メニュー

グランツーリスモ6
中嶋一貴×山内一典 対談 後編(1/2)

グランツーリスモ6に収録されているTS030 HYBRID 2012年仕様

レーシングカーの開発とグランツーリスモ6の開発に共通点を見いだした中嶋一貴選手とグランツーリスモ6プロデューサーの山内一典氏。さらに話しは盛り上がっていきます。そして、間もなく開催されるWEC富士での注目点など、山内氏ならではの視点も披露し、中嶋選手もドライバー視点で答えてくれました。これを読むとWEC富士もさらに楽しみになっていきます。

ゲームやシミュレーターはアイディアをまず試してみるのに向いていると思います山内一典プロデューサー

山内最近、僕よく思うんですけども、リアルな世界の方がよりゲーム的世界に近づいたというか進化したというか、そういう感じがするんですよ。ハイブリッドカーのレースもそうですし、今のF1もそうですよね。クラシックなモータースポーツ観からすると、とてもゲーム的になった。元々僕らはゲームの中で、例えばオーバーテイクボタンのような機能を入れるのはたやすいんですけれども、ホンモノがやっていないんだからやってはいけないものと思っていたんです。ところが最近はホンモノが取り付けるようになった。

中嶋ホンモノのレースにも、ある程度ゲーム性がなくちゃいけないということから生まれた発想でしょうけどね。

山内今回、もし時間があったら、実は今年のレギュレーションのクルマも作って見ようかなと思っていたんですよ。今年の規則に合わせて単純にMGU(モーター/ジェネレータユニット)のパワーを上げたり、キャパシタの容量を増やしたりするのは、この世界(ゲーム)ならば一瞬でできるので、たとえばTS040 HYBRIDのようなTS030 HYBRIDをパッとこの場で作ることもできるんです。そうすると今年の富士でどれくらいのラップタイムが出るんだろうという興味はありましたね。最初に浮かんだアイデアをまず試してみるのには、こういうシミュレーターはとても向いていると思います。

中嶋実は、実車開発の過程では同じ作業をしていると思うんですよ。(レースカー専用)シミュレーターの上で。すでに使われているし、そういう作業なしには開発の進むスピードが全然違うモノになると思います。ただ、実際に走らせてみないとわからないことって結構あるんですよね。クルマの振動であるとかそういうことはね。本当にモノとして作って走らせてみて、わかることがある。それで少し振動が出たら当然対応をしなくてはいけない。すごいですよね、クルマは奥が深い。いろんなものが組み合わさってできているんです。

ビジョングランツーリスモのFT-1とともにTS030 HYBRIDもラインナップされている

山内ホンモノの自動車を作っていらっしゃる方が偉大だなと思うのは、僕らがシミュレーターの世界でたとえばTS030 HYBRIDを前輪駆動にしてしまうことなど一瞬のうちにできてしまうんです。そうやって遊ぶのはいいんですけど、でも実際に自動車技術者がやっていらっしゃることは、たとえばテストコースに行って見ていると溜息が出るんですよ。僕らが不具合を発見するときって、結局はデスクに座ってゲームやってるだけの話なんですよ。でも実車は、あんな広大なテストコースで、ドライバーが命をかけて走って、実際に不具合が起きたらケガしたりするわけじゃないですか。そういう規模でものを作っていらっしゃる方々の偉大さ、大変さは本当にわかります。

TS040 HYBRIDの1000馬力は昔のグループCカーのが1000馬力出していたのとは違う次元の話なんです中嶋一貴選手

中嶋TS040 HYBRIDは最大1000馬力出ます。1000馬力っていうと、すごくじゃじゃ馬のようなクルマじゃないかと思うでしょう? 僕もそう想像していたんですが、運転してみると、すごくスムーズなんです。やはり前後輪で駆動しているということがあるでしょうし、ハイブリッドの使い方もうまくできていて、非常に効率よくスムーズな感じなのにびっくりしました。昔のグループCカーが1000馬力出していたのとは違う次元の話なんです。これは、もう乗ってもらわないと伝わらないと思いますけど、このゲームはその辺も本当によくできていますね。

2014年のTS040 HYBRID

山内僕は、きちんとセットアップされたハイブリッドのレーシングカーはドライビングしている限りは普通のクルマと変わらない状態になると思うんですよね。ただ、見えないところで起きている様々なセットアップであったり制御であったり、あるいはその結果起きるレースの展開であったりというものは、モータースポーツをより魅力的な方向へ持ってくるのではないかと思っています。

中嶋本当におっしゃられた通りで、乗っている方としては結果的には普通のクルマに乗っているのと同じように操れるようにしてあるんですね。その裏で起きている技術的なことは、走っている人間は走っている間、あまり意識はしないんです。ですが、その過程はハイブリッドカーならではのものがあると思いますし、市販のクルマに使える技術であったりします。今年のクルマのハイブリッドシステムも、基本は市販のプリウスで使われているのと同じですから。もちろんレースの場で使うことによってもっと細かい制御が必要になってくるし、レースの方から技術的なフィードバックができるのだと思っています。ハイブリッドのレーシングカーは、ドライバーよりも技術者にとって非常におもしろい分野だと思います。

山内従来の"自動車"は、駆動形式の違いはあれど、(仕組みは)大体同じなんです。でもハイブリッドとして電気が入ってきた途端に、種類も様々、制御も様々で、まだまだひとつの型式に収斂していく気配は見せていない。WECでも、各メーカー違うモノをそれらしく動かさなければならない。これはおもしろいですけど大変です。今見ていてもどれも興味深いですね。


目次ページ

  1. 前編:レースの現場にエンジニアとして山内さんがいたら、乗りやすいクルマにしてもらえるのかもしれませんね(笑)(2014年10月1日公開)
    1. 1. TS030 HYBRIDのパフォーマンスが非常にリアルに再現されている。想像でここまでできるんですか?
    2. 2. レースの現場でやるのとまったく同じ作業を、このゲームの中でやるわけですね。すごい世界ですよね

  2. 後編:LMP1ではあれだけ技術的に異なるアプローチをしているのに、ラップタイムは同じところに近づくというのは、たまらない技術競争が行われているのだと思います(2014年10月6日公開)
    1. 3. ゲームやシミュレーターはアイディアをまず試してみるのに向いていると思います
    2. 4. グランツーリスモを通じて、レースカーのドライブが難しいモノということがわかってもらえるきっかけになる