などの強豪校)の陸上部と一緒にトレーニングをやらせてもらったんです。
 そもそも僕は陸上競技を専門的にやったこともなく、興味もなかったんです。それが、やってみると(ランニングは)モータースポーツの"技術"の部分と一緒だと感じました。「速く走る、スムースに足を運ぶためにはこういう動きが必要なんだ」「正しいフォームで走るために、フォームを矯正するために、この筋肉を鍛える」。そんな話をトレーナーからいろいろ聞いていると、そういった考え方が「このコーナーを走るためには、こうした方がいい」というレースの考え方にリンクするんですよ。この結果に対して突き詰めていく考え方が、(レーシングカーのセットアップに似ていて)とてもおもしろく感じたんです。
 そうしたら、レースのためのトレーニングというより、トレーニング自体がおもしろくなったんです。レースもセッティングを進めれば、どんどん速くなってきたなっていうのが分かるじゃないですか。それと一緒で、走りが苦手な自分がフォームを矯正したり、必要な筋肉を鍛えたりするうちに、速く走れるようになっていく。これで「トレーニングっておもしろいな」って思うようになりました。それが3、4年前。結構最近なんですよ。

−−トレーニングはレースの結果と関係ないのですか?

伊藤:確かに僕は、ストイックにレースのためにトレーニングをやっているというより、トレーニング自体が楽しいというところから始まっています。
 最近は陸上だけでなく鉄棒もやるようになって、それも上達する。でも、それ自体がレースに関係なくても、体を鍛えることで、結果的にレースにリンクさせるようにしたんです。フィジカルトレーニングを行い、さらにクルマを運転するのに必要な部分をトレーナーと相談していく。レースの前後にここが足りないから、そこを鍛えるメニューにしようとか、どんどんとリンクさせるようになっていきました。

−−例えば1週間のうち、何日間、トレーニングしていますか?

伊藤:年間通して、トレーナーと過ごすのは週2日ですね。レースやテストなどの仕事がなかったり、時間が取れる時には、そのトレーナーのメニューとはまた違ったメニューをやったりとか、それも週2回くらいしてます。だから毎日毎日やっている、というわけじゃないんです。

−−シーズンオフとシーズン中だと、トレーニングのメニューも違うんですか?

伊藤:シーズンが始まったら、身体の休息も必要なので、ガッツリ鍛えるのではなく、レース前の調整とレース後のクールダウンのような感じのメニューに変えて、コンディショニングみたいな形にしています。そして、レースが長期間ない時はまたガッツリ鍛える。それの繰り返しをトレーナーと相談しながらやってます。