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TS040 HYBRID
その進化と革新は市販ハイブリッド車と共に歩む(3/5)

TS040 HYBRIDはトヨタ・レーシングのみならずJAPAN MADEの技術を結集

ル・マンで勝つため4輪アシストによるハイブリッド

後輪用MGUは昨年同様デンソー製 ギヤボックスに内蔵される形で搭載されている
後輪用MGUは昨年同様デンソー製
ギヤボックスに内蔵される形で搭載されている
 データによれば、1周のうちエンジンが駆動の約95%を受け持ち、残りをMGUがアシストするという状況だった。だが今年は、よりMGUの受け持ち割合が高まる。
 トヨタ・レーシングは規則改定を受けてTS040 HYBRIDを4輪駆動車とした。また、1周あたりのハイブリッドアシストエネルギー量は6MJを選択した。規則では、1周あたりのハイブリッドアシストエネルギー量が2MJ/4MJ/6MJ/8MJの4段階に区切られ、それに応じてエンジンが使えるエネルギー量が決まる。

 8MJまで放出エネルギー量を高めるとシステム重量が増して、車両規定で定められた最低重量870kgには収まらなくなり運動性能面でハンデを負ってしまいかねない。ハイブリッドシステムの性能と重量、さらには車両重量や重量配分が影響する車両運動性能の観点から、ベストなバランスを求めた結果が6MJである。
 ちなみに今年の最低車両重量870kgは、昨年より45kg少ない。MGUをフロントに追加しているにもかかわらず、車両は全体で昨年よりも軽くしなければならないのだ。エネルギーを6MJに抑えシステム重量を減らしただけでなく、車体各部にも徹底的な軽量化を行う必要があった。

前輪用として追加されたのはアイシンAW製MGU コンポーネントは車両運動性能を損なわないよう、前方の低い位置に置かれている
前輪用として追加されたのはアイシンAW製MGU
コンポーネントは車両運動性能を損なわないよう、
前方の低い位置に置かれている
 TS040 HYBRIDの後輪用MGUは昨年同様デンソー製で、ギヤボックスに内蔵される形で搭載されるが、今年に向けてまったく新たに開発し直された。これに加え、前輪用として追加されたのはアイシンAW製MGUだ。コンポーネントは車両運動性能を損なわないよう、前方の低い位置に置かれ、減速ギヤ及びディファレンシャルギヤを介して前輪に繋がるドライブシャフトを駆動する。
 昨年までのMGUをリヤにのみ配置するというレイアウトは、運動エネルギーを回生するという点では効率が必ずしも優れてはいなかった。というのも回生を行う減速時には荷重がフロントに移動し、フロントのブレーキが制動を負担する割合が大きくなるからだ。ブレーキを使えばエネルギーは熱になって無駄に放出されてしまう。だが今年はフロントにもMGUがあるため今までブレーキから捨てていたエネルギーも回収でき、回生の効率が飛躍的に向上する。

前後輪で回生したエネルギーはNISSHINBO製キャパシタに蓄えられる
前後輪で回生したエネルギーは
NISSHINBO製キャパシタに蓄えられる
 前後輪で回生した電気エネルギーはNISSHINBO製キャパシタに蓄えられる。キャパシタは短時間で大量の充放電に適した性質を持っており、高速からの急減速急加速を繰り返すレーシングカーのハイブリッドシステムに適した蓄電システムである。今年はMGUが2つになるので昨年に比較して同じ時間で倍の量の充電ができるようになる。この条件を全体の効率向上に反映させるためにキャパシタは有効に働く。
 回生され蓄えられた電気エネルギーは、低速からの加速時に、MGUの出力をエンジンの出力に上乗せする形で使われる。今年は前後輪ともタイヤ幅最大14インチと昨年より2インチ(5cm)狭められたこともあって、4輪で駆動した方が効果的に加速できる。また、前後のMGUでトルク配分を制御することで、ドライ路面ばかりではなく挙動が不安定になりがちなウェット路面でも効率的に駆動がかけられるようにもなる。
 4輪駆動の場合4輪をバランスよく滑らせなければうまくコーナリングができないため、そのトラクション制御は非常に難しく開発にも苦労したが、現時点では路面が不安定な雨の状態でもうまく機能していると開発陣は評価する。

 このように、エンジン及びハイブリッドシステムについてはトヨタグループの総力を結集し、主要コンポーネントを日本の技術で形作ることが、プロジェクトのこだわりであった。TS040 HYBRIDは、日の丸を背負ったレーシングカーとしてル・マン24時間レースに挑むのである。