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2013年のキーパーソンに聞く
伊藤大輔(LEXUS TEAM KeePer TOM'S)

とても楽しみな2013年。とにかくタイトルを獲りたい

第3回 2013年のタイトル獲得を目指して(1/2)

伊藤大輔選手のインタビューもいよいよ最終回。今回は、今シーズンの展望について語ってもらいました。移籍したことで気付いたこと、レーシングカーのセットアップについて、今季の目標など、興味深い話を次々と話してくれました。

同じSC430でもチームによって違うクルマの個性

−−今シーズンはLEXUS TEAM TOM'Sに移籍することになりました。

伊藤大輔(以下伊藤):移籍の話を聞いたのは昨年の12月初め。TEAM TOM'Sが2台になるってことは聞きましたが、36号車と37号車のどちらに乗るのか、またパートナーは誰になるかなど、何も決まっていませんでした。

−−移籍が決まったことに関してどう思いましたか?

伊藤:最初は、5年間もLEXUS TEAM LeMans ENEOSに在籍していたので、若干の戸惑いはありました。でも、同時におもしろそうかな、楽しみだなって。新しいチームに移ることもですけど、TEAM TOM'Sに行くっていうのが特に楽しみでした。

−−それはどういった理由なんですか?

伊藤:チームが違えば、エンジニアさんも違っていて、エンジニアそれぞれに個性が違ってるんです。その個性っていうのはクルマをセッティングするコンセプトですよね。どこを重視してるかで、同じLEXUS SC430でもそれぞれクルマのキャラクターが全然違ってくるんです。
 例えば、昨年までいたTeam LeMansでは山田健二エンジニアがチーフをやっています。全日本F3選手権でもチャンピオンになった車両を手掛けているだけに、フォーミュラカーを基本としたしっかりとした考え方があります。僕自身の運転スタイルとも近いところがあって、非常にやりやすかったし、いいクルマを作ってくれました。
 TEAM TOM'Sの37号車は小枝正樹チーフエンジニアが担当しています。そして、東條力チーフエンジニアが中心になってチームを統括していて、Team LeMansとは一味違ったクルマ作りをしている。
一言で言うと、どんなコンディションでも高いパフォーマンスで走れる安定したクルマ。
レクサスに移籍してきてから何度かテストで36号車をドライブしたことがあったんですが、そのイメージは当初から一貫している。
  今シーズン僕がドライブする37号車は、昨年は35号車として別のチームで走っていたクルマなんです。でも37号車として今年乗ってみると、昨年36号車をテストドライブした時と同じTEAM TOM'Sの味付けになっている。
こんな風にエンジニアのキャラクターの違いが、きちっとクルマに表れているのがおもしろいですね。

−−あえて言うならTeam LeMansのクルマは速く、TEAM TOM'Sのクルマは強い?

伊藤:そうですね。Team LeMansのクルマは良くも悪くも"尖って"います。それだけ空力やクルマの姿勢が、ものすごく繊細に精度よくセットアップされているんです。だから、その時のコンディションとクルマ(のセッティング)がピタリと合った時には、とんでもない速さを発揮します。
 一方、TEAM TOM'Sのクルマは、常に上位で走れる強さを持っている。レースでコンディションが変わっていってもコンスタントに速く走ることができる。更に、チーム全体の雰囲気が良く、関谷監督を中心にエンジニア、メカニックのまとまりがある。これが実戦での強さに現れていますよね。

運を持ってこられるだけの実力がなかった

−−昨年、Team LeMansで初優勝を果たしました。2007年にGT500チャンピオンになっている伊藤選手としては、在籍5年目の勝利。ちょっと時間が掛かりましたね。

伊藤:簡単に言ってしまえば"運"がなかったっていうことですね。『運も実力の内」という言葉が僕の中にリンクしていて、運を持ってこられるだけの実力というか、"自信"ですよね。要はその自信を、チームスタッフもドライバーもみんながどこまで持ってこられるか、なんです。
 僕がTeam LeMansに入る前、チームは低迷が続いていました。それを立て直すために、僕が呼ばれたわけです。しかし、立て直しを図っていく中で、皆が確実にレベルアップしていくのは分かるのに、どことなく勝ち癖がついていなくて、どこかで何か不安をもっていて。そのために勝負の運をもってこられなかったっていう気がしますね。

−−昨年の第3戦セパンでも、練習走行ではトップタイムにも関わらず優勝を逃しました

伊藤:セパンは予選のアタック前にエンジントラブルとなり、決勝は最後尾スタート。でも終わってみれば3位まで上がったし、クルマのパフォーマンス的には圧倒的に速くて、絶対に勝ちレースだったよねっていう感触でした。  レースが終わった時に、ドライバー、メカニック、マネージャーまでもが「あれ、ウチのチーム勝てるんじゃないの」って。さっき言った"自信"をみんなが持ったわけです。だから次のスポーツランドSUGOのレース、ウェイトハンデを積むけどまだ問題なく戦えるし、セパンのあの速さがあれば『何が起きてもいける!』っていう自信が持てていた。
 クルマのパフォーマンスで言えば、優勝したSUGOよりセパンの方が良かったんです。そんな中で優勝できたのは、たまたま運を呼び寄せたっていうだけ。予選もポールポジションを獲れたけど、土曜の練習走行の走り始めなんか、どうしようかっていうくらいクルマの調子が悪い時もあって。でも、がんばって調整してたら結局「予選でもポール獲れたね」って。
 SUGOの決勝スタートでは僕がちょっと失敗してしまったんですけど、先んじた日産の2台が揃ってクラッシュ。あのときは完全に運を僕らが持っていたから、あの結果になったわけだと思います。もし普通にスタートしていたら、日産の2台と一緒にクラッシュしたかもしれない。いろんな意味で、セパンで得た自信がSUGOに運をもってきてくれていた。
 その運を作り出せなかったって言うことが、(Team LeMansの)5年間で1回しか勝てなかった最大の理由の一つかなと思います。