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TS040 HYBRID
その進化と革新は市販ハイブリッド車と共に歩む(2/5)

TS040 HYBRIDの技術は市販ハイブリッド車と同じ基盤にある

ル・マン挑戦がもっといいハイブリッド車を生み出す

2013年アメリカで開催された「Toyota Hybrid World Tour」より
2013年アメリカで開催された「Toyota Hybrid World Tour」より
 空気の量を制限すれば、開発は限られた空気の量でいかに多くの燃料を燃焼させるかという方向に進んでしまい、現代の市販車用エンジンとは乖離した技術になってしまう。しかし燃料の量を制限すれば、開発は限られた燃料でいかにパワーを出すか、つまりエンジン本体の効率を上げるという現代の市販車エンジンが求められている方向へ進み、レースで開発した技術が市販車用エンジンを進化させるために使えるようになる。
 また、出力を増したハイブリッドシステムを有効に使うためには、効率はもちろんレスポンスに優れた回生/力行システムを開発し、エンジンとの協調制御を磨き上げる必要がある。この技術は、将来的に燃費に優れ環境に優しくしかも走りがスポーティーで乗り手に楽しさを感じさせる市販ハイブリッドカーを支える基盤になる。

 トヨタはモータースポーツ活動を展開するうえで、人を鍛え、クルマ(技術)を鍛えることで「もっといいクルマづくり」を行い、クルマが持つ夢、感動、楽しさを提供することで「クルマファンづくり」を行うという、二つのテーマを定めている。
 今やトヨタの市販ハイブリッドカーは全世界の累計販売台数が600万台(13年末時点)を超え、燃費に優れたエコカーの代表格となってますます普及しようとしているが、トヨタはハイブリッドカーを「燃費に優れたエコカー」の枠の中にとどめず、「走らせて楽しいクルマ」として可能性を広げ育てようと考えている。今年改定された規則は、まさに「もっといいクルマづくり」というテーマの方向性と一致するのだ。

 だが、今年の新しい規則の中で未知な領域、困難な領域に踏み込んでライバルを上回る走行性能を発揮し念願のル・マン24時間レース制覇を目指すための車両開発は容易ではなかった。長年にわたってレーシングハイブリッドシステムの開発を積み重ねてきたトヨタは、2012年にル・マン初制覇を目指してWECに参戦した。参戦時点ですでにフロントにもMGUを設けるシステムの実現に目処を付けていたが、昨年までは車両規則で「エネルギーの回生および力行は前輪または後輪の一方のみで行う」と規定されていたため、TS030 HYBRIDはリヤにのみMGUを搭載した。
 もちろん、リヤではなくフロントにMGUを搭載して前輪を駆動する選択もできた。MGUの制御としてはむしろリヤに搭載するより制御は容易だった。実際、ライバル車は前輪をMGU、後輪をエンジンで駆動するというレイアウトを選択している。

2012年、TS030 HYBRIDのロールアウト。この時点ですでにフロントにもMGUを設けるシステムの実現に目処を付けていた
2012年、TS030 HYBRIDのロールアウトより。この時点ですでに
フロントにもMGUを設けるシステムの実現に目処を付けていた
 しかし、リヤにMGUを搭載すればスターターモーターが廃止でき軽量化できることと、将来の4輪回生/力行システムに備えて制御の難しいリヤMGU技術を磨き上げるという理由から、リヤMGUを選択した。
 幸いにも今年からMGUの搭載が、前後ともに許された。また、ハイブリッドシステム(エネルギー回生システム)に関する規定も変更になり、昨年より多くのアシストを行うことが可能になったため、MGUを前後両方に搭載する意味が大きくなった。
 具体的には昨年の場合、サルト・サーキット(1周13.629km)には7つの区間が設定され、アシストできるエネルギー量はそれぞれの区間で最大0.5kJ、1周で最大3.5MJ(メガ・ジュール)と制限が加えられていた。しかし今年は区間ごとの制限は撤廃され、1周当たり最大8MJまでのアシストが可能になったのだ。