メニュー

グランツーリスモ6
中嶋一貴×山内一典 対談 前編(2/2)

グランツーリスモ6をプレイする中嶋一貴選手

レースの現場でやるのとまったく同じ作業を、このゲームの中でやるわけですね。すごい世界ですよね中嶋一貴選手

中嶋1コーナーでブレーキを少し残さないと、リアが出てオーバーステア気味(※)になったりしますね。そこを改良するともっと実車に近くなります。あと、(富士用としては)ギア比も合っていなかったように感じました。

山内そうですね、本来であれば前後の車高を変えたり、ダウンフォースのバランスを整えたりという作業をすれば良かったんですけど。今日はとりあえずセットアップそのままで乗って頂きました。1コーナーでオーバーステアが強いとか、コカコーラコーナーでアンダーステア(※)が強いと注文があれば、それぞれやれることはあるわけで、それを(セッティングとして)対応すればもう少し乗りやすいクルマにできるとは思います。
※:クルマがハンドルの切り角以上に曲がり、リアがアウト側に振られる状況がオーバーステア。逆にハンドルを切ってもフロントがアウトに逃げて曲がらない状況をアンダーステアという。

中嶋本当にレースの現場でやるのとまったく同じ作業を、このゲームの中でやるわけですね。ハイブリッドの効果については、情報がもっとあれば、よりリアルになるでしょう。すごい世界ですよね。

山内想像するにあたって結構悩ましかったのが、キャパシタ容量の再現なんですよ。例えば今日みたいに連続周回していると、キャパシタに貯めた電気エネルギーが減って、最終コーナーの立ち上がりで残り30%くらいになる。すると、立ち上がった瞬間に(電池切れで)モーターは働かなくなってしまうんです。でも本来ならば、ストレートでの加速に向けて一番モーターを使いたい所じゃないですか。これ、ドライバー側の対応で残せないのかなぁといろいろ考えたんですが...。僕らも時間がなくて、今回はそこまで対応できませんでした。

TS040 HYBRIDのCG図、キャパシタはこのように積まれている

中嶋実物ならばブレーキを踏めば回生するし、そこで(電気エネルギーを)残すためにその前で使わないようにしておくように走ったりします。今年のクルマはレギュレーションが変わったので少し違うんですけどね(※)。去年までであれば、セクターごとにここでは使わないで、ここに使おうとかいう走り方も必要でした。本当にハイブリッドのクルマをゲームの上で再現するのは大変だと思いますよ。
※:昨年までのレギュレーションでは回生できる区間がコースごとに決まっていた。

山内今僕らがゲームの中で入れている制御は、どのコースでもそこそこ走れてしまう内容になっているんです。でも実際のWECのレースでは、コースごとに(セッティングが)違ってきますよね。でもゲームに入っている膨大な数のコースのすべてで、ここは回生を使うべきかどうかという制御を組み込むことはさすがにできません。それで、とりあえずどのコースでも走れるセットアップにせざるをえませんでした。

中嶋それはそうですよね。

山内実際のレースチームでもレースごとにコースに合わせたシミュレーションをして、あそこはこうしてあそこはこうしてというハイブリッドの設定を毎回やらなければならないので大変でしょうね。

去年のポールポジションに匹敵するタイムが出ましたね。びっくりしましたし、嬉しかったですよ山内一典プロデューサー

中嶋ゲームの中で、本当に実際の現場と同じようなことをやっているんだなあと、山内さんの話を聞いていて本当に驚きました。

山内僕はTS030 HYBRIDの取材に去年...おととしかな、TMGにうかがってクルマ作りの方法を教わったんですけれども、僕らがゲームを作る方法と実はまったく同じだったんですね。まずシミュレーションがあって、シミュレーターでのロギング(データ収集)、シミュレーターでのドライバーフィードバックがあって、そこから実際の走行テストがあって、そこからのドライバーフィードバック、ロギングと。それをぐるぐる回すんですね。それってゲームの開発でもまったく同じなんですね。驚きました。そういう意味では、僕らとしてはテストドライバーとして中嶋選手が欲しい(笑)。ゲームを開発する過程でもドライバーのフィードバックは非常に重要で、それでデータをつきあわせてみて、新しいシミュレーションモデルを作って見る。

中嶋僕は、何もモノ(実車やデータ)として手元にない状態でこれを作って、そんなリアルに近いタイムが出ると言うことに驚きました。基本的な情報を使ってはいるんでしょうけど、ほとんどを想像で作ってここまで近づけられるのはすごい。多分実際にレーシングカーを開発している人やエンジニアと同じ作業をした結果なんだと思いますよ。

山内それにしても、去年のポールポジションと同等のタイム(1分26秒545)が出ましたね。正直、びっくりしましたし嬉しかったですよ。

中嶋一貴選手と山内一典プロデューサー

中嶋グランツーリスモ6を試してみて、実車のTS030 HYBRIDの特徴が十分に表現されていると思いました。僕らはブレーキを踏んだときにどれだけ止まって、ハンドル切ったときにどれだけ曲がって、アクセルを踏んだらどう加速するかということで判断するわけですけれども、ブレーキングポイント、クルマの挙動、コーナーをまわっているときのバランス、グリップ感は本当に近いです。本当にレーシングカーと同じセッティングができるようですから、レースの現場にエンジニアとして山内さんがいらっしゃったら、乗りやすいクルマにしてもらえるのかもしれませんね(笑)。このソフトをそのままレースカー開発の専用シミュレーターに入れても通用するんじゃないかな。と言うよりも、ほぼシミュレーターと言っていい出来ですよ。


目次ページ

  1. 前編:レースの現場にエンジニアとして山内さんがいたら、乗りやすいクルマにしてもらえるのかもしれませんね(笑)(2014年10月1日公開)
    1. 1. TS030 HYBRIDのパフォーマンスが非常にリアルに再現されている。想像でここまでできるんですか?
    2. 2. レースの現場でやるのとまったく同じ作業を、このゲームの中でやるわけですね。すごい世界ですよね

  2. 後編:LMP1ではあれだけ技術的に異なるアプローチをしているのに、ラップタイムは同じところに近づくというのは、たまらない技術競争が行われているのだと思います(2014年10月6日公開)
    1. 3. ゲームやシミュレーターはアイディアをまず試してみるのに向いていると思います
    2. 4. グランツーリスモを通じて、レースカーのドライブが難しいモノということがわかってもらえるきっかけになる