メニュー

2014チャンピオン/RI4Aエンジン開発ドライバー 中嶋一貴
with RI4Aエンジン開発エンジニア 佐藤真之介
後編(2/2)

後編「エンジニアにちゃんと伝えることが勝利に繋がる」

開発ドライバーに大切なこと。エンジニアに伝える言葉

--今季は新エンジンが投入され、開発も苦労があったと思います。中嶋選手が開発ドライバーを担当されましたが、それはなぜですか?

インタビューに答える中嶋一貴選手 佐藤RI4Aエンジンの開発においては、僕が中嶋選手にテストドライバーをお願いしました。彼は僕らが期待していた能力を十分に発揮してくれたと思います。
開幕戦はレース結果を別にして十分に速かったし、シーズン中盤に伸び悩んだのは、相対的に周囲のセットアップが進んだと部分、JPとかロイック(デュバル選手)らが急速に延びたことに対して、伸び代が足りなかったのかなと。遅くなったのではなく周りの伸び代があったと認識しています。後半戦は燃料流量リストリクターの規制に対して、上手い適合とチームとのリンクが課題でした。これは中嶋選手だけでの問題ではないですが。ただ、最後ちゃんと帳尻を合わせてくるのはさすがだなと(笑)。

中嶋はは(笑)。

--佐藤さんのご指名なんですね。開発ドライバーとして中嶋選手のどこが優れているのですか?

佐藤僕も中嶋選手もF1エンジンの開発を経験しています。F1のテストは非常にシステマチックに行われるのですが、それは効率を考えてです。特にテスト(日数)に制限が掛かってからは、さらに効率的にやらないと課題が終わらない。そういう仕事の進め方で、僕が理想としている手法を彼が知っているし、そこを分かっていてくれるのがありがたいですね。あと、彼のパーソナリティもありますね。誰にもフレンドリーですから。
具体的な面で言うと。ドライバーはどうしてもクルマを感覚で表現します。何メーター手前で、何パーセントのブレーキをしたら、車高が何ミリ下がってなんて言えない。感覚的な言葉であることはしょうがないです。僕らトラックエンジニアは、このアナログなぼやけた部分をデータと照らし合わせて具体的な数字にして、どういう現象として起きているのを掴んだ上で、リアクションを考える。そこの言葉が、中嶋選手の場合は分かりやすいんです。

--中嶋選手はそういった部分を意識して話しているのですか?

佐藤真之介エンジニアとアンドレ・ロッテラー選手 中嶋そういった伝え方は大事だと思ってます。特にWECやSUPER GTなど複数のドライバーとクルマを乗るカテゴリーだと、同じクルマをそれぞれが表現するじゃないですか。その表現の仕方とかは勉強になりますね。同じ状態を違う言い方で表現することを聞いて、自分とどちらがちゃんと伝わるかとか考えることはありますね。それがちゃんとできているかは、自分では分かりませんが(苦笑)。
今年のRI4Aエンジンのように、ゼロベースから開発をするというのは経験が無かったので、単に自分が乗りやすいようにリクエストしていきました。それに対して迅速に応えてもらえましたね。自分として良かったと思うのは、他のドライバーも乗るわけですけど、他のドライバーから(佐藤さんが)文句を言われているところを見なかったことですね。

佐藤なかったです。

中嶋だから、ちゃんとできたのかなぁと。その意味では安心しました。(開発は)最初の頃は大ざっぱですけど、違いは分かりやすい。でも、だんだん細かくなってきて、分かってるようで分かってない事とかでるじゃないですか。気になればデータを確認して、違ったら違ったで経験になる。それで良いと思います。

佐藤テストではアンドレにも、JP、ロイック、ジェームス(ロシター選手)と、有力な選手たちにも乗ってもらいました。

中嶋みんなで少しずつシェアもしてますし、それも良かったと思います。

佐藤1人のドライバーにフォーカスしてとがったクルマにすれば、めちゃめちゃ速いクルマにもできる。そうすると偏ってしまう。バリエーションもなくなる。そこから外れたときに手が打てなくなってしまいます。 それもあっていろいろなドライバーに乗ってもらいました。そこで出たものを確認するのが、中嶋選手の役割でもありますね。アンドレと中嶋選手にしても、好みの違いというのはあります。一方で、ここは共通して良いという部分もある。若いドライバーに乗ってもらったときはスタンダードを中嶋選手にやってもらってとかね。そのスタンダードの中で、まかなえていたので、そういった面ではしっかり作ってもらえたと思いますね。

さらに進化する2015年仕様RI4Aエンジンが12月のテストに登場

--興味深い話しをいろいろ聞き、また今年のレースダイジェストを見たくなりました。さて、気になるのは来年、2015年シーズンのエンジン開発は始まっているのですか?

佐藤現状のRI4Aエンジンはドライバビリティが良いと言われていますが、やはりNA(自然吸気)には及ばない。究極はNAと同じようなドライバビリティを目指していきたいです。
NAには気持ちよさがあります。ターボですから同じにはならないでしょうが、「ターボだから」を当たり前と言わずに、そこを突き詰めていきたいです。
来季仕様のエンジンは12月10、11日の岡山テスト(※)で、中嶋選手に乗ってもらい、評価してもらいます。(※)インタビューは岡山テストの前に行われました。

中嶋ドライバーが求めることを集約すると、ターボでも「よりNAに近いエンジンが良い」ですし、今より「パワーが欲しい」です。RI4Aエンジンは、そこ以外はもうないというくらいのレベルですから。細かいことは言えばありますが、そこは主要な部分ではないですから。なんとなーく、良いウワサは耳にしてますから、とても期待しています(笑)。乗るのが、とても楽しみです。

--最後に中嶋選手、佐藤エンジニアの来シーズンの目標を聞かせてください。

中嶋現時点で確定しているわけではないですが、自分としては今年と同じ体制で行ければと思ってます。スーパーフォーミュラでは、最低限今年くらいの結果を残したい。今年はタイトルを獲れましたが、個々のレースで良くない点もありましたから、そこを底上げしていきたいですね。

佐藤来季エンジンに関しては、(出力やドライバビリティの)数字的にも満足できる部分に来ています。来年も左うちわでいられると良いですね(笑)。
実は、僕は来週のテストを最後にスーパーフォーミュラの担当から離れることになっています。とは言っても、来年の仕様を決める時期ですから、そこはきっちりやっておきます。
そこまで準備した上で来年はヨーロッパに向かいます。WECの7号車の担当になるのかなぁ? だから、個人的な目標を言わせていただきます。今年、トヨタはWECでもチャンピオンを獲得できましたが、ル・マンに置き忘れたものがあります。それを中嶋選手と一緒に掴んできたいですね。

中嶋一貴選手と佐藤真之介エンジニア

皆さんのご声援のおかげで、中嶋一貴選手は2014年のドライバーズチャンピオンを、PETRONAS TEAM TOM'Sはチームチャンピオンを獲得することができました。TOYOTA Racingとしても7大会9レースで8勝、7回のポールポジションと素晴らしい結果を挙げることができました。今シーズンもありがとうございました。2015年シーズンも皆さんのご期待に応えられるよう、TOYOTA Racing全員でがんばりますので、ご期待ください。

カルミネ 表参道スタンド 取材協力:
カルミネ 表参道スタンド
〒150-0001 渋谷区神宮前6-6-2
http://www.carmine.jp/stand.html